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平凡な女には数奇とか無縁なんです。  作者: 谷内 朋
ガチで婚活三十路前 〜良くも悪くも変わり時編〜
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cent soixante et un 有砂

 さてなつが……っとこのところ風邪気味だったてつこも体調不良でアウトとなった飲み会は、駅ビルのレストランに最近入ったイタリアンバルにした。この店は職場の同期レイコと先に下見してて、料理も接客も予想以上に良かったから即刻予約をした。

 代わりにつかさちゃんとチャラい降谷に声を掛け、何とか九人揃えて午後六時に飲み会スタート!

 今のところ尊君、ぐっちー、こうた、まこっちゃん、げんとく君、私の六人。安藤はもうじき着くってさっき連絡があった。つかさちゃんは偶然の早出でも今くらいに、チャラい降谷はもうちょい早めに終わるらしいけど、市駅のショッピングモールで働いてるつかさちゃんと合流するって言ってたからもうちょいかかるな。

『いらっしゃいませ』

「内海の名前で予約しております」 

 お〜この声は安藤だな。

『内海様のお連れ様ですね、ご案内致します』

 私たちは九人という大所帯客なので、一番奥の席に敷居を立ててもらった半個室状態になっている。外の様子は伺えないけど、足音が近付いてきているのは分かる。

『失礼致します、お連れ様ご来店されました』

 お〜来た来た。店員さんは挨拶の後に安藤をエスコートしてすぐにその場から離れていった。

「こんなお店あったのね?」

「最近オープンしたんだよ」

 安藤はやや薄暗めながらもイタリアンな店内を見回している。うん、この子も馴染んできたな。

「安藤、先に飲み物頼みなよ」

 ここでも紳士なまこっちゃんが安藤にメニューを手渡してる。安藤はまこっちゃんの向かいの席に座って早速メニューを吟味している。

「白ワインにしようかしら?」

 相変わらず決めるのが早い、ものの一分で即決しおったわ。

「どれだ?」

 最下手にいるぐっちーがメニューを覗くと、安藤はこれと言いながら指差してた。

「それボトルもあるぞ」

「じゃそっちにする」

「なら俺も貰っていいか?」

「えぇ、ならグラスは二つね」

 なんてことを言いながら和やかに会話してるぐっちー、こうた、安藤。こんな光景が見られるなんて子供の頃は想像もできなかったよ。てつこは風邪だから仕方ないけど、なつは予定を変更させてでも来た方が良かったんじゃないかと思う。

 しばらくはこの七人で飲み食いしてて、他愛のない世間話とかでそれなりに盛り上がっていた。んでこうたの嫁でありなつの後輩でもある桃ちゃんがもうじき出産を控えているので、名前をどうしようかなんて話も出たりした。

「もう女の子って分かってるの?」

 安藤は積極的に会話の参加してる。こうたとは馬が合うみたいだな。

「おぅ、嫁さんが桃子だから花か果物の名前にしようかと思ってんだ」

 こうたはケータイのメモ機能を広げてみんなに見せる。

「無難に桜子と梅子とか……最近『子』の付く名前少ないから逆に新しいと思ったんだけど、嫁さんに反対されてさ」

「悪かないと思うけど、桃ちゃんが反対すんなら却下だろうな」

「読みづら過ぎるキラキラネームもなぁって感じだしさ、結構難しいよな。最近姓名判断の本買ったんだけど、やれ画数だの名前分けがどうだのって面倒臭ぇんだよ。かと言って馴染める名前付けてやりたいし、後々後悔するのも嫌だからさ」

 私はペットすら飼ったことが無いから命名自体したこと無いんだよな。こん中じゃ唯一の既婚者だし、むしろこっちがこうたを参考にしてる感の方が強かったりもする。

「『胡桃(くるみ)』ってのは?」

 アイデアマンぐっちーが早速案を出してる。

「あ〜最初は良いと思ったんだけど、それだと『桃』が入るから名前分けになっちまうんだよ」

「姓名判断だと平仮名は推奨してないもんな」

 げんとく君の言葉にこうたが頷く。そんなのもあんのかよ?

「ちょっと煮詰まっちまってさ、何か良い名前無ぇかなって」

 なかなかに難しいことを……みんなそれぞれに名前を考えてるのか一旦会話が途切れる。にしても名前って一生モンだから、いざ付けるとなると難しいなこりゃ。

『失礼致します、お連れ様二名ご来店なさいました』

 お〜、つかさちゃんとチャラいのが来たか。

「お待たせ〜、ってどうしたの?」

 さすがはアパレル女子、身長もなつより高くてスタイルも抜群なんだよこの子。

「ん、こうたの子供の名前考えてた」

 ここは幹事の私が返事しとく、みんな真剣に考え中だから。

「あっ、もうすぐか」

「おぅ、だけど今煮詰まってる」

 こうたは二人の方に顔を向けてる。

「んなじゃ良い案浮かばないぞ、そういうのは降って湧くぐらいが丁度いいって」

 うん、その辺は降谷だな。

「それもそうだな」

 当事者こうたが早々に考えるのを止めたので、他の面子も思考モードを打ち切ったみたいだ。

「あ〜っと俺は初対面ですね、高階尊です」

 あ〜そだ、彼こういうのに馴染むの早いからつい紹介するの忘れてたわ。

「武智つかさです、もうじき苗字変わるのでつかさって呼んでください」

 つかさちゃんは尊君と挨拶を交わしてからまこっちゃんの隣に座った。

「私も初めましてですね、安藤カンナです」

 そう言や安藤も初対面か。

「武智つかさです、カンナちゃんって呼んでいい?」

「えぇもちろん、宜しくね」

「私のことはつかさって呼んで」

 私にとっては今更なんだけど、安藤って上品そうにしてるけど物怖じしないタイプなんだよ。くれちゃんは何とかてつことくっつけようとしてるけど、何気にグジグジしちゃうてつことなら合うって考えてんだろうな。

「お久し振りカンナちゃん」

 美女が大好物の降谷は馴れ馴れしく安藤の隣に座ってら。

「えぇ、そうでしたっけね」

 えっ? この二人会ったことあんの?

「ツレないなぁ、君と僕との仲なのに」

 一体どんな仲なんだあんたら?

「実は一度飲み会で会ってるの、中西君が連れてきて」

 あぁてつこ繋がり? 性格はほぼ間逆なんだけど仲は悪くないんだよ。

「そうなの? チャラいでしょコイツ」

 とつかさちゃん、この二人元は付き合ってたんだもんね。

「確かにチャラいわね」

「オススメはしないよ、邪魔立てもしないけど」 

 まぁ性格は悪かないからな。とっくに別れてるけどこうやって付き合いを続けられてるってことは、人間性もそれなりに評価してるってことだろお互いに。

「いやオススメしろよ」

「邪魔はしないっつってんでしょうが」

「ん、なら良かったじゃん降谷」

「後藤からもオススメしてよ〜」

「そういうのは各々でやってくれる?」

「え〜っ」

 二人に素っ気なくされて若干凹む降谷、まぁコイツこんなことでへこたれりゃしないんだけど。

「ところでカンナちゃん、白ワイン好きなの?」

 降谷は安藤が注文してたボトルワインを指差した。うん、よく見ると空だな。

「えぇ、詳しくはないけど好きよ」

「ならもう一本頼んでシェアしない? 君の好みが知りたくて」

「それは構わないけど、今日は冷房が入ってるのかしら?」

 安藤は降谷のくっさい台詞に二の腕を擦っていた。

「追加頼むんならその瓶貸せ〜」

 何気に世話好きなぐっちーは、空になった食器たちを端に寄せたり追加注文をしたりと大忙しだ。こういう奴が一人いると幹事ってめちゃくちゃラクなんだよね。

「デザートどうすんだ?」

 それなんだよ、元々はなつの誕生日が近いからサプライズでホールケーキ用意してもらってたんだよな。

「実はなぐっちー、なつが来るのを想定してサプライズバースデーの計画を立ててたんだ。本人来ないからサプライズは止めてもらったけど、折角だからケーキは食べようと思ってキャンセルしてないんだよ」

 最初はこうたんとこで作ってもらおうと思ってた。けど今からは時期的にひな祭りケーキってもんがあるから、そっちに忙しくて時間が取れないってなったんだよ。

 そしたらここの担当パティシエさんとこうたが専門学校の同窓生ってことが分かって、その縁でサプライズバースデーの話が出て対応してもらえることになった。なのに主役が欠席であちゃ〜になって、でもケーキは食べてみたいよな〜で今に至るってワケ。

「大会優勝者のケーキだから貴重だぞ」

 こうたもそうお薦めしてたし、こんなでもしないとそう食べられるもんじゃないから、つかさちゃんと降谷がひとしきり飯食ったら出して頂こうかな?

「んでもまずはつかさちゃんと降谷の飯だな。そう聞いたらなつ何で来なかったんだろなって思うわ」

 ぐっちーも、なつがこの手のものに参加しないってのに違和を感じてんだろうな。

「先約があるんならしょうがないだろ、こっちもバタバタで決めたからギリになっちゃたのも間が悪かったんだよ」

「先約? あぁアレだな」

「アレね」

 降谷とつかさちゃんが顔を向き合わせて嫌そうな表情を見せている。ん? 『アレ』って何だ?

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