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平凡な女には数奇とか無縁なんです。  作者: 谷内 朋
花嫁修業三十路前 〜外野席のホンネ編〜
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cent quatre-vingt-quatrze つかさ

 夏絵ちゃん、結婚式来てくれるかな?


 先月の飲み会(密かに計画してた彼女のバースデーパーティー)と杏璃ちゃんの卒業祝いに不参加だったから今年に入ってからまともに会えていないのよね。まさかこのタイミングであの二人よりを戻すなんて……だって彼女の幼馴染の男の子たち皆それなりにイケメンだよ、性格だって悪くない。ごきょうだいのはるちゃん、秋都くん、ふゆちゃんだってイイ男じゃない。

 それだけ良い見本が揃ってる環境でどうしてアレが選べるの? それともお付き合いする男性に地位と名誉は絶対条件なのかなぁ? ご両親を早くに亡くされてお金に苦労した経験があるのかも知れないけど、はるちゃんは十代のうちにきょうだい三人を養えるだけの稼ぎを得て借金無しで夏絵ちゃんとふゆちゃんを大学まで通わせてる。例え水商売だとしてもそれができるって凄いことなんだよ、奨学金無しで大学に通える子って恵まれてる証拠なのに。


 私はお隣F県出身だから佐伯家には何の恩恵も無く、お殿様家系だから持ち上げようという気持ちも無い。だから佐伯のことは一個人としてキライだし、実際サークル内での奴の行動が視界に入る度に幻滅しかしなかった。私は高校時代付き合っていた降谷繋がりで知り合い、夏絵ちゃんの印象は悪くなかった。佐伯狙いの中途半端なハイスペック女子には嫌われてたみたいだけど、A大学のサークル仲間たちは普通に仲良くしてたと思う。

 初めての合同サークルの時、親睦会を兼ねての飲み会があった。基本的に男の子と女の子に別れてって感じで、夏絵ちゃんも私も女の子グループ内に混じっていた。ちょうど私の背中付近で佐伯が適当にできた男子グループの中で談笑してて、そこで聞こえてきた奴のひと言に耳を疑った。

『夏絵はセックスしてる姿が凄く美しいんだ』

 男の子の会話としては普通なのかも知れないけど、同じ空間に彼女がいるのにそれは言っちゃ駄目でしょ。

『彼女を見てると本能が滾るんだ、たまらなくなって無人教室とかトイレでセックスしないと治まらない。あのエロさは罪だと思うよ』

 その口の軽さ気持ち悪、ヘラヘラと性欲自慢をする奴に寒気を感じた。

 それ以外にも姉の同級生が働いているアパレルブランドショップでもひと悶着起こしたって聞いてる。佐伯が夏絵ちゃんのために黄色一色の服を……黄色は良いんだけど、事もあろうに元着てた服を処分しようとしたんだって。そんなこと基本しないんだけど何とかして捨てさせようとするから夏絵ちゃんが泣き出して困ったって言ってた、丁寧に取り扱ってたのは見て取れたから、たたみ直して紙袋に入れて返したんだって。

 後で姉の同級生によるとはるちゃんからの誕生日プレゼントで、お気に入りだから捨てないでって必死に留めてたって教えてくれた。佐伯家と言えばA県ではロイヤルファミリー扱いで、外商部のあるブランドショップや百貨店だと無条件で上得意様になるくらいの有名人なんだってさ。私の働いてる店はショッピングモールだからそこまで煩くないけど佐伯家一族のご来店があると空気がピリつくわね、基本紳士淑女な方々ばかりだけど明生はやっぱり危険人物扱いになってるわ。

 あとはサークルでハイキングをした時、頂上にある休憩所で夏絵ちゃんがトイレに入ったの。その際佐伯に荷物を預けてたんだけど、あの男何を思ったかリュックに付けてたプラパンキーホルダーを引きちぎって山中に投げ棄てたのよ。視界に入ったからさすがにどうかと思って文句言ってやるかと思ったんだけど、当時新入生だった後輩満田歩に止められて僕たちで探そうってことになった。

 A大学では私が部長をしていたから、副部長の同級生に軽く事情説明をしてから満田と一緒にプラパンキーホルダーを探した。しばらくして事情を知った小久保も手伝ってくれて、一時間ほどかけ茂みの中からようやく見つけることができた(探し当てたのは満田)。アウトドアに精通してる小久保のお陰で下山ルートにもすんなり合流し、満田の手でキーホルダーを返すことができた。

 そのキーホルダーは幼少期のふゆちゃんが書いた絵をはるちゃんがキーホルダーにしたもので、夏絵ちゃんはほぼ肌見離さず持っていた記憶がある。亘理の話によると、無くなってることに気付いた夏絵ちゃんは途中まで登山で使ったルートを引き返して必死に探しながら歩いてたらしい。不可抗力で落ちたんじゃなくて佐伯が故意に捨てたと言ってやりたかったけど、奴を盲信してたあの子に何を言っても信じないだろうから無駄足になると留められた。

 欠点も含めて愛してる……そう言えば聞こえが良いけど、こんなの欠点の領域を超えてると思う。慎にだって欠点はあるしたまに『はぁっ?』って言いたくなる時もあるけど、人のものを勝手に棄てようとしたり相手を操るなんて真似はしない。そもそも彼との交際期間で私物を捨てられそうになったり、支配的な態度を取られたことは一度も無いもの。お互いが相手の人権を尊重し合わないと結婚生活なんて絶対にできないよ、主従関係だとどちらかが壊れてご破算だ、日頃の積み重ねを甘く見ちゃ駄目だと思う。


 本来であればただただ幸せ気分に浸った状態で迎えたかった結婚式当日、会場となる近所のセレモニー会館で準備を整えていると受付を引き受けてくれてた有砂ちゃんがわざわざ「今さっきなつが来たよ」って教えてくれた。夏絵ちゃんが来てくれたのは嬉しかったんだけど……。

「あやつ、例のブツ持ってなかったんだよ。引越しの時に処分したんじゃないか?」

 ……何か不安になってきた。

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