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平凡な女には数奇とか無縁なんです。  作者: 谷内 朋
ガチで婚活三十路前 〜チョコが欲しいか? バレンタイン編〜
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cent trente et un

 てつこは小学生の頃から少年野球チームで野球をやっていた。体は小さかったけどセンスはそこそこあったみたいで、小学四年の途中くらいからレギュラーメンバーに入っていたと思う。

 中学時代も野球部に所属。当時第三中学は地区大会すらまともに勝てない弱小チームで、誰も野球部になんて見向きもしなかった。ところがうちの学年が主力になった途端あれよあれよと強豪校の仲間入りを果たし、最終学年の夏は地区大会で優勝までしてしまった。

 そのせいで県内の私立校からいくつかの野球推薦を受けていたらしいが、すべての推薦を蹴って当初から決めていた総合高校電子工学科へ進学した。

 高校に入ってもそのまま野球を続け、一年生の秋からレギュラーメンバーとして部活動に忙しくしていた。その頃から総合高校野球部は一気に力を付け始め、県内の強豪校をバッタバッタとなぎ倒す快進撃が話題となった。

 そうなってくると、てつこの周囲には違う制服の女の子たちが実家である電気店を覗いたりしていた。何かよく知らないけど、もう一人中西ってのがいてその子とコンビみたいな形で知られてたみたいだ。

 かと言って彼女……周央清乃がいたので、追っかけ的な子たちの相手は一切しなかったと思う。私もたまにてつこの恋人に間違えられたことがあるが、当時は冗談じゃないとなるべく寄り付かないようにしていたと思う。


 けど三年生夏の県大会決勝戦はさすがに観に行った。総合高校のピッチャーの子が試合序盤で脱水症状を起こしたとかで、内野のどこぞを守っていたてつこが急遽ピッチャーになってボールを投げ出した。

 多分六回分くらい投げてたと思う。序盤でそれなりに点を取られていたけど、味方打線の踏ん張りとてつこが点を取られなかったのが功を奏して延長線にもつれ込んだ。

 その後別の子が投げてホームラン打たれて負けちゃったけど、総合高校野球部史上初の決勝戦進出で周囲は大いに盛り上がっていた。

 最後くらい労ってやるか……そう思って球場近くのコンビニでスポドリを買い、野球部の送迎バスに近寄った。幸い選手以外誰もおらず、てつこにそれを手渡してすぐにその場を離れた。今思えばそれって大丈夫だったのかな?って思ったりするけど、まぁお咎め的なものは無かったから良しとしておく。

  

 野球部を引退してからは受験勉強に勤しみ、てつこは専門学校、私は大学に進学してしばらくはほとんど会っていなかった。

 それから大体半年後くらいにてつこのお兄さんが亡くなくなられた。このきょうだいは歳も十五歳離れていて、私も直接の面識は無い。てつこが三歳だか四歳だかの時にご両親と物別れして家出をしたらしいのだが、その出先であの身勝手実母と結婚し、杏璃が生まれたそうだ。

 それから二年後くらいなので私はまだ大学生だったが、杏璃が実母に捨てられて中西家に引き取られた。しばらくは親戚の子として育てられ、小学校入学を機に養子縁組して未婚の父となった。

 てつこは元々子供好きではないが、杏璃と向き合っていくうちに少しずつ父親らしくなっていった。杏璃とは相性が良かったので、それも追い風になったんだと思う。

 だからこそ実母の悪策に絆されて望まぬ結婚なんてして欲しくない。てつこと杏璃にとって一番幸せな答えを出してほしいと思う。それが安藤との結婚であればそれはそれで構わないけど、外野が勝手にお膳立てし、追い込み漁のように誘導するのは違うと思う。


『彼変に忍耐強いから無理してないかなって』

『中西君も身を固めるにはいい機会なのかもしれないね。私的にはカンナちゃんが一番安心だけどなぁ』

『今はパパしてるのよね? 未婚で父親業って大変だと思うのよ』

『やっぱりお母さん的な役割の方っているんだと思うよ、同性じゃないと分からないことってあるじゃない』


 多分木暮さんにも悪気はないと思う。でも彼女が吐き出した善意の言葉は、私にとっては虫唾の走る詭弁にしか聞こえてこなかった。

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