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平凡な女には数奇とか無縁なんです。  作者: 谷内 朋
花嫁修業三十路前 〜外野席のホンネ編〜
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cent quatre-vingt-douze 小久保

 五条とは大学の学部が同じだった。特に俺は選択学科もかなり被っていて顔を合わせることも多く、同じ学部だった敦貴と尚之と四人でつるんでいた。入学当初佐伯とは学部が別で行動を共にしていなかったが、五条狙いなのかいつの間にか輪の中に入っていた。

 元々幼馴染だから一緒にいるのは構わないけど、中学時代に何がどうなったかアイツの母親に『息子がイジメを受けている』って学校に乗り込まれたことがあって以来適当に距離を取っていた。当時クラスメイトだった成瀬譲(なるせじょう)ってやつをイジメの主犯にでっち上げ、それに敦貴、尚之、俺が加担して佐伯をイジメてるということになっていたらしい。

 実際は当時佐伯は一条千夏(いちじょうちなつ)って同級生の女の子に片思いしてて、彼女と譲が幼馴染で仲が良かったのを嫉妬してあらぬ噂を立てていたってところだ。今となってはこの二人結婚してるからさすがに何も言わなくなったけど、思えば一条(旧姓)と五条ってどことなく見た目が似てるから未だに初恋と五条がごっちゃになってるんだろうな。

 それを彷彿させてるのが黄色だ、一条は『私のラッキーカラー』と自ら好んで黄色の物をよく身に着けていた。一方五条は元々寒色系を好んで黄色なんかほとんど着ていなかった。それが佐伯と付き合い始めて急激に黄色の物を身に着けだし、似合いもしない黄色一色の服を嬉しそうに着ていた姿は控えめに言って滑稽だった。

  それと髪型、一条はロングヘアじゃなかったのもあるけどほとんどヘアアレンジをしていなかった。五条はロングヘアをポニーテールやお団子ヘアでまとめることが多く、仮に下ろしていても食事の時は事前にきちんと髪をまとめてから食事を摂っていた。ところが佐伯は落ちてくる髪の毛を押さえながら食事を摂る女性の姿がお好みで、五条にもそれをさせているのを見た敦貴が嫌そうにしてたなそう言えば。アイツショートヘアの女性の方が好みだから、『ロングヘアでもまとめてりゃまだ……』ってボヤいてたのを何度か聞いたことがある。まぁあの姿って見てくれ的にも良くないしぶっちゃけ不潔だからな、髪の毛が料理に入ったりするのって視覚的にも嫌なもんだよ。

『アイツ案外阿呆なんだな』

 特に尚之は変貌していく五条の姿に呆れ返っていたが、別に五条が誰と付き合おうが黄色の服を着ようが正直どうでも良かったので特に何をするでもなくただ静観を決め込んでいた。それに佐伯んとこは政治家家系で、世が世ならお殿様というそれなりに由緒正しきお家柄のお坊ちゃまだ。普段であればそれをかさにマウントを取りたがるのに、五条に対しては一転それを隠して真の自分を見てほしいとか言い出した。

『彼女には余計なこと言うな』

 いくら俺らに口止めしたところですぐバレるだろうが……そう思ってたけど、変に純粋な五条は面白いくらいに佐伯の嘘を信じ切っていた。これは不味いと思ったからやんわりぼんやりとは伝えたけど効果は全く無かった。他所でも相当言われてきたはずなのに、それには一切耳を貸さなかった盲信具合は天晴としか言いようがない。

 そんなこんなで大学を卒業し、それぞれが自分のことに忙しくなって当時ほどの交流も無くなった。五条もさすがに佐伯中心という訳にもいかず、入社した海東文具とは水が合ってたみたいで見たことが無いくらいに活き活きとしていた。服の色も黄色が消え、変な話佐伯といた頃よりも綺麗になっていた。

『このまま別れるといいね』

 尚之繋がりで知り合った武智つかさはかねてより五条と佐伯との交際を快く思ってなくて、何度も別の男との交流を企てていた。結果佐伯との縁を引き剥がす効果は得られなかったけど、社会人になって破局した時は自分のことのように喜んでいた。当時はそこまで嫌うか? とも思ったんだけど、今となっては武智が佐伯を嫌い破局を喜んだ気持ちは何となく分かる気がする。


 それが六年経った今になってあの二人がよりを戻し、結婚することになったらしい。正月の同窓会ではそんなの全く匂わせてなかったけど佐伯のことだ、多分いきなり破局させた時点でこの流れは計画していたと思う。妹の胡桃ちゃんによると韓国行きの航空チケットは二枚用意していたらしい。よくそんなの見てるよなとは思いつつ、アイツであれば振られた傷心に浸け入って実は〜みたいな手口を使ってもそう意外ではない。

 仕事を辞めて帰国し、全ての連絡を断って三年くらいか。その間に何があったか知らないけど佐伯の佇まいはちょっとした小悪党にすら見えた。元々二枚舌で狡猾なところはあったけど、何と言うかこれ以上関わると碌なことが無さ気な危険すら感じた。まぁ向こうから断絶された訳だからこっちから擦り寄る必要は無い、五条がこのまま結婚するのは危なっかしいが外野席の俺らにはどうすることもできない。母親の杏子さんは歓迎してるみたいだけど、きょうだい(実際は従姉妹)である花梨さんと胡桃ちゃんの反応はビミョーといった感じか。

『あの子、性格はともかく頭悪そうなのよね』

 花梨さんは五条の第一印象についてそう言っていた。五条を嫌っている訳ではないみたいだが、佐伯の嫁になることについてはどちらかと言えば歓迎していないんだろうな。

『アレに惚れる意味が分からない、せめてあと一人経験があれば思い直せたんじゃないかな』

 子供の頃から胡桃ちゃんは徹底的に佐伯を嫌ってる。まぁ幼少期はサンドバックのような扱いをされてきたから気持ちは分からなくもない、五条はこのほど佐伯と同棲を始めてるって聞いてるからその辺の本性が垣間見えることもあるかも知れない。きょうだい仲良くの環境で育ってきた五条にそれが耐えられるのか? 俺は静観しかできないけどあの姉妹のことだから徐々に何かは仕掛けてきそうだな。

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