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平凡な女には数奇とか無縁なんです。  作者: 谷内 朋
花嫁修業三十路前 〜外野席のホンネ編〜
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cent quatre-vingt-trois 梅雨子

 ここ最近お向かいさんの様子が変なのよ。

 年末に次女である(ゆかり)を出産してしばらくは必要以外の外出をしていなくて、その分お隣さんの変化が外野ながらも透けて見えてしまうのよね。

 一月はまだ普通だったわよ、でも二月に入ったくらいからなつの外出が極端に増えてる印象を受けた。まぁオトコができようが他人の私には知ったこっちゃないんだけど、それと同時に姿を見せ出したマクラーレンがとにかくダサくてね。黄色いのは構わないのよ、ダサいっちゃダサいけど。でも家の前の道って結構狭いからあんなの駐車されたら邪魔なのよ。しかもエンジン掛けっぱなしで騒音もなかなかのものだし、音に敏感な子供たちにとってもはた迷惑なのよね。

 この状況が続いたせいでらんちゃんが警察に通報してくれて、何とか追っ払って頂いたから今は静かになった。その様子をたまたま両親と見てたんだけど、持ち主が佐伯知事のドラ息子だったのはちょっと意外だったわね。知事の栄生(ひでお)氏にしろにしろ里親に当たる県会議員の晃生氏にしろマトモな方だから、何をどう間違ってああなったのか分かりかねるわね。奥様の杏子さん、長女の花梨(かりん)さん、次女の胡桃(くるみ)さんだってきちんとしていらっしゃるのよ。まぁ時としてハズレくじが出ることだってあるわよね、人間あれだけいればハズレクズなのもいたって何の不思議も無い。

 二月も下旬になるとなつのファッションセンスがガラッと変わった。モノ自体は良くなってるんだけど、一体どこで見つけてきたの? って言いたくなるくらいの黄色一色。そう言えば大学時代もそんな感じになってたわねなんて思い出してたんだけど、ヘタにブランド服だからブルジョワというか成金感満載でダサいったらありゃしない。先ほどと重なるけど黄色は良いのよ、メインにするにしたって小物もアクセも黄色って黃レンジャーの女の子だってそんなことしないわよ。

 それと同時に朝帰りも頻発していて、またしても真っ黄色のマクラーレンが早朝四時だか五時だかに騒音付きで五条家前に現れるようになった。そこからなつが降りた後佐伯のドラ息子と路チューかましやがって鬱陶しい、続くようならまた警察呼んでやろうか? とも思ってるんだけど、奴もキップ切られた前科があるからあまり長居はせず引き上げてる。日を見て春香にはチクってやろうかと思ってるんだけど、あの子変に責任感じてしまうところがあるからヘタに耳に入れな方が良いのかしら?

 こんなのに体許すんだったら木偶の防満田の方がよっぽどマシじゃない、アレも今は山陰の支店で静かになさってるらしいからどうでも良いんだけど、ここ一年に五条家に登場してる男たちは数が増えるほどランクダウンしてるじゃない。地位と金のある男を嗅ぎ分ける能力は評価するけど、なつの男を見るセンスがあそこまで悪いとは思わなかった。あれだったら手近な島っ子連中の方がよっぽど良いじゃない、現実味は無いけれどこの世に一二三のドラ息子と佐伯のドラ息子しかいないってなったらまだ一二三の方がマシね。私はらんちゃん以外有り得ないから現実味はもちろん無いけれど。


 そんなこんなで三月になり、なつを見掛けることがほとんど無くなった。代わりにカミナリ先生の孫がふゆと一緒に出入りするようになり、家の中自体は活気が戻ってきてる感じなのよね。五条家の男共はなつがいなくなる状況に慣れてきてる感じ、世の中は移ろいゆくものだから変化って当たり前のことで自然な流れなんじゃないかしら。

「そう言えばこのところ夏絵ちゃん見ないわね」

 お義母さんも五条家の変化にはお気付きで、余計なお世話を承知でも気にはなるみたい。春香が中三の時にご両親が亡くなり、武内家の律子さんと共に四きょうだいの面倒を看てきたって自負もあるから母親視点が抜けないんだと思う。

「オトコでもできたんじゃないでしょうか?」

「それだけなら良いんだけど、きょうだいを蔑ろにするのは頂けないわ。妹っていうのもあるだろうけど、春香ちゃんに一番気苦労を背負わせてるのはなんだかんだ言ってもあの子だからね」

 なるほど、なつって基本ワガママじゃないんだけど人に染まりやすいのよね。その点は誰だってそうだと思うけどあの子頭は悪くないのに自分で考えないのよ。その上洞察力も無いからペテン師みたいなのにコロッと騙されるんでしょうね。あきは馬鹿だしふゆは非常識だけど洞察力は割とあるのよ、だから身の危険を感じたら逃げるってことを知ってる。そういったところの差が春香の気を揉ませてるってお義母さんは考えてるみたい。

「だから結婚でもして自立してもらおうと思ったんだけど裏目に出ちゃったみたい。そもそも婚活を勧めたのは私だから春香ちゃんには申し訳無いことをしたわ」

「お義母さんのせいじゃないですよ、あれはなつの自己責任だと思います」

「もう成人してるからそうなんだけど何かねぇ」

 あぁその後ろめたさで五条家を訪ねなかったのね。

「私五条家に行ってみましょうか?」

「お願いしてもいいかしら?」

「えぇもちろん。その間紫をお願いします」

 私は少しだけ身嗜みを整えてからお向かいの五条家にお邪魔しました。

「ごめんください」

「あら梅雨子、久し振りね。上がってく?」

「じゃ遠慮なく、お邪魔します」

 久し振りに五条家に上がらせて頂くと、心無しかなつの気配が消えかかってるように感じた。ちょっと雰囲気が変わったってだけの話で悪くないわねと思う。

「最近なつは元気してるの?」

「さぁ、ほとんど会わないのよ。あんたの場合外から家が見えてるんだから勘付いてはいるんでしょ?」

 やっぱりその辺はさすがだわ、五条四きょうだいの中では春香が一番頭が良いからね。

「まぁそうね、佐伯のドラ息子とお付き合いしてるのよね? 真っ黄色のマクラーレンでなつを送ってるの何度か見たことあるから」

「えぇ、来年のなつの誕生日に合わせて入籍するんですって。ってか車も真っ黄色なのかよ?」

 余計なこと言ったかしら? オス化させちゃったわ。

「なつの服とコラボでもしてるのかしらね? 目がチカチカして視力落ちそう。それなら一度くらい挨拶とかあったんでしょ?」

「無いわよ、別に要らないけど。先月家の前付近で真っ黄色のマクラーレンがキップ切られたって律子ママから聞いたの今思い出した。アレってまさかの佐伯?」

「そう、まさかの佐伯よ」

「アイツ殺していいか?」

 気持ちは分かるけど止めておきなさい。春香はマナー力皆無の人間を極端に嫌う、そんな男に夢中になってる馬鹿な妹を持つと兄としての気苦労は絶えないわね。

「あまりいきり立つとハゲるわよ」

「そんなとこだけ男扱いすんじゃないわよ」

 それもそうね、この子女であるなつよりも女子力が上だもの。これで女装しても男臭いとかブスとかなら救いようがあったんだけど、女装無しでも春香の方が美人なのは揺るぎない事実だからね。

 それにしてもなつが結婚とはね、いくらお手伝いさんがいると言っても電子レンジ一つマトモに使えない子を嫁にしようなんて男もいるのね。価値観は人それぞれだから外野がどうこう言うことじゃないけど、他所のお嬢さんを娶るってのに挨拶一つ寄越さないってのはいくら何でも問題があるでしょ。これじゃ前途多難ね、まぁせいぜい頑張ってなつ。

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