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平凡な女には数奇とか無縁なんです。  作者: 谷内 朋
花嫁修業三十路前 〜外野席のホンネ編〜
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cent quatre-vingt-dix ぐっちー

 このところなつの近況がさっぱり分からないが、有砂情報によると最近佐伯とヨリを戻したらしい。それ自体は本人の自由だから外野がどうこう言うことじゃない、ただ急に連絡が取りづらくなったり性格が変わっちまったりするのが厄介だったりするって聞いてる。人間ってカメレオンみたいなところがあるから付き合う人間次第で性格なんか簡単に変わるし、前はオレ自身九州で就職してたから直接なつの変貌を見た訳じゃない。

 ただ当時から地元に残ってる有砂とつかさちゃんは、大学時代のなつとは付き合いにくそうにしてたと思う。俺ら腐れ縁とあっちの友人らとの交流はこれまでにもあったけど、佐伯は絶対になつを自分の隣に置いてた。特にてつことは手の届く範囲にすら立たせず、何気ない会話すら許さないって感じだったもんな。

 てつこってそういう勘は働くほうだからなるべく二人と距離を置いてたんだけど、なつが超絶疎いからむしろアイツがてつこに寄ってった印象がある。そのせいで佐伯がてつこに嫉妬して二人を一生懸命引き離してて、『器小っせぇ男だよね』ってつかさちゃんよく毒吐いてたな。一応ちゃんと付き合ってたんだからそこは信じてやれよと思う、信じ合わなきゃどんな関係も尻すぼみで消滅しちまうもんじゃないか?


 結局杏璃の卒業祝いにも姿を見せず、五条家から私物を全部引き払ったなつは佐伯と同棲を始めてるらしい。アイツ一人暮らしすらしたこと無いのにちゃんとやってけんのかねぇ?

「なつ結婚式来んのかなぁ?」

「それはさすがに来るだろ」

 こうたは店が定休日だから家に遊びに来てる。嫁さんである桃ちゃんに付いてやんなくていいのかよ? と思ったけど、おばさんと連れ立ってサクの嬢ちゃんを見に行ってるんだと。

「何かドタキャンの予感しないか?」

「普段のなつであればあり得ないって言い切れるけど今の感じだとなぁ」

 コイツも当時県外の調理師専門学校に行ってたから俺と同様なつの変貌を見てた訳じゃない、こっちのリアクションにレスポンスすらしてこない腐れ縁の態度に戸惑いはあると思う。それにオレ以上に佐伯との相性が悪い、思考と言葉が直結してるこうたと腹黒嘘吐きの佐伯じゃ反発もするわな。

「一応メールしとく?」

「普段のなつであれば必要無いけど念は押しとくか」

 オレはこうたと二人してなつに念押しメールを送信した。


 こうたが帰った直後、取引のある和菓子屋『城址庵』の社長が見たことの無い女性を連れて店にやって来た。この和菓子屋さんは城址公園近くにある歴史ある老舗で、うちとの取引も長い上得意先とも言えるんだけど他の人を伴って訪ねてくることは滅多に無い。

「今日はこちらの方の発案で……」

 社長さんの言葉に押されるかのようにキレイな身なりの女性がスマートな身のこなしで俺に名刺を差し出してきた。へぇ、この人百貨店の人なんだ。

「南部電鉄百貨店の佐伯花梨(さえきかりん)と申します」

「小口俊明です、(社長)を呼んできますので少しお待ちください」

 オレは昼休憩のオヤジを引っ張り出してから客人用のお茶の準備をする。店はオフクロに任せるか、オレも一応専務って立場だから客人の用事に参加させて頂く。

 南部電鉄百貨店の佐伯さんは、五月に県内の菓子店を集結させた物産展を企画しているので参加してくれないか? という打診で家に来たとのこと。うち一応お茶受け用の菓子は取り扱ってるけどオリジナルブランドは持ってない。それならこうたんとこのケーキ屋を呼んだ方が良いんじゃないのか?

「今回喫茶スペースを頂けたんです、それで小口さんとこのお茶も一緒に提供したいと考えておりまして」

 あぁそういうことね。『城址庵』さんには結構贔屓にしてもらってるし、南部電鉄百貨店は県庁所在地にあるから南部の人へセールスアピールもできるなぁ。

「秋にE市で行われる菓子博覧会の追い風になればと考えております」

 菓子博覧会は全国にある人気菓子が集結する一大イベントだけど、E市は城址公園のある市だからここよりももっと北に位置している。ここA県は県庁所在地のある南部に人工が圧倒的に集中しているから、客を呼び込むには南部にいる人たちへの宣伝も必要だよな。

「そういうことでしたら微力ながら協力致しますよ」

 オヤジ(社長)のひと声で物産展への参加が決まり、オレがその責任者に任命された。

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