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平凡な女には数奇とか無縁なんです。  作者: 谷内 朋
ガチで婚活三十路前 〜チョコが欲しいか? バレンタイン編〜
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cent trente-deux てつこ

 【仕事終わったら逹吉さんにおいで〜】

 有砂からメールを受け取った俺は、閉店の片付けを済ませた午後八時半前に逹吉へと向かった。

「ごめんください」

 そう言や他に誰か呼んでんのか? 何も聞いてないけど。

「いらっしゃいてつこ、一人かい?」

 いや知らん、多分サシってことはないと思うけど。

「いえ、有砂来てると思うんですが」

「奥の座敷にいるよ、お仲間揃えてね」

 お仲間? 小百合さんの口振りだと腐れ縁ではなさそうだ。

「そうですか、お邪魔します」

 取り敢えず入りゃ分かるか。小百合さんの案内で座敷に通してもらい、ふすまを開けると別の懐かしメンバーが顔を揃えていた。

「うぃ〜っすてつこ。懐かしの面子揃えたよ〜」

「よぉ、哲」

 あぁそういうことか、最近依田稔と木暮真姫子夫妻には会ってなかったからな。んでよく見ると木暮の隣には安藤、有砂の隣には高階さんと面識の無い歳の差カップルもいた。

「久し振り中西君、元気そうね」

「あぁ、そっちも」

 木暮は中学高校と野球部のマネージャーをしていたのでそれなりの付き合いはある。面倒看がいい上に美人で身長も高く、特に野球部員内ではアイドル的存在という感じだった。

 そのせいで暗黙の了解で出し抜き禁止令というものがあり、俺の記憶では当時二遊間を組んでいた中西勇樹(ゆうき)が木暮に片思いしていて、接点を持つのに必死だった印象が強かった。

 それだけに、高校を出てから六年かけて稔が木暮にアプローチし続けていたと知った時は意外だった。二人は当時から仲こそ良かったが、そんな雰囲気は一度も見せてこなかったと思う。

 俺は知ってる面々と挨拶を交わしてから安藤の隣に座る。小学校時代の諍いのせいで高校時代は学校以外で接点を持たないようにしていたが、今は仕事でしょっちゅう顔を合わせるので、まぁこの中では一番気易い存在ではある。

「そっちは休みか?」

「えぇ、その代わり明日は仕事」

 そっか。そう言えば向かいにいるカップル……はどちら様?

「お〜、この子なつの同期なんだよ」

 ったくさっさと紹介しろ有砂。海東文具の方なのは分かったが、どういった接点でこうなってるんだ?

「三井弥生と申します。昼頃までは五条さんと一緒だったんですが、急用で帰られたので今はこちらのお仲間に入れて頂いています」

 なるほど、んじゃ昼間はこん中になつがいたんだな。隣の方はご主人か?

「中西哲です、もしかしてご夫婦ですか?」

「十月に挙式予定です、でも姓は同じく三井でして」

 と男性の方が答えてくれた。

「三井健吾です、本日はお邪魔しています」

「それは僕も同じくですよ」

 高階さんは上機嫌でビールを飲んでいる。この人どこ行っても上手くやってけるタイプだよな。

「なつ、いたんだな」

 あいつは割と付き合いが良い、急用とは言え途中退席なんか珍しいことだ。

「うん。なぁんか知らんが辛気臭かったぞあやつ」

 有砂は尻軽だが友達思いだ。腐れ縁共の微妙な気持ちの変化なんかも割と察知してるところがある。

「私がはしゃぎ過ぎたからかな?」

 木暮は気配りができるだけに責任感が強すぎる。今は休職していて、外出も久し振りだっただろうから多少はしゃぐのは仕方がない。なつだってそれくらいのことで機嫌を損ねたりはしないと思う。

「仮にそうでも今日のなつの態度は頂けん!」

 それだけに時として辛辣なこと言うんだけどな。

「私は真姫子さんとお話するの凄く楽しいですよ」

 多分初対面であろう三井さんもそう言ってるんだからあんま気に病むな木暮。隣にいる安藤はそっと木暮の背中を擦り、大丈夫だと慰めの視線を送ってる。この二人を見てると、女の友情も捨てたもんじゃないなと思う。

「ありがとう、今日みんなに会えて良かった。新しい友達もできたし」

「そう言ってくださって嬉しいです」

 木暮と三井さんは気が合いそうだな。

「なら敬語やめよっか、同い年なんだしさ」

 稔はその辺相変わらず雑いが、木暮にはこの雑さがいいのかも知れないな。

「あ〜何かごめん、俺二つ上なんだわ」

 高階さんはなつの高校の先輩だったよな。

「私は十五歳上です……」

 えっ? 兄貴と同い年かよ、健吾さんは身なりをきちんとされているだけに若く見える。

「あっすんません! お二人には敬語使います!」

「「いやいやそこまで大仰にしなくても」」

 健吾さんも割と社交的なタイプのようだ。三井さんは大人しめには見えるけどこの空気に馴染んでらっしゃるな。

「あの、不躾なこと言っちゃってもいいですか?」

 と三井さんは俺の顔を見つめてくる。いやどうした?何か凄くキラキラした視線を送られてるんだが……。

「高校時代の話ですが……実はファンでした!」

 ……えっ?

「「「「「「マジ〜〜〜〜〜ッ!」」」」」」

 煩ぇわあんたら。

「確かにウチのこと詳しいなとは思ってたけど」

 稔とは先にそういう話してたんだな。

「友達の付き添いだったのは本当なんです。でも最後の試合で見た中西君のマウンド度胸が物凄く格好良くて」

 あぁアレか……でも必死過ぎて記憶が朧げでしかないんだよ。控え投手は他にも三人いたのに、高校入ってまともにマウンドに立ってなかった俺を、監督さんは二人目の投手としてマウンドに上げた。

 あの采配は当時意味不だったが、大分後になってから『相手さんのデータに無かったと思う』のと『中学野球での投手経験』で決めたと仰っていた。

「コイツ中学ではちょっと投げてたんだよ」

 そっか、J中との対戦でちょこっとだけ投げてるからな。ってか稔は中学時代エースナンバーを付けていた。

「そうなんですね。控え投手の方を温存するにしても、依田君が投げるのかな? って当時思ってたんです」

「俺投げるの嫌いなんだよ、中学時代はガタイデカくて左利きだから投手やらされてただけ」

 三井さんは稔とも気が合うらしい、敬語抜けてないけど。

「なら当時てつこ追っかけてたのぉ?」

「いえそこまではさすがに……彼女さんいらっしゃる方の追っかけって気が引けますので」

 三井さん、今ここで爆弾投下すんのやめてくれ。

「彼女ぉ? あぁマジでいたんだ」

 彼女の学校の都合で隠してたからな。ん〜まぁ十年も前のことだし、今更白状しても何てことないんだけどさ。

「中西君その手の噂話絶えなかったもんね」

「ハッキリ言わなかったからよ。いるならいる、いないならいないって」

 木暮と安藤は俺に冷たい視線を向けてくる。けど待てよ、俺彼女と球場では会ってないぞ。それとも三井さん、球場以外の俺を見たことあるのか?

「他の場所で見たとか?」

 健吾さんの言葉に首を振る三井さん。

「球場と学校以外では見かけてないよ。遠目からだけど、その日関係者以外立ち入れない駐車場に女の子が一人ずかずか入って、中西君にペットボトル渡してたところを見かけたの。あんなに堂々と入っていけるくらいだから、最初は父兄さん絡みの方かと思ってたんだけどすぐに出て行かれたのよね。だから彼女さんなんだろうなって」

「えっ? 何それ?」

 と眉をひそめる木暮、一応規律違反になりかねないからな。勢い余って受け取っちまった俺にも落ち度はあるけど、そいつ彼女じゃない。

「その女どんな奴?」

 稔のやつ変な興味示しやがって。

「顔はハッキリ分からなかったんだけど、背は高めで黒髪をポニーテールにしてたと思います。黒のブラウスに襟と袖口と裾の部分に白のラインが入ってて、スカートの裾にも白のラインが入ってました。多分制服だと思うんですが、夏服で黒基調だったので珍しいなぁって」

「それ県立高校だ、俺の母校だから間違いないわ」

 高階さんの仰る通り、県立高校出身のあの女です。

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