恋の子守唄・布団 ~引っ張る彼女と丸籠もる僕~
「ねぇねぇ、巡ぅぅ、お外出ようよぉ、ねぇ、ねぇぇ~」
ぐいぐいっ、ぐいぐいっ。
春のある土曜日のお昼前頃のこと。六畳一間の部屋の中央。薄赤色のカーペット地の少しばかりふわっとした床の上に、青色の縞々布団にくるまって丸まっている僕から、布団を剥ぎ取ろうと、その可愛らしいロリ声の主が健気に引っ張っている。健気と言うだけあって、いつまで引っ張られても、布団を剥がれることにはならない感じだ。
でも、何かけなげに頑張ってるみたいだし、このまま籠もってるとそのうち泣き出してしまいそうだし、めんどくさいけど、僕は仕方なく、布団からひょっこりと頭だけを出した。
窓の外に見える空は雲一つない。普段より少しばかり強めの日差しが辛くなってすぐさま目を背けるように目線を落とす。そして、
「嫌だよ。休みの日なんだから、一日中だらだらしときたいの」
僕の頭の前、10センチもない距離、正面。まるで小学生のように小柄な女の子に目を向けてそう言った。その子は、そのぱっちりお目々を潤ませている。こんなでも、その子は僕と同じ年で、現役ストレートの大学一年生だ。そして、僕のカノジョでもある。でも偶に、こんな風にめんどくさい。
そんな、ぱっつん前髪おかっぱで、僕のレモン色の半袖丸首のTシャツをブカ着しているその子に仕方無く僕は言う。
「はぁ……。ほら、こっちおいで、まほろ」
それがこの子の名前。そう、布団の中へと僕はまほろを手招きする。これで乗ってくれたら楽なのだが――
「嫌!」
そう、首を横に向けられ、そっぽ向かれた。だが、まほろの目の潤みはもう消えており、どうやら泣き出す心配は無さそうな位には機嫌はいいらしいと分かった。これなら、粘れば外出は避けられるかも知れない。正直相手するのが面倒臭いけれど、無視する訳にもいかない。また起こされるのも癪だ。
「でもさ、僕も嫌なんだよ、外出るの。ね、だらだらうとうとしようよ。一緒にさぁ」
さて、どう反論する?
「じゃあ、一時間だけ一緒にだらだらしてあげる。だから、その後、お外出よっ」
バサッ、ガシッ。
まほろは僕の返事を待つことなく、布団の中に潜り込んで来た。僕の腹筋に、胸板に、背中に、両手両足で抱き着いて密着してくる。割とよくされるが、何でか尋ねたら、『硬くて、でも少しばかり弾力もあって、暖かくて、いい匂いがするからだよっ』って言っていた。
良い匂い、か。悪くなかった。一緒に眠る際、とても都合がいい。こうやって抱き着かれると、抱き枕を抱いて眠る以上にリラックスして眠れる。唯、抱き枕だと柔らか過ぎるから、程良く低反発なところがすこぶる、いい。それでいて、暖かくて、鼓動が聞こえてきて、こんな風に、
スゥゥ、スゥゥ――
とても気持ちよさそうにすぐ眠ってくれて、素敵な寝息と寝顔を見せてくれる。そして、僕も眠くなる、と。全く、可愛らしい奴だ。それにしても、早かったな。一分どころか、数秒で、か。いつもなら、せがむのになぁ、子守歌。そして、気づけば眠っているのに。
何だか、眠くならない。取り敢えず、唄うか。
「ねんねんころりよ、おころりよ、キミはよい子だ、ねんねしな。キミのカレシはここにいる。一緒の布団でぬくぬくと。だから眠ろうゆっくりと。僕も今からそうするから」
うん。やはりこれやったら眠……く……、スゥゥ、スゥゥ――