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平凡な女には数奇とか無縁なんです。  作者: 谷内 朋
ガチで婚活三十路前 〜チョコが欲しいか? バレンタイン編〜
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cent quarante-trois ぐっちー

 昨夜はテレビを観てびっくりした。まさかあんな形で知り合いを見るなんて思わないじゃん。

 なつの元カレ佐伯明生は、平賀時計の技術職社員として働いていた。アレ? 前は韓国にいなかった? 多分辞めたからS市にいるんだろうけど、何で誰も連絡取れなくなってるんだろうな。


 そもそもは幼馴染だった佐伯、小久保、亘理、降谷の四人となつが公立大学の同級生として出会い、佐伯とは一年生の時から付き合い出したらしい。あと今はまこっちゃんの嫁だけど、当時は降谷の彼女としてつかさちゃんを加えた六人でつるんでたんだと。

 んで佐伯の提案だったと思うけど、なつの友達とも会ってみたいとかで総勢十二人が集合したことがきっかけで、細々とした交流は続いている。

 特に降谷とつかさちゃんとはちょくちょく会っていて、県外で仕事をしている小久保と亘理とも来月末には会うことになっている。二人はまこっちゃんとつかさちゃんの結婚式に招待してるから、例のイタズラのこと話しておく必要もあるし。

 それにしても帰ってきてるんなら何で誰にも連絡寄越さなかったんだ?小久保と亘理とはめちゃくちゃ仲良かったじゃんか。正直オレらは微妙だったけど。

 佐伯が提案したって割には距離を置かれてたような気がする。個人的な好みだけど、ただ付いてきただけっぽい他の面子との方が付き合いやすかった憶えがある。実際他の四人の連絡先は今でも使うが、佐伯のは音信不通で使えない状態になっている。

 

 去年の今頃にまこっちゃんとつかさちゃんとの結婚が決まり、いの一番に招待客メンバーに上がった他の十人。早速招待状を送ったけど、佐伯の分だけ住所が違うと戻ってきた。んで今度はご実家に送り直したけど音沙汰無し、んで久し振りに登録してる電話番号にかけてみたけど、例のアナウンスが聞こえてきたのみ。

 それを小久保に話したらご実家に掛け合ってくれたんだけど、『本人に伝えます』でそれっきり。亘理も協力してくれたんだけど、結局成果は得られなくて諦めることにした。

『事後報告として葉書でも送るよ』

 この中では佐伯と気の合ってたまこっちゃんはちょっと寂しそうだった。


 んで、今朝から降谷と結婚式の余興用に使う例の物を人数分購入し、島っ子六人に届けに回っているところだ。降谷が商店街側の三人を引き受けてくれたから大助かりだよ。

 オレはまず車を出してげんとくん家へ。本人不在だったのでおばさんに事伝て、お次は有砂ん家へ向かう。

「こんちはー、有砂いますか?」

 庭の手入れをしていらっしゃったおじさんに声をかける。

「いや、今日はデートだ。明日ならいるがどうする?」

 ここの親子は割とフランクな関係だと思う。込み入った恋愛話とかも普通にしてるからな、因みにオレも昔相談に乗ってもらったことあったなぁ。

「いえ、今日は渡すものがあっただけなんで。大したものじゃありませんので置かせて頂いてもいいですか?」

「おぅ、帰ってきたら渡しとくさ。そだ俊坊、茎茶残ってるかい?」

「いえ、売り切れてます。月曜日入荷予定ですね」

「んじゃ一個退けといてくれないか?買いに行くから」

「分かりました」

 オレは物をおじさんに渡してなつん家に向かった。


 五条家の前で車を寄せ、中を軽く覗くとなつの愛用車であるパステルブルーのコンパクトカーが敷地内の玄関脇に停まっている。多分いるな、物を渡してとっとと帰れば大丈夫だろうと車は脇に停車しておく。

 ピンポン♪

 玄関のチャイムボタンを押し、少し待つと末弟ふゆがかったるそうに顔を出した。

「はい……何だ俊ちゃんか〜」

 お前凄い変わりようだな、最初の顔と声アウトだぞ。

「うす、なつは?」

「台所にいるよ〜、上がってく〜?」

「ん〜、車停めさしてくんね?」

「うん、そこ空いてるからいいよ〜」

 冬樹が指差していた空きスペースに車を停めさせてもらい、物を持ってお邪魔させて頂くと、五条家内は何故か焦げ臭い匂いが充満していた。

「お邪魔します……何やってんだ?」

 キッチン内の一箇所に固まってワタワタしているはる姉、なつ、あきの三人。ふゆはちょっと離れた所でニタニタしてる。

「何でなの〜?」

 いや何がだ? と三人が囲んでいるモノから黒い煙がモワモワと上がっている。

「何があったんだ?」

 オレは手空き状態のふゆに訊ねてみる。

「久し振りにやらかしたね〜」

「何をだ?」

「家電破壊、電子レンジお陀仏だね〜」

 またかよ、最近聞かなかったけど。はる姉がキレて触らせてなかったのはガスの方か、洗濯機や掃除機は壊さないのによく分からんメカニズムだよ相変わらずな。

「あら俊、いつからいたの?」

「今っす、なつにコレ渡しに」

 オレは袋に入ってる物を見せた。

「あぁ、ありがとぐっちー」

 これで任務完了だな、何かしっちゃかめっちゃかな状態になってるけど、この後仕事だから帰らせてもらうぞ。

「んじゃお邪魔しましたぁ」

「悪いわね、何のお構いも出来なくて」

 はる姉は電子レンジの中を一生懸命掃除してる。なつとあきはこのせいで発生したゴミを片付けてる。ふゆは……何にもせず姉二人と兄の惨事を面白そうに眺めていた。


 用事も済んで帰宅した時、二軒挟んだ所にある中西電気店で、先代と杏璃が慌ただしく何かしているのが見えた。先代はそれなりにでっかい箱を抱え、杏璃は私も連れてってと珍しく駄々をこねている。

「こんちわ、外注すか?」

「おぅ、久し振りに夏絵ちゃんがやらかしたらしいんだ」

 あ〜結局電子レンジぶっ壊れたんだな。

「それさっき見てきました。例の物渡しに行ってたんで」

 はる姉の掃除虚しく、だな。なつの奴また伝説作りやがった。

「じいじ私も行く!」

 こんなこと言うの珍しいんだけど、杏璃はなつにめちゃくちゃ懐いてるからな。

「五条家に行くったって仕事なんだぞ」

「じゃ支度して一人で行く」

 おいそれちょっとまずくないか? 最近不審者が昼夜問わず出没してるとかで、小学生以下の子は一人で外出させないでってお達し出てただろ?

「先代、一人で行かせるのはまずいっす」

「ん〜、けど哲を休ませてっから迎えにまで行けそうにねぇしなぁ」

 へっ? 今朝普通に仕事してるの見たぞ。

「アイツ昨夜からおかしいんだよ、帰ってきた途端酒飲み出すし、殆ど寝てねぇみたいでさぁ。大ポカしてからじゃ遅いから切り上げさせた」

 ならてつこに行かせりゃって言おうと思ったんだけど車が無い。どっか行ってんのか?

「てつこ出掛けてんすか?」

「おぅ、さっき降谷君が来ててさ。何か知らんが険悪な空気で出てったぞ」

 何なんだろうな? 最近のてつこちょっと様子が変なんだよな。思えば婚活始めたくらいから何か思い詰めてるというか悩んでるというか……元から俺らにそれを話すことってしねぇけどさ、年取ってきたらそういうのも複雑になってくんだから、ちょっとくらい愚痴って吐き出しゃいいのにって思う。

「そうすか、今日五条家は揃い踏みっすからお願いしちゃってもいいんじゃないすか?」

 五条家の連中はその辺りめちゃくちゃおおらかだ、頼みゃ引き受けてくれるさ。

「一人で出てかれるよりはいいか。杏璃、乗ってけ」

「うんっ!」

 それから杏璃は上機嫌で仕事を手伝い、先代と共に五条家へ向かっていった。

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