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平凡な女には数奇とか無縁なんです。  作者: 谷内 朋
ガチで婚活三十路前 〜チョコが欲しいか? バレンタイン編〜
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cent quarante 降谷

 実を言うと俺今日休みなんだよね、朝から『予定』はあるけどさ。

 その『予定』というのが、○○市東部にある“島エリア”って商売人の多い場所にある大型雑貨店でパーティーグッズを買う手筈になってんだよ。んでこの店駅からほど近いから連れを待ってる状態……来た来た。

「お〜悪い、待たせたな」

 この男は“島エリア”の商店街にあるお茶屋の跡取り息子小口俊明。

「いや、丁度いい電車が無かったから早く着いただけ」

「そっか。俺電車ほっとんど使わないから分かんなかったわ」

 職場が自宅じゃ交通機関なんか使わないだろうな、普通に車の免許も持ってるし。

「買ったらすぐに渡すのか?」

「おぅ、当日全員分持っていくのはかさばるしな。小久保、亘理、つかさちゃんの分くらいは俺が預かっとくけど」

(のぼる)敦貴(あつき)の分は預かるぞ、前日に渡せるから」

 んじゃ頼むわ。早速小口と雑貨店店内に入る。

 小口は大学の同級生五条の幼馴染だ。中西なんかも含めた彼らとは、佐伯明生と交際していたのをきっかけに交流が始まった。

 俺は高校入試に合わせてここA県の北隣にあるF県に移住したが、元はA県K市の出身で佐伯、小久保、亘理とは幼馴染になる。んで移住先のF県で武智(たけち)つかさと知り合い、大学二年までは交際していた間柄だった。

 その後社会人になっても彼らと俺らの交流は細々と続き、三年くらい前からつかさが後藤慎と付き合い始めてめでたく三月末に挙式する。

「なぁ、佐伯と連絡取れてんのか?」

 俺らと同様、小口も音信不通状態なんだろうな。最初は佐伯も招待する方向で話を進めてたくらいで、招待状を送ってもスルーされ、ケータイも繋がらないってなってもう諦めてるけどな。

「いいや、ただ急に高校の同窓会に現れたって昇と敦貴が言ってた」

「んじゃ連絡先聞けてんじゃないのか?」

「いや、分かんねぇらしい」

 そっかぁ。小口はどうしたものかと言いたげな顔付きになってる。今更どうでもいいと思うが、物心付く前から一緒にいた奴のことだから気になるってのも理解はしてるらしい。

「昨日さ、平賀時計資料館のニュースやってたじゃん」

 へぇ、俺ん家テレビ無いから分かんねぇわ。

「いや知らね」

「そこに佐伯が出てたんだよ。S市とK市ってそこまで離れてないしさ、実家に戻ってる可能性もあるよな?」

「それ自体は三年半くらい前に戻ってたらしいんだ、ただ何でその間に連絡寄越さなかったんだ? って話だよ。グループメールから外れ、ケータイもわざわざ換えておきながら今になってひょこっと出てくるか?」

 そういうの俺理解できねぇわ。

「でっかい病気でもしたんじゃないのか? やつれてるレベルでガリガリになっててさ、顔色もあんま良くなかったぞ」

「なら同窓会で昇と敦貴にくらい連絡先教えてもよかっただろ、なのに何で……」

 五条にだけ教えてんだ? 結局佐伯にとって俺らは残らなかったってことだろ? それはまぁいい、アイツが決めたことだ。けど自分からフッておきながら、また五条と繋がりを持とうとするとか一体何がしたいんだよ?

「それは確かに変かも、今時ケータイ持ってないって何かと不便だからさ。それに今連絡先が分かっても、まこっちゃんらの結婚式には呼べないな」

「もういいだろ、そんな奴待ってたって時間の無駄だ。それより店開けてんだろ?」

「あぁそうだ、(ブツ)の方は別口で取り寄せてもらってるからすぐ買えるけど、この後六軒寄んなきゃなんないからな」

「手分けするか、俺は商店街の三人のとこ行く」

「んなら俺は車出してげんとく、有砂、なつん家回る。今日は来てくれて助かるわ」

 まぁ彼女もいないし暇だからな。小口はこういった時の判断は割と早いので段取りもスムーズに進めやすい。ここの男連中は何だかんだで全員自営業だから、その辺の判断力に長けているんだろうなと思う。その分周囲から要求もされるんだろうけど、そこらの温室育ちなサラリーマンよりは肝が座ってるな。


 ってな訳で買い物そのものはものの十分ほどで終了し、二手に分かれて物を渡しに行く。小口と別れてから、ここからは一番遠い前之庄宅であるケーキ屋へ。本来なら最後に回って何か買って帰る方が効率は良いのだが、商店街メンバーを引き受けたということは中西んとこに寄んなきゃなんない訳だ。

 他の二軒を残して最初に行くとか面倒臭い……一応昨夜の言い訳もしなきゃだろうから後回しにさせて頂く。

「ごめんください、ご店主は?」

 客として来店してる訳ではないので、一応従業員さんに声を掛けて前之庄を呼んできてもらう。開店からさほど時間も経ってないから忙しそうではあったが、俺だと分かるとすぐに出てきてくれた。

「しばらく振りだな」

「あぁ、今日はコイツを持ってきた」

 俺は予定通り物を手渡す。

「悪いな、こんな役やらせて」

「いいって、俺今日暇だから。んじゃ後藤ん家の裏口でつかさ待たせてるから行くな」

 店内に充満してる甘い香りがたまらん、俺タバコ飲みだけど甘党なんだよ。

「おぅ、じゃあな」

「用事済んだらもう一度寄る」

 結局あの甘〜い香りに根負けし、もう一度立ち寄って何か買おうと心に決めた。

 お次は後藤家、裏口に回って後藤の婚約者であるつかさと合流。今年に入ってから既に同居を始めているから、本人にバレないよう多くは話さない。

「例の物、上手いこと隠せよ」

「分かった、何か楽しみぃ」

 彼女は結構なイタズラ好きだから今からニタニタしてやがる、顔に出すぎだ。

「んじゃな、もう一軒寄るんだ」

「うん、行ってらっしゃい」

 つかさはダボッとしたパーカーの裾をめくり、物を中に潜ませてから屋内に引っ込んだ。

 上手く隠せよつかさと思いながら後藤家を後にし、昨夜の嘘で無駄に難関となった中西家に寄る。今のところ本人はいない……っと、親父さんである先代社長が留守番なさってるから事伝て逃げてやろうか?

「ごめんください、社長さんは?」

 ちょっと他人行儀な物言いをすると、おいどうした?と苦笑いされる。

「今外回りなんだよ、戻るまで待つかい?」

「いえ、コレ渡しに来ただけなので」

 俺は袋に入った物を親父さんに掲げて見せた。

「そうかい、なら渡しといてやるよ」

「助かります、ではお邪魔しましたぁ」

 居ないんならしょうがない、わざわざ待たせてもらってまですることじゃないしな。取り敢えずラッキーで帰らせてもらうわと踵を返すと、運悪く中西電気店の営業車が戻ってきやがった。いやぁお天道様は見てらっしゃるってか? 方便の範疇だったとはいえ、嘘はいけないんだねぇ。

「説明しろ、昨夜のこと」

 やっぱバレてましたわ。

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