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平凡な女には数奇とか無縁なんです。  作者: 谷内 朋
ガチで婚活三十路前 〜切っても切れない元カレ編〜
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cent quarante-sept

 久し振りに体が軽い。

 今凄くふわふわしてる。

 一年振りに出したお気に入りのワンピースに袖を通し、いつも以上に念入りにお化粧を施している。普段付けない香水を少し振り、バッグも靴もワンピースに合わせて買ったお気に入りのアイテムだ。

 普段は使わない、とっておきの時にだけ使うアイテムを身に着けると凄く気分がいい。何なんだろうこの気持ち、一過性のときめきとは違う至福の時。周りの景色はいつも通りだけど私だけはいつもと違う、何か違う者に生まれ変わったような感覚がある。


『この後、会えないかな?』


 たったこれだけの言葉が幸せな気持ちにさせてくれる、このところ続いていたイヤ〜な塊が一瞬にしてほどけていく。これまでのこだわりが馬鹿みたいだ、もっと早く素直になればあんな嫌な思いをしなくて済んだのに。

 私はウキウキした気持ちを乗せて駅に入り、待ち合わせ場所であるランドマークホテルに向かう。今日は奇しくもバレンタインデー、先に『文子洋菓子堂』に入って滑り込みでマカロンを買っている。

 彼はこのマカロンがお気に入りで、アルバイトをしてお金を貯めて初めてあげた本命チョコだった。彼のために買ったのに、『一人で食べるよりは』と言って半分分けてくれた。

 思い返せば彼との思い出は沢山ある。五年分の悲喜こもごもを、これまでの私は全部否定して忘れようとしていたの? 何て勿体無いことをしてきたんだろう、あの時はああするしかなかったのかも知れないって何で考えられなかったんだろう?

 待ち合わせ場所との距離が近づくにつれ、少しずつ心拍数が上がっていくのを感じてる。脳内で余計なBGMもかからず、世界は淡々と時を刻んでいく。


 一度電車を乗り換え、普段仕事では使わない方向の電車に乗る……たったこれだけのことがドラマチックに感じられ、シンデレラにでもなったような気分になる。快速急行に乗っているのになかなか目的地に着いてくれない、待ち遠しい、彼に会いたい。

『間もなくランドマーク前、ランドマーク前でございます』

 待ちに待った待ち合わせ場所最寄り駅に到着し、逸る気持ちを抑えながらも早足で目的地に向かう。私はホテルと直結しているホテル三階の改札口から外に出ると、すぐ前のオープンカフェであの時と変わらない笑顔で私を迎えてくれる彼。

「ごめん、待った?」

 その笑顔を見た瞬間、六年という時間があっという間に取り戻された。

「そんなに待ってないよ、先にここで休もう」

 私たちはカフェに入り、久し振りに向き合って座った。

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