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平凡な女には数奇とか無縁なんです。  作者: 谷内 朋
ガチで婚活三十路前 〜良くも悪くも変わり時編〜
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cent soixante‐deux 有砂

「どっかで五条を見たのか?」 

 尊君も二人の表情と言い回しが気になるみたい。

「あ〜……言っちゃって大丈夫だよな?」

「『先約アリ』で断わってんだからいいでしょ。見られたくないんなら近場でうろつくなって話だもん。実は降谷と合流して、ウチの職場から市駅へ行くまでの道すがらで夏絵ちゃんが佐伯と一緒にいるのを見掛けたのよ。多分六時半少し前くらいだったと思う」

 へっ? 佐伯だと? 先約ならしょうがないけど、アレに先を越されたってのがちょっと……いやかなり悔しい。

「佐伯? 何で今更?」 

 尊君も嫌そうにしてるなぁ、当時はなつのことが好きだったんだもんね。

「それは分からないけど、高階さん佐伯のこと知ってるの?」

「あぁ、大学の後輩。サークルん時はあの二人ずっと一緒にいたから」

 そうでしたそうでした、忘れがちな事実だけどそうでした。

「じゃあ公立大学のハイキングサークルに所属されてたの? どうして見憶えが無いんだろう?」

「尊さんは二つ上だから、A大学との合同活動が始まる前に卒業されてんだよ」

「あっそっか。んじゃ話戻していい? 今週の頭に、佐伯が職場の宝飾売場でペアリング買ったって噂話は聞いてたのよ。県知事の甥子様だから、南部出身の子からするとちょっとした有名人だったりするじゃない。その話とさっき見掛けた感じだと、多分夏絵ちゃんへの誕生日プレゼントだったんじゃないかな? って」

「へっ? 振ったの佐伯の方だろ?」

 うむ、恋愛経験の乏しいもとい良い彼女に恵まれたぐっちーには理解できぬであろうな。ってか私にもよく分からぬが、韓国行ってホームシック的なのに罹って、過去の行いを棚に上げて未練を呼び覚ましおったか。

「うん、そう聞いてる。けど佐伯ってドラマチック症候群的なところがあるからね」

「大方『寒い気候と辛い食べ物が苦手だから、僕の都合で振り回したくなかった』とか今になって言ったんだろ。ついでに言えば佐伯は自立した考えの持った敏い女が嫌いなんだよ」

「だからって春香さんに告る必要ある?」

 ならいきなり交際解消なんぞしなくても、遠距離恋愛で様子を見たって良いんじゃないのか? 何故あんなことをしたのかがずっと不思議だったんだよ。

「既成事実というか印象を残すためのシナリオかも知んないぞ。それ自体を事実にしておけばはるさんにも記憶が残る、表現が正しいかはともかく、五条の身内をUSBとして利用したんだよ」

 なつはその事実を知って寝込むほどのショックを受けた、ボス姉は理由を知りつつもなつを献身的に看病してた。最初のうちはボス姉の手料理を食わなかったらしく、短期間ではあったけど姉妹仲がギクシャクしたみたいだった。

 もしかしたら佐伯の狙いはそこにあったのかも知れない。なつにとって一番大事なものを敢えて壊すよう仕向けて、あわよくば仕事を辞めて赴任先に飛んできてくれるとかいうシナリオを作ってた可能性も……考えたくはないけど、佐伯ならそれくらいのことはやってのけそうな気がする。

「杞憂であればいいけど、佐伯は自分の思い通りにするためなら平気で嘘も吐くし他人の迷惑なんか顧みない。三年待って思い通りの結果にならず計画の中身を替えた、それが多分今のやり方なんだと思う」

「なつに家庭事情を話さなかったのもそのためなのか?」

 これはげんとく君も似たようなことを考え始めてるかも知れない。杞憂でなかったらこれはかなり恐ろしい事態になるかも……。

「多分そうだと思う、これが今になってじわじわ効いてる気が……あ〜しくったかも知んない!」

 降谷は大きく息を吐いて天を仰いだ。

「おいおいどうしたんだよ?」

 隣に座ってる尊君が後輩を宥めてる。

「いえ俺の考えの甘さにちょっと……」 

「そこに責任を感じるな、五条がそう決めてる以上俺らに入れる隙なんか無いんだって」

「まぁそうなんすけど、佐伯のああいうところはガキの頃からずっとあって。大学入って五条と付き合うってなった時、アイツの純粋さに触れて変わっていくことに期待したんです。けど五条の純粋さを逆手に取って舵を奪っちまってる現状を考えたら、間に割って入ってでも引き離すべきだったかも……最近後悔みたいなもんが渦巻いてる感じなんですよね」

 降谷はチャラいが友達思いだ。だからこそ欠点も理解した上で一定の距離感を持った付き合い方をするんだけど、佐伯に対しては限界が来てるみたいだな。

 コイツも中学までは一緒だったんだけど、初対面の時から相性的に合わないとは思ってたんだ、そもそも持ってる空気感とか思考、価値観がまるで違う。

「まぁそれ以上考えんな、煮詰まってる脳みそで考えることなんかロクなもんじゃねぇぞ」

 こうたは自分で注文してたスパークリングワインを降谷のグラスに入れてやってる。

「これ思いっきりブーメランじゃん」

「ハハハ、自業自得だな」

 こうたと降谷はワインを入れたグラスをチンと合わせる。それが派生していろんな所で乾杯を交わし、私もまだ乾杯してなかったつかさちゃんの席へ向かう。

「急に誘って悪かったねぇ」

「全然嬉しいよ、それに明日お休みだし」

「お〜珍しいねぇ」

「土曜日に休めるの久し振り」

 んじゃラストオーダーまで盛り上がっちゃいましょ〜! ってなったら安藤と降谷の帰りがヤバいな。

「カンナちゃん、明日は仕事?」 

「いえ休みだけど」

「俺も、明日デートしよ♪」

「しない」

 そのチャラさもうちょい何とかならないのか……けどそうやって気分転換を図ってんのかも知れんなぁ。


 ケーキも頂いてラストオーダーの時間も過ぎ、さぁ帰ろうとなったので尊君と私で安藤と降谷を駅まで送ることにした。商店街メンバーとげんとく君は方向が違うから店の前で別れたんだけど、何か駅がやたらと混雑してるんだが。

「似たようなのが……マジかよ?」

 取り敢えず駅の改札まで行ってみたところ、私鉄沿線で事故があったみたいで全線でストップがかかっちゃってる。しかも降谷が帰る市駅方向で起こったとかで、復旧の見込みが立っていないという手書き文書がボードに貼られてある。

「これバスもヤバいんじゃない?」

 と安藤が利用してる駅北口のバス停に行ってみると、これまた普段であればありえない人たちがずらーっとバスが来るのを待っていた。

「これ乗れるかね?」

「いざとなれば歩くけど」

 いや止めとけ、最近時間問わず不審者が彷徨いてんだよこの辺。

「ホテル泊まろう、カンナちゃん」

 ホテルに避難は別に良いけど、何で安藤を誘う必要があるんだよ?

「それなら歩く」

「ツインルームにするからさ」 

 それ以上は止めとけ、余計嫌われるぞ。

「なら家に避難するか? こんな所で何時間も待つより良いだろ」

 ちょっと遅いからお父ちゃんにメールだけしとこ。

「それは助かるけど、ご家族のご迷惑にならない?」

「いやあんま気にしない方なんだよ……来た来た」

【電車の事故だろ? 人身+脱線事故だったみたいでトップニュースになってるぞ。大したもてなしはできんが、家で良いなら上がってもらえ】

 お父ちゃんからほぼ即レスで、それなりの大事故であると分かる内容が返信されてきた。

「運転再開までまだかかりそうだよ、父の許可も貰えたから家に寄んな」

 私は帰宅困難となった降谷と安藤を誘い、元からお泊り予定だった尊君と四人でコンビニに寄ってから我が家に集合した。

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