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平凡な女には数奇とか無縁なんです。  作者: 谷内 朋
ガチで婚活三十路前 〜切っても切れない元カレ編〜
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cent quarante-cinq てつこ

 降谷、お前今何つった?

「何? 聞き逃した?」

 いやそうじゃない、どこをどうすりゃそんな言葉出てくんだ? 俺にはお前の考えが分からない。

「まぁ俺それなりに大事なこと言ったつもりだったんだけど。だから敢えてもっかい言うわ、とっとと抱け」

「……」

「はい、お返事は?」

 馬鹿か、そんなもんに返事なんかできる訳ねぇだろ。

「何だよ素直じゃないなぁ。ホントはとっくに気付いてるくせにぃ」

「考えたこと無ぇよ」 

 嘘言え。降谷は呆れましたと言わんばかり大袈裟に肩を竦めてみせる。そう思ったことなど一度も無い、俺にとってアイツは所謂気のおけない友達ってやつだ。

 確かに基本アイツにしか本音を言わないってところはあったかも知れないが、単純に話を聞いてまるっと受け入れてくれる安心感に勝手に甘えてるだけだ。

「なぁ中西」

 降谷はテーブルに肘を付き、小さい顔を手のひらに乗せて俺をじっと見つめてる。返答を催促してるのは分かってる、しかしどう返事すりゃいいんだよ? お前自身が求めてる返事以外受け付ける気無いくせに。

「それで全部解決すんだよ」

 いやしないだろ? アイツの気持ちはどうなんだよ?

「簡単に言うな」

「いいやむしろ難しく考えんな。取り敢えず抱け、後のことはそれから考えろ」

「普通逆だろ?」

「まぁ普通(・・)はな、けどお前の場合はそれくらいで丁度いい。中に溜めてるもん一遍全部出せ、これ以上溜め込んでたらお前自身がぶっ壊れるぞ」

「その前になつを壊しちまうだろ」

 それだけは絶対に嫌だ、それなら俺自身が壊れた方がいくらかマシだ。

「んなもんで壊れるかよバーカ、強姦しろっつってんじゃないんだからさ。せめて思ってることはちゃんと出せ、どんな結果になるにしろ、五条ならちゃんとレスポンスしてくるはずだ」

 いやだから待て、俺はなつに惚れた腫れたの感情を持ってないんだよ。勝手に話を進めんな。

「う〜ん、結構強情だなぁ」

 何薄ら笑い浮かべてんだよ、俺は降谷の態度にイライラさせられている。

「おい、お前楽しんでるだろ?」

「いやそうでもないけど。ってかそうも言ってらんない」

 おい今度は何言う気だよ? 俺の脳みそじゃ処理し切れないんだが。とにかくもうこの話は終わってくれ、頭ん中ぐちゃぐちゃだ。

「悪いがもうちょい付き合ってもらう、事の次第によっちゃ五条が壊れる事態になるからな」

 なつが壊れるって急に穏やかじゃないこと言い出しやがって。けど話の主導権は降谷に握られてしまっている。今更コイツの思った返事を与えてやってもこの状況からは抜け出せないだろうな。

「何だよ?」

 話だけなら聞いてやる。

「そうこなくちゃ、まぁお前に他の選択肢なんか無いんだけどな」

「それはもうどうでもいい」

 今はなつが最優先だ、降谷だって友人としてなつを思ってるのは分かってる。この男は基本チャラいし時々ムカつくが性根は悪くない。買い被っていなければ、本気で信頼している相手になら自己犠牲も厭わないタイプだと思う。表現方法は違うが木暮と似ている節がある。

「それじゃ振り出しに戻っちゃうじゃん、けどまぁお前の耳には入れとくつもりの内容だから」

 とここまでは余裕綽々な態度だった降谷が一気に張り詰めた表情になる。こんな顔見せたことがないので否が応にも緊張が走る。

「佐伯明生が動き出した」

 佐伯?なつの元カレか。去年まこっちゃんとつかさちゃんの結婚式の招待状が送れなかったとか言ってたな。連絡も取れなくなってるって聞いてるけど、そもそも俺佐伯と連絡先交換してないんだよ。 

「帰国してるのか?」

 確かになつと別れて割とすぐソウルに赴任したって聞いてるが。前の会社辞めたのか?

「あぁ、それ自体は三年半ほど前に。かなり痩せただの窶れただのって聞いてるから病気してた可能性もあるが、グループメールも外してケータイも使えなくしておきながら、今になって再就職してテレビに出たり同窓会に出席したりしてんだと」

 病気の可能性があったんなら、回復して生活を元に戻そうとしてるってだけじゃないのか? ケータイの解約なら死に直面する病気であれば無くはない決断と思う。

「多分最近ケータイ買い替えたんだろうな、五条にだけ(・・)コンタクト取ってきやがってんだよ」

「だけ?」

「あぁ、昇と敦貴にも連絡先は教えてないらしい。同窓会で会ってるにも関わらずだ」

 そう考えると変だ。小久保と亘理は佐伯にとって幼馴染、同窓会がいつ頃の話か知らないが、今はケータイが無いと何かと不便だと思う。

 それにもう一つ、二人は交際中ご家族との交流を一切してこなかったらしい。今思えば不自然なのだが、四年ほど付き合っていたのに家族大好きななつがあのきょうだいを紹介してなかったのは意外だった。だからはるさんに惚れたので別れてくれなんてことが通用しちまったんだろうな。

 けど何故だ? 佐伯はそんな理由でなつとの交際を終わらせたんだ。それにあれからもうじき六年になる、紆余曲折で未練が出たとしてもちょっと勝手すぎないか?

「変だと思うだろ? 仮に五条とやり直したいにしても、昇と敦貴なら反対なんかしない筈なんだ。あの二人に連絡先を教えてりゃ俺だって疑心暗鬼なんかしないさ」

 何か嫌なもん感じるんだよ。降谷は一旦水を飲み、従業員さんにお冷のおかわりを頼んでいる。

「あ〜喋り過ぎて喉痛いわ、向かいの男が馬鹿だからさ」

 喋り過ぎなのは自業自得だろうが、余計なこと言いやがるから喋る分量が多くなるんじゃねぇのか?

「あぁそれは悪かったな」

「何だ? その言ってやりました感丸出しな態度」

 降谷はおかわりしてもらったばかりの水を飲む。

「そう言わせようとしてんのかと思ってな」

 不満か? そう視線で訴えてやると、目の前の男はフッと吹き出して俺を見た。

「憎たらしい男だな」

「そっちこそ」

 俺は今日初めて肩の力が抜けたような気がしたが、実際は問題が山積していてどこからどう手を付ければよいのか分からなくなってしまっていた。

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