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平凡な女には数奇とか無縁なんです。  作者: 谷内 朋
ガチで婚活三十路前 〜後光煌めく後輩編〜
18/302

dix-huit 梅雨子

 この日は月に一度の休業日、夫らんちゃんが家族全員を老舗の遊園地に連れてってくれた。ここは入園料が大人一枚五百円なので高校時代はよくデートスポットとして利用させてもらった懐かしの場所だ……とは言っても私は夫以外と付き合った事が無いので恋の思い出は全て彼との事になるのだが。

 遊園地で家族団欒の時間を過ごしてたら、デート中のなつが見るに耐えないブス二人組に難癖を付けられているのを輝と栞が偶然発見したのだ。

「ママーッ! ブスがなつをいじめてるーっ!」

 なんて正義感の強い子なのかしら、その辺りはきっとらんちゃんに似たのね。彼は典型的なガキ大将タイプで弱い者いじめを見過ごせない性格なのだ。

「ちょっと行ってくるわね」

 私は子供たちを迎えに行く。ついでだからなつのデート相手の査定でもしようかしらね?

「うちの子がどうかしました?」

 私の顔を見たブス共は一瞬だけ怯んでたけど、やれ子供の教育がどうだの性格が悪いだの自分たちの醜さを棚に上げて好き勝手言ってくれる。まぁ哀れにしか見えないからほんの少し同情してあげたら何故か捨て台詞吐いて去って行かれましたけどね。

 にしてもこの男何グズグズしてるのかしら? 格好付けてブス共とやり合ってたけど一番大事なのってなつへの被害を最小限にする事なんじゃないの?一見盾になってる風だけどコイツ結構なナルシストね、なつったら恋愛が遠退いてたせいか多少イケメンとは言えこんなのに引っ掛かるなんて。超絶シスコンの冬樹じゃないけどこれは潰しておいた方が良さそうね、私は胎教レッスンを理由に来週末のなつの予定を一個埋めてやりました。

 

 それから一週間後、私はらんちゃんと胎教レッスンを終えて五条家を訪ねると、居てもらっては困る相手と鉢合わせた。まぁコイツの目の前で約束を取り付けたけど、この手の男は子供嫌いと踏んでたのが甘かったかしら?

「あら奇遇ですね、子供を迎えに来たの」

「そうですか、でしたら早く帰らせてあげないとですね」

 この男案外憎たらしいわね、今日は冬樹居ないのかしら?

「あぁ、梅雨ちゃんにらんちゃんいらっしゃい。折角来たんだから上がってってよ」

 ふふふ、さすがなつだわ。優しい子だから子供だけ引き渡して追い払おうなんて事しないのよね。

「夏絵さん、こちらの方だってご都合が……」

「そうだとしても一分あれば戻れる距離よ、お茶くらい飲んでっても大丈夫よね?」

「えぇ全然平気よ、冬樹と輝は?」

 私のひと言で奴の表情が変わる。その辺りはガキね、ポーカーフェイスの一つも出来ないのかしら?

「冬樹の部屋でお勉強に夢中よ」

「そう、じゃあ遠慮なく……らんちゃん?」

 あら?らんちゃんたらもう上がり込んで栞と遊んでるわ、なら私も遠慮なく。それより炊事は壊滅的ななつにお茶淹れなんて出来るのかしら?

「なつ、まともなお茶飲ませてくれるんでしょうね?」

「失礼だなぁ、お茶淹れとお米のセットとレンジでチンはちゃんと出来るよ」

「あら~、成長したじゃないの」

 私はなつの頭を撫でてやる。ホント可愛いわこの子。

「何かそういうの馬鹿にしてるように見えますね」

 何だまだ居らしたの? 本当クソデカいだけの邪魔な男ね。

「あらそう見えてるの? つまりあなたにはなつが馬鹿に映ってるのね、私にはその発想が全く無かったから逆にびっくりなんだけど」

「僕はあなたの道徳心の無さにびっくりです」

 道徳心?随分と大それたもの持ち込んできやがったわね、自分の邪心を棚に上げて。

「あんたはなつの事知らねぇからそんな事が言えるんだ。味噌汁一つ作るのにIH一つ壊すような女だぞ?」

 その度にらんちゃん修理してるもんね、家としては良い儲けになるけど五条家としては困った話だもの。

「なつおこめのセットできるようになったのぉ?」

「うん、最近やっとコツが掴めてきたの」

 聞きようによっては失礼発言の栞の言葉にも笑顔でちゃんと答えてくれる。なつはそういった聞き分けがちゃんと出来る子なの、この男のおかしな庇い立てなんて必要ないのよ、私はお前を馬鹿にしてるけどね。

「ただいまぁ、スーパーのセールで買い込んじゃったから好きなの作ってあげる」

 そう言って大荷物で帰宅してきた春香。女のなりしてるけどその辺はやっぱり男なのね、ビニール袋四つ分平気で抱えてらっしゃるわ。

「お帰り、今お茶の準備してるの」

「そっちやるからこれ冷蔵庫に詰めてくれない? これ以上台所壊さないで。梅雨子、お茶飲んでから夕飯作るの手伝ってよ。どうせ泊まる気なんでしょ?」

 さすがは同級生、私の考えバレバレだわ。なつが台所に立つのは実兄でも嫌がるのよ。

「お姉様までそんな言い方……」

「だって事実ですもの。それより満田さん、留守番ありがとうございました」

「僕もお手伝いしますよ」

「いえもう結構です、お仕事抜けてこられてるんですよね?これ以上のおサボりは不味いんじゃないでしょうか?」

 あらあらおサボりなの? なつそういうの結構嫌がるのよねってコイツもしかして強引に上がり込んでるんじゃない?

「満田君、これ以上ご迷惑かけられないから仕事に戻って」

 なつが困った表情で木偶の坊を気遣う。やっぱりそうか。

「いえ大丈夫です、会社には直帰する旨を伝えますので」

 何言ってんのこの男、それを嫌がってるって事がどうして分からないのかしら?図体ばかり無駄にデカくて脳内にまで栄養が回らなかったのね。

「その皺寄せは誰が払うのかしら? あなたがそうする事で仕事が増える方が何名かはいらっしゃる訳よね?」

「あなたには関係ないでしょう」

「私には全く関係無いわよ、ただあなたの皺寄せを被って仕事が増えた方にだって都合はあるんじゃないかしら? ご家族が体調不良だから定時に上がりたい、今日は土曜日だから仕事を少しでも早く切り上げて夜のデートを楽しみたい。ひょっとしたらプロポーズを予定してる方もいらっしゃるかもね」

「それは個々で何とかすれば……」

「大抵の仕事は何だかんだでチームプレーよ。私の仕事はここまでです、てのはあってもチームノルマは存在するでしょ? やむを得ない事情で人員が減ることはあっても、サボりで仕事が増えるのは心情的に腹立たしい話よね?」

「そうだよ満田君、こっちは十分助かってるから。今日はどうもありがとう」

 なつは木偶の坊の荷物を持って玄関に向かわせてる。どうぞそのままお帰りになって、あなたが居ると酸素が減るから。

「夏絵さん……また連絡します」

「今度はちゃんと約束してから会いましょ」

 なつらしい言い方ではあるけどそんなのと繋がってる必要あるかしら? まぁそこまでの口出しは野暮だけど。

「やっと帰ったね〜あの木偶の坊」

 木偶の坊のご帰宅を見計らって冬樹と輝が二階から降りてくる。超絶シスコンのお眼鏡には叶わなかった訳ね。

「それにしても参ったわ……なつ、これからどうするの?」

 春香が困った表情でお茶を並べながら妹の心配してる。コイツをオス化させないためさっさと手を切った方がいいと思うわよ。

「う〜ん、今日のでマイナスポイント」

「だったら早目に縁切りなよ〜、ああいうの続けられると僕困るんだよね〜」

「うん、ゴメンねふゆ。ちゃんと話するから」

「なつが悪いんじゃないでしょ」

 はぁい。冬樹はなつのせいじゃないと分かっていても不機嫌丸出しでムスッとしてる。

「……あれなら霜田の方がマシじゃねぇかよ」

 霜田?あぁこの前のお見合い相手の男ね……って返事しようかと思ったけど、誰にも聞こえてなかったみたいだから私も聞かなかった事にする。その後しれっと通常運転してたから多分独り言ね、低すぎる春香の関門すら越えられない木偶の坊との未来は無さそうで安心したわ。

 その後秋都がミッツを連れて帰宅してきたので、春香と私とで夕飯を作って大人数での食事を楽しんだ。なつは明日は早いからと輝と栞のお守りを買って出てくれ、五条三兄弟、らんちゃん、ミッツ、私とでこっそり会議をしていた。

「そんな事があったんですか……ベタ惚れも行き過ぎると鬱陶しい事この上ないっすね」

 ミッツは只でさえ悪い目つきが更に悪くなりつつも何故かニヤリと笑う、これは何かありそうね。いくら二十六歳と若くても“石渡組”の次男坊、侮るなかれだわ。ってかコイツの方が数段マシなのに報われぬ片思い……。

「今回ばかりは私も賛同しかねるわ」

 と春香。私と同様相当お嫌いみたいね。

「ああいうのはでっかい埃溜めてるもんだから何もしなくていいと思うぜ俺は」

「あき兄ちゃんの場合単なる無策でしょ〜」

「うっせぇわ! 手を汚す価値も無ぇっつってんだ」

 つまりあきは木偶の坊が失態を犯せば自ずと消滅するって言いたいのね。それ案外使えるんじゃない?

「それになつ自身も冷めかかってるかも知んねぇぞ、この前はもうちょっとときめいてた感あったのに」

「だったら冷めるの待ちましょうか……」

 らんちゃんの言葉に春香が頷いた……あっ、私ひと言も喋ってないわ、だって何もしなくてよさそうなんだもの。

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