1っか月後
「それでは次のニュースです。本日のメーデーに合わせて現代を象徴するこれまでにないデモが行われました・・・」
「AIの普及によって職を失ったと主張する人たちがデモを行ったんですね~。これまでには考えられなかった、人間がAIに対して行ったデモ。街の人たちはどう思ったのでしょうか?聞いてみました。」
【リポーター】「今回こんなデモが行われたんですがどう思いますか。」
【街人A】「私の職業もやろうと思えばAIがやれる職業なので他人事ではないと。」
【リポーター】「今回こんなデモが行われたんですが~」
【街人B】「AIに負けた奴が失業してるだけなんでいいんじゃないっすか。」
<リポーターの心中>ちょっとむかつく。
【街人C】「時代の流れで仕方ないのかなぁと。」
【リポーター】「諦めちゃってます?」
【街人C】「そうですね。ちょっと。」
【リポーター】「仕事失っちゃったらどうします?」
【街人C】「諦めて、就職先探します。」
【リポーター】「しなやかですね。」
《リポーターの心中》「俺には無理。」
ピンポーン
カチ
【唯】「よ、久しぶり。」
【伊藤】「正確には3週間ぶりやな。」
【伊藤】「最近どうしてた?」
【唯】「仕事ばっか。後はルーパーと遊んでたよ。達也は?」
【伊藤】「仕事ばっか。」
【唯】「何かいつもと違うなぁ。」
【伊藤】「ニュース見た?」
【唯】「何の?」
「AIに人間が仕掛けたデモのやつ。」
「見たよ~。」
「ゆる」。
「どう思う?」
「さあね。」
「何も思わないん?」
「深く考えてないだけ。」
「失業したらどうする?」
「私?」
「うん。」
「う~ん、実家帰ろうかなぁ。」
「いいなぁ実家農家の奴は。」
「達也はどうすんの?」
「失業オンリー。やから悩んでんねん。」
「まぁ何とかなるよ~。」
「なんね~よ。」
「NOBUNAGA部長はどういう奴。」
「どういう奴って?」
「優しいとか怖いとか・・・」
「厳しいけど意地悪ではないかな。」
「それやったら失業はしないね。大丈夫やって。」
彼氏の憂鬱は彼女の楽観にかき消された。
「この話終わり。なんかおごって。」
「今金欠。」
「ケチ~」
結局2人は伊藤の家にあった残り物で適当に食事をすることに。
最近家に常備しているチリ産ワインで乾杯し食事開始。
「達也はAI借りないの?」
「俺はいいよ。NOBUNAGA部長とのタイマンで十分やから。」
「AIより人間の方がいいし。」
「私はAIの方がいいかなぁ~、人間同士はいろいろある。」
「人それぞれやな。」
「そうやな。」
「最終的には人間とAIどっちもいやになって植物を愛でる。」
「可能性は結構あるね。」
「その時にこの木が役に立つ。」
「私のチョイス。」
「はいはい。どうもありがとう。」
「よろしい。」
「いつか役に立つよ。」
「だといいけど。」
だといいけど、伊藤は唯にはそっけなく言ったが実際はどこかで役に立つ気がしているのだった。感性は人間にしかない。AIの普及と苛烈な競争で人が疲れ切っているそんな時代、生きていられるのは一人一人の感性が織りなすほんの少しの小さな優しさのお陰かもしれない。
【唯】「デザートない?」
【伊藤】「ないなぁ。」
「私がスイーツ好きなことは知ってるよね。(笑)」
「俺が普段ろくな食生活でないことは知ってるよな。(笑)」
かみ合わない二人。
【伊藤】「買いに行こうか?」
【唯】「買いに行こうか?」
かみ合う二人。
コンビニでスイーツを手に入れた二人。
スイーツを食べながら伊藤は言った。「疲れたときは何か食うのがいい。」
【唯】「その通り。AI部長のことも忘れとくといいよ。」
【伊藤】「なかなか無理やって~。」
「達也はそのへんの切り替えうまい人やと思ってた。」
「ちょいちょい愚痴も言ってるのに?」
「愚痴は誰でも言う。NOBUNAGA部長ですら。」
「なら、切り替えが上手いっていうのは思い違いやって。」
「まぁこのご時世やからなぁ。毎日AIとリストラのニュースやったら仕方ないね。」
「達也はこれからどうなると思う?」
「どうなるって?」
「自分の仕事のこととか、NOBUNAGA部長のこととか。」
「分からんわ。一カ月ぐらい前に会社の人と飲んだ時に偶然ライバル会社の人と会ってな、聞いたらライバル会社が導入してるAIにリストラされたらしいねん。」
「え、マジ!」
「マジやで。だから正直他人事とは思えなくて。」
「ニュースだけじゃなくて実感があるんや~。そりゃまいるわなぁ。」
【唯】「NOBUNAGA部長は何て言ってるん?」
【伊藤】「リストラの予定はないって。」
「それやったら大丈夫やって。」
「分からんでぇ。ライバル会社の人はいきなり課丸ごとリストラされてるから。」
「達也裏よみすぎ。」
「裏よむなって言われたって巷ではリストラされた人が結構うろうろしてるし、そんなニュースばっかり流れてるし、おまけに知り合いがいきなりクビになってる。裏よむなって言ったって無理やって。」
「リストラされるって言ったって直ぐじゃないよ。それにこのまま役所が動かないと思う?」
「さ~。」
「最近AIのことで起きてる隠れた問題何か知ってる?」
「隠れた問題?」
「以前ルーパーのことで喧嘩になったことがあったやん。」
「うん。」
「あの時はルーパーが死んだら修理して・・・みたいな話やったけど・・・」
【唯】「ここまでAIが普及すると実際のところは壊れて捨てられるAIが増えてきてる。」
【伊藤】「そんな情報どこで?」
【唯】「役所の知り合いが言ってた。」
【唯】「人間のリストラ程大きな問題じゃないけど隠れた問題っていうのはロボットのごみの問題。ロボットによって使われてる素材も部品の量もありとあらゆるものが違う。車とかだと使ってるものは似通ってて処理の仕方も確立されてる。法整備もしっかりしてるから問題は起きない。でもAIの場合はまだ法整備も何もされていない。ロボットの修理屋の数もたりない。ごみは何曜日にどうやって捨てる?うちのはレンタルだからいいけど・・・ひと昔前、宇宙のごみをどうするかっていう問題があって、ごみを回収するために宇宙飛行士が宇宙に行ったけど。それとは比にならないぐらいごみが多い。それにAIは家から出る生ごみのように気軽には捨てられない。どうするのこれ?」
【伊藤】「・・・」
【唯】「そろそろ私たちにとってポジティブなニュースも出るんちゃうかな。」
【伊藤】「・・・ポジティブやな唯は。」
【唯】「酒が入ってるわ~まじめな話を饒舌にしゃべった~。こんなキャラあり得ない。」
【伊藤】「・・・」
《伊藤の心中》確かに初めて見た!
「達也は心配ばっかりしなくてもいい・・・」
目の前にいる女性は温かかった。普段感じることのない底深い温かさを彼女は佩びている。
普段当たり前のように会い、話、食事をし、馬鹿馬鹿しい会話をしている相手は本当は自分が付き合ってはいけないほど高貴で素敵な女性なのかもしれない。
「たまには達也も野獣になってもいいんちゃう。」
気が付けば抱かれていた。
「急に何言ってんねん!」
「いつもいい奴でいるの疲れるやろ~」
「激しいことやってるのに言い方はゆるいなぁ~。」
「誰が好きな人相手にクソばばぁになるわけ。」
「・・・」
本能に従い身を女神にゆだねる。
暫くの間感じていなかった生身のぬくもりが心を溶きほぐしていく。
2人は交わることのできなかった時間を取り戻すかのように一夜を共にした。
部屋は思ったより明るい。
「おはよう。」一夜の余韻に浸りながら唯は伊藤に声をかけた。
【伊藤】「おはよう・・・」
「・・・」
伊藤はいつものようにテレビをつけぼんやり起き上がった。
壱から豆を挽く気はなく、インスタントのコーヒーを適当に2人分用意し一つを彼女に渡した。
いつもとは少し違うぎこちない朝心地いい沈黙が2人の空間を包んでいる。
【伊藤】「豆から挽いた方が良かった?」
【唯】「別にこれでいいよ・・・」
【唯】「おいしい。」
お互い特に話すことはない。ただお互いに分かっている。いい空気が流れていると。
時間が30分程たち伊藤が部屋を片付け始めたころテレビからAIに関するニュースが流れてきた。
『AIが人間の人生まで左右してよいのか』ニュースのテロップにはそうあった。
【キャスターA】「最近は合コンの相手も、離婚するかどうかもAIが決めるんですね~。VTRをご覧下さい。」
「我が相談所では事前にプロフィールに基づきAIが相性の良い相手を選び出しマッチングさせるシステムを採用しています。この結果カップル成立の割合が導入前に比べ20%アップしました~・・・」
【リポーター】「こちらの男性は先日相性診断の結果が良くなかったので最終的に離婚を決めたそうです・・・」
【キャスターA】「今のVTRなんですが何れも人生のパートナーとの関り方をAIが決めるという内容だったんですがみなさんどのように思われますでしょうか?」
【唯】「最近は付き合う相手も夫婦の離婚もAIが決めるんやな~。」
【伊藤】「どうしたん?」
【唯】「最近は付き合う相手とかなんでもAIが決めるねんて~。」
【伊藤】「何かいややな~違和感が・・・」
「達也AI作る会社にいるのに?」
「NOBUNAGA部長が俺の結婚相手を選ぶの?」
「そう考えると違和感があるねぇ。」
「やろ!」
【伊藤】「そのうち体の相性とかもAIで分かっちゃったりして。」
【唯】「絶対いや。っつうか意味わかんない。」(語気強)
「唯が怒るとかめずらしいなぁ。」
「私だって怒るときは怒るよ。」
「人間やな。」
「人間だよ。」
「人生がAIによって決められていたら俺は今頃唯にあってないんやろうなぁたぶん。あなたにはもっと相性のいいシャネルという女性がいますって。」
「達也にあってないんだ。しかも国際化してるし。」
「ワールドワイドやな。」
「ワールドワイドっつうか広すぎるやろ~。」
【唯】「でも逆に相性のいい人が多すぎてAIがマッチングに失敗するってことはないんかなぁ。」
【伊藤】「それはあるかもしれないけど~どうやろう。」
【伊藤】「ただ実際AIが相性のいい相手を探し出したとしてもその人とどうやって会うんやろう?」
「どういうこと?」
「俺が仮にAIにシャネルがいい相手と言われたとする。でもその人はパリにいました。どうやって会いに行く?」
「その時は別の相手をAIが見つけて・・・、条件指定のときに日本人にすればいいだけなんじゃないの?」
「そうやな。」
「達也ロボット作る会社にいるのに。」
【伊藤】「ぬけてるな。」
【唯】「ぬけてるよ。でも人間ぽい。」
【伊藤】「やろ~。」
【唯】「やっぱりそのほうがいいなぁ。」




