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平凡な女には数奇とか無縁なんです。  作者: 谷内 朋
ガチで婚活三十路前 〜チョコが欲しいか? バレンタイン編〜
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cent trente-quatre

 週が明けた月曜日、幸い一昨日のモヤモヤを引きずることなく普段通りに出勤した。

「おはようございます」

「おはようございまぁす」

 ひと足早く出勤なさっている睦美ちゃんと合流し、早速調達品(チョコ)を見せ合いっこする。

「お〜何か重厚そうですねぇ」

 彼女は『文子洋菓子堂』のマカロンに興味津々である。そのタイミングで水無子さんと東さんが揃って出勤、今日は弥生ちゃん遅いなぁ。

「「おはよう」」

「「おはようございます」」

「弥生まだ?」

 えぇ、遅刻って滅多に無いんだけどよく体調不良でお休みはされる。あの後無理してなければ良いんだけど……なんて思ってたらオフィスの固定電話が鳴る。最若手の睦美ちゃんが受話器を取ると、親しい口振りで「おはようございまぁす」って言ってる。多分弥生ちゃんだ。

「はいは〜い、そう伝えまぁす」

 とそれで受話器を置く睦美ちゃん、どうしたんだろう?

「何か事故があったみたいです。課長、弥生さん、仲谷さん足止め食らってます」

 あの三人は県庁所在地に繋がる南方向のJR線を利用してらっしゃる。あそこは『魔の踏切』というのが二箇所ほどあり、しょっちゅうに近いレベルで人身事故が発生している。

「あっ、ニュースになってますねぇ」

 始業前だから睦美ちゃんは自身のケータイでネットニュースをチェックしてらっしゃる。

「ツイッターも賑やかだな」

 係長がそんなことを言いながらケータイをいじっている。

「係長ツイッターなさるんですか?」

「いや、アカウントを持ってるだけだ。有名人のアカウントをフォローするくらいで自分では呟かないな」

 へぇ。私もたま〜に見ることはあるがアカウントは持っていない、見るだけなら無くてもいいからね。そう言えば海東文具はツイッターをやっている……会長が。

「ウチのアカウントフォローしてるんですか?」

「一応な。けど会長の個人的な呟きばっかりで、企業としての呟きなんか全然なさってないぞ。昨日のツイートは平賀時計資料館リニューアルオープンの話題だったからな」

「一昨日から始まってるらしいですね、同期の子も行ったって」

 あぁ境さんですね、事前に貸し切りで拝観致しました。でもそれはさすがに一般公開できないわ。

 そんな話をしているうちに始業のチャイムが鳴る。社長からの放送朝礼で人身事故の話題にもちょこっと触れ、あとは当たり障りのない業務事項のみであっさりと終了した。

「本日も定刻上がりで乗り切りましょう」

 課長不在のため、係長が代行朝礼を行ってから午前の業務に取り掛かった。


 それから大体二時間ほど経って課長、弥生ちゃん、仲谷君が揃って出勤した。

「申し訳ない、俺たちは残業になりそうだが、みんなは定時で上がってくれ」

 と一服も無しで仕事に入り、弥生ちゃんと仲谷君もシビアモードでパソコンに向かっている。この日は休憩時間もずれ込む形となり、この日一日弥生ちゃんとは言葉を交わさずじまいだった。

 

 そして翌日、普段通りオフィスに入ると、課長、弥生ちゃん、仲谷君が既に到着してくださいゆっくりとお茶を飲んでらした。

「おはようございます」

「おはよう夏絵ちゃん、チョコレート頂いてるよ」

 昨日はタイトなスケジュールでお三方チョコレート口にしてなかったもんね。

「うん食べて食べて」

「今年は奮発したのか? マカロンなんて安くないだろ」

「今年は質重視にさせて頂きました」

 一番小さいサイズのものです……とまでは言わない。それでもチ○ルチョコのギフトパックくらいのお値段はするのだから。

「俺たちは恵まれてる、心して食え仲谷」

 はいっ! 返事は良いが勢いよく食ってやがるから、あと一個しか残ってないじゃない。

「課長、一個恵んでください」

「断る」

「弥生さん、一個お裾分けください」

「ダメ」

「夏絵さぁん」

 昨日心して全部頂きました。

「無い」

「そんなぁ〜」

 お前毎年それ言ってんじゃないか、少しは学習しろよ。

「ごちそうさまでした、あとはブレイクの時に食べよう」

 弥生ちゃんは半分くらいを残して箱の蓋を閉め、デスクに戻って業務の支度を始めている。そう言えば先週末どうしたんだろう? 私先に帰っちゃって迷惑かけちゃってるかも知れない。

「弥生ちゃん、この前はゴメンね。急に帰っちゃって」

「良いよ、用事だったんだから」

 彼女はことも無さげに笑顔で許してくれる。

「知らない子だらけで疲れなかった?」

「全然平気、逆に元気頂いちゃった」

「そっか、なら良かった」

「うん、ありがとう夏絵ちゃん」

 えっ? 何に対するお礼? 私は意味が分からず言葉に詰まる。

「三人とも素敵な方たちだね、いいお友達がいて羨ましい」

「そ、そう?」

 有砂と安藤はともかく、木暮さんとは親しくない。

「この歳になっても新しい友達って嬉しいね」

 そうなんだ、あの短時間で親しくなれたんだね……私は又しても疎外感が蘇って胸の中がモヤモヤとし始める。

「夜から健吾君も混ぜてもらって、依田君と中西君(・・・)ともお話させて頂いたの、二人共格好良いよね」

「は?」

 今何て言った? 中西君って言わなかった?

「えっ、何で?」

「何でって、有砂さんが誘ってたみたい。安藤さんだけあぶれるから数合わせ的なこと言ってたよ」

 何余計なことしてるのよ? 別にてつこじゃなくていいじゃない。

「どうかした? 私おかしなこと言った?」

「ううん、そうじゃないの。みんなと仲良くなれたんなら良かった」

「うん」

 弥生ちゃんは私の心の内を知る由もなく、上機嫌で勤務の支度を進めている。私も自分のデスクに戻り、始業を待たずに業務を開始した。

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