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平凡な女には数奇とか無縁なんです。  作者: 谷内 朋
ガチで婚活三十路前 〜お正月だよ全員集合編〜
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cent quatre

 それからあっと言う間に年が明けて一月一日を迎えた。五条家では姉の手作りによるおせち料理に舌鼓を打ち、お屠蘇も飲んで昼頃を目処に初詣へ行くのが慣例である。それは今年も変わらないのだが、今年は兄がいて例年とは少しばかり雰囲気が違う。

「なつ、初詣の後は別行動でいいのよね?」

「うん」

 支度を済ませてリビングに入った私に姉が声を掛けた。この“別行動”もほぼ毎年恒例で、幼馴染七人げんとく君宅の裏手にある公園に集まるのだ。

 思えばこれ子供の頃からずっとやってるな……一時期はそれぞれが忙しくて立ち消えてたんだけど、ぐっちーがこっちに戻ってきた五年前から再開してる。

 その間にこうたが結婚し、何ヶ月か後にはパパになる。まこっちゃんも三月末に挙式だし、げんとく君も許婚さんが今年度末で大学を卒業されるとのことだから、結婚も時間の問題だろうな。ぐっちーも先日の婚活パーティーで知り合った彼女と順調みたいだし、みんな大人になってるんだなぁと実感する。

 う〜ん、そう考えたら私出遅れてるなぁなんてちょっと思ったりする。結婚してるからって精神的に成熟するわけでもないし、独身だからといって未熟とも欠陥があるとも思わない。

 ただ世間的認識とか一般的価値観から逸れてるなぁとはどうしても感じてしまい、このままでいいのかな? といった焦りは多少心の中で燻っている。

 『結婚してこそ一人前』的な考えって子供の頃から恒常的に刷り込まれていくから、そんなこと無いのになぁと思いつつも結局それに流されてる自分がいる。その“世間的風潮”に流されただけで決める結婚ってどうなのかな?という疑問も拭えない。

「行くよなつ、さっきから難しい顔してるけど」

 姉の声ではっと我に返る私。気付けばいつも支度に手間取る冬樹も珍しくちゃんと身なりを整えて、五人全員リビングに集合してた。

「何考えてたか知らないけど眉間のシワ取れなくなっちゃうよ〜」

「うっさいわ」

 このところこの手の言葉を掛けてくる末弟のお尻をポーチで叩き、先に歩く姉カップルと秋都に付いていく。さっきまでの思考が少々尾を引いていた私は、結婚しちゃうとこれまでの生活が崩れるってことだよね?と少々おセンチになっていた。


「おっしゃ大吉ー!」

 新年のお参りを済ませておみくじをひいた秋都が、ひと目も憚らずガッツポーズなんぞしてる。今年でアラサーに片足突っ込む弟のはしゃぐ姿にげんなり……それがコイツの良さでもあるんだけど、無駄に俳優レベルのお顔立ちなだけに悪目立ち感半端ない。

「むぅ〜」

 と冬樹(こっち)冬樹(こっち)で何やら必死こいて……あぁおみくじ結んでるのね。こういうとこ超絶不器用なんだけど、さすがに手伝ってやれないわ。

「おみくじ凶だったんだね」

「ぬぬぬっ……面倒いなぁ〜」

 ぶちぶちと文句を垂れながらもどうにかおみくじを結び……ゆるっゆるだけどまぁ大丈夫でしょ。ところで姉カップルはっと、二人仲睦まじく絵馬に願い事を書いてらっしゃるわ。

 まさかとは思うけど【歳暮のココアを一つ置いて帰ってもらう!】なんて書いてないよね? 半年前時雨さんに進言しておいたのに、孫が増えた悦びで見事にかき消された模様で、今年も歳暮のココアは葉山家へと旅立っていた。

「ふふふ♡」

 姉はご満悦といった表情で何かを書いた絵馬を見て笑っている。兄も絵馬に願い事を書き上げ、思いを注入して指定の場所に吊るしていた。

 私も何か書こうかな? と便乗してお守りついでに絵馬も購入、一人でいるのをいいことに【ステキな王子様が白馬に乗って現れますように♡】と書き、ありったけの願いを込めて姉カップルの隣に絵馬を吊るす。

 とちょっとした邪神が働いて軽く二人の絵馬をチェックしてみる。兄はカップルらしく【今年も春香と仲良く、辞令が出ませんように】と書かれていた。きっと姉も似たような事柄だろうなと思ったら……。

 【なつにたかる余計な虫に天誅を!】

 さっきのあの綺麗な笑顔は一体何だったんだ?


 今年もまたヘンテコな願い事を力強く書いた姉の感性に失笑しつつも、ここからは別行動ということで家族とはここでお別れ。一人になった私は小高くなってる丘の上にあるお寺(げんとく君宅)に向かって歩いていると、少し離れた所を歩いている中西家ご一行が視界に入った。

 中西家は近所の神社ではなく、商売繁盛を売りにしている城址公園近くの神社へ参詣する。商店街で自営をされてるお宅は比較的そこの神社を利用されているので、幼馴染連中と神社で遭遇することはほとんど無い。

 見たところ初詣は済ませてる模様、鮮やかに飾り付けされてる熊手やら鏑矢を持ってらっしゃるので。

「なつーっ!」

 真っ先に気付いた杏璃が笑顔で手を振ってこっちに向かって走ってくる。おじさんたちもその声で私がいることに気付いて手を振ってくれた。

「あけましておめでとうなつ、今年もよろしくね」

「こちらこそ宜しくね」

 私は杏璃と新年の挨拶を交わす。この前も思ったんだけど、最近身長伸びてきてるよね? 確かクラブ活動でバレーボールやってるって言ってたな。

「杏璃身長伸びた?」

「うん、百五十二センチになったんだよ」

 と嬉しそうに報告してくれる。バレーボールは身長高い方が有利だもんね、ってほとんどのスポーツはその方がいいのか。

「公園に行くんでしょ? パパと一緒に行けば?」

 いや結構な荷物持ってんだから置いてからでもよくない? どのみちすぐそこなんだし。

「ちょっと待ってて、パパ呼んでくる」

「いいよそこまでしなくても……」

 って言ってるそばで杏璃は踵を返して(てつこ)の元へと走っていく。こりゃ聞いてないなとそのまま待っていると、杏璃はてつこが持ってる荷物を取り上げて、半ば強引に背中を押して私のいる所へ向かわせていた。

 てつこは娘の行動に少々戸惑っていて、一度立ち止まって振り返ってるけど、杏璃はしっしと言わんばかりのゼスチャーを見せて戻らせないようにしてる。

 仕方ないなぁ的な仕草を見せたてつこは、家族の輪に戻ることを諦めてこちらに向けて歩いてくる。こういった光景って今更珍しくも何ともないはずなんだけど、これまでとはちょっと違ったものが胸の中でもやもやと沸き上がっていた。

「この前は迷惑掛けたな」

「いいよ別にあれくらい」

 あんたはもうちょい誰かに頼っていいくらいだよと思う。

「まぁ、取り敢えず今年も宜しく」

「こちらこそ」

 いつもように素っ気ない挨拶だけ交わし、肩を並べて待ち合わせ場所の公園に向かった。

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