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平凡な女には数奇とか無縁なんです。  作者: 谷内 朋
花嫁修業三十路前 〜外野席のホンネ編〜
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cent quatre-vingt-deux 冬樹

 至兄ちゃんとの共同生活を始めてから、例のクサイ臭いが消えて快適な生活を送ってる。なつ姉ちゃんが嫌いな訳じゃないけど、あのニオイは耐えられないからほとぼりが冷めるまで家出中(じゃないけどね〜)。至兄ちゃんは話し相手ができたと喜んでくれてるからむしろ良いことなんだと思う、実際このマンションにゼミの先輩が住んでるから嘘は言ってないよ(アテにはなんないけどね〜)。

 朝は大体至兄ちゃんと一緒に家を出る。共同生活になってから途中まで車移動だから満員電車に乗らなくていいんだよね、至兄ちゃんの勤務先は一応○○市内なんだけど隣の◇◇市の境界付近だから快速二駅分ほど交通費も浮くし一石二鳥!

 ご飯についてははる姉ちゃんが冷凍作り置きをしてくれてるんだ、至兄ちゃんが作った分と作り置き分をチンしたらそれなりに豪華な食事になる。佐伯に絆されたなつ姉ちゃんは家でご飯をまともに食べなくなったって聞いてるけど、それ味覚がランクアップしたんじゃなくて馬鹿になっただけだからね。

 それにしたってはる姉ちゃんもあき兄ちゃんもよく構ってあげてるよね、ホントその優しさには感心しちゃうよ。至兄ちゃんは結構ドライな性格だから『はるはもっと自分優先でいい』って言ってる、あれでもマシになったんだけどね。

 ただあき兄ちゃんも僕もそうだけど、はる姉ちゃんが大学時代のなつ姉ちゃんのことでこそっと泣いてるのを何度も目撃してる。なつ姉ちゃんははる姉ちゃんを結構良いように利用してるフシがあるんだ、時々気遣うような発言をしてるけど、はる姉ちゃんを一番こき使って引っ掻き回してるのはなつ姉ちゃんアンタなんだよ。

 だから僕は昔ほどなつ姉ちゃんが好きじゃない。僕も人のこと言えるほど性格良くないけど、気遣う振りして行動に移さないなつ姉ちゃんほど腐ってないよ。僕はありがたく受け取るもん、『これだけしてるのに何とも思わないの?』ってケチ付けるなら初めからしなくていいでしょ? それなら僕は喜んでしてくれる人か有料サービスを利用する、この国に限って言えばサービス業は充実してるんだから欲しいものを買えばいいだけの話なんだよね。


【着信あり はる姉ちゃん】

 ん? どうしたんだろう? 授業中だったから気付かなかった。メールでも良かったんだけど敢えて着信にしたってことは何かあったな? 今日はこれで授業が終わりだから一旦実家に顔出そうかな? この時間だと二人とも家にいるよね? 僕はまだ仕事中の至兄ちゃんにそのことを伝えて実家に一時帰宅した。

「ただいま〜」

「お帰り、何か食うか?」

 あき兄ちゃんが出迎えてご飯に誘ってくれる。多分二人とも昼間寝てたんだね。今午後三時過ぎだけどがっつりお料理の匂いするもん。

「うん食べる〜、授業受けたらお腹空いた〜」

 僕はクサくない実家に上がってダイニングに入ると、はる姉ちゃんが三人分のご飯の支度をしてた。アレ? 普段だったらなつ姉ちゃんの食器はラックに置いてあるんだけど。

「なつなら昨日の出勤以来帰ってきてないわよ」

「ふぅ〜ん、どおりでクサくなかったんだね〜」

「今日も帰ってこねぇかもな、ここんとこ帰ってきても家で飯食わねぇんだわ」

 まぁあのクサさをまとわせるくらいなら帰ってこなくていいけどね〜。

「そうそうはる姉ちゃ〜ん、着信あったけど何か用〜?」

「うん、食べながら話すね」

 はる姉ちゃんは手際良く支度を済ませて三人で食卓を囲んだ。

「なつ結婚するんだって」

 あぁそうなんだ、クサヤ夫婦の出来上がり〜。

「それでね、四月にはなつの部屋が空くからこの際あきとふゆの部屋分ける?」

「今更な気もするけどさ、一人部屋の方が勉強に集中できるだろ」

 う〜ん、別に分けなくていいけどね。あき兄ちゃん勉強の邪魔はしてこないからあんまり困ったこと無いんだよね。それなら……。

「至兄ちゃん呼んだら〜? 今後その方が便利でしょ〜」

 実ははる姉ちゃんも至兄ちゃんとの今後に向けて動き始めてるんだよね、詳しい話は割愛するけど、こっちはクサくないどころか凄く良い匂いがするから大歓迎だよ。

「おぅそうだな、兄貴に使ってもらおうや」

「そうね、話してみるわ。なら仕事の後こっちに寄ってもらおうかしら」

 はる姉ちゃんは嬉しそうに至兄ちゃんにメールしてた。はる姉ちゃんは恋をすると綺麗になるんだ。すぐにオトコ色に染まる点はなつ姉ちゃんも変わらないんだけど、はる姉ちゃんは相手を知るため能動的にやってるから取捨選択もするし自己流にアレンジもする。一方のなつ姉ちゃんは相手の言動を丸呑みするだけ、自分で考えないから言いなりなだけのお人形状態になるんだ。それって命もらって生きてる価値あるの? 頭が悪いにもほどがあるよね。


「ただいま」

 はる姉ちゃんのメールを受けて至兄ちゃんが七時前頃実家にやって来た。

「お帰り、ご飯すぐできるわよ」

 うん。至兄ちゃんは上着を脱いで洗面所で手と顔を洗った。着替えもはる姉ちゃんの部屋にちょっと置いてあるから、部屋着に着替えてダイニングに戻ってきた。因みになつ姉ちゃんは帰宅してないよ。

「最近こんな調子なのか?」

「えぇ、まぁね」

「もう何もかも自分でさせればいいんじゃないのか? 洗濯も掃除もする必要無いと思うけど」

「単純に汚れ物が残ってるの嫌なのよ。部屋の掃除は無視してる」

 はる姉ちゃんってそういうところがあるんだよね、潔癖とはいかなくてもかなりのきれい好きだから。

「そっちに苛つくのか」

「えぇ。今はあきが手伝ってくれるからその分助かってる」

「ヒモ経験が活きてんだよ俺の場合」

 それ自慢することじゃないからね、でも気遣う振りだけの誰かさん(・・・・)よりはよっぽど良いと思う。僕たちはそれぞれの指定席に座って……だとなつ姉ちゃんの場所が空いていびつになるから、椅子を替えて僕の隣に移動してもらった。この時間まで帰ってこないってことは外食でしょ、気にしない気にしない。

「実はなつが結婚を決めたの。それで四月頃部屋が空くから至君に使ってもらおうって話になったのよ」

 はる姉ちゃんは早速共同生活の打診をしてる。至兄ちゃんは嬉しそうにしてるからきっとオッケーしてくれるね。

「お言葉に甘えてそうさせてもらうよ」

「急がなくていいのよ、八月までいないと違約金を支払わなきゃいけないんだから」

「今後を考えたらそっちの方が安上がりだよ」

「何か楽しくなりそうだな」

 なんて話をして男四人で楽しくご飯を食べた。この後順番にお風呂に入り、久し振りに客間に布団を敷いて寝ようって話になった。お布団だって至兄ちゃん用もちゃんとあるんだよ、今回初めて至兄ちゃんに百科事典を朗読してもらってゆっくり休めたよ。結局この日もなつ姉ちゃんは帰ってこなかったから、臭いニオイに悩まされなくて僕は気分爽快♪

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