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平凡な女には数奇とか無縁なんです。  作者: 谷内 朋
ガチで婚活三十路前 〜今年も家族とクリスマス編〜
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cent trois 有砂

 それにしてもクリスマスに一緒にいる男の一人もいないとは〜なんぞと侘しい気持ちを抱えて迎えた十二月二十四日、それならなつが持ってきた合コンの誘い受けろよという突っ込みも来そうだけど……私野村拓哉苦手なんだよなぁ。中学時代からインテリ気取りで、ブランド品着て小マシに見せてるぶよぶよ男って感じ。駄目なんだよああいうの、蕁麻疹出そうになるわ。

 こんな時期にお父さんも出張で家に居ないし……定年間近でよう頑張るよなぁなんて思うけど、あのおっさん出張が大好きみたいで何やかんやとお土産を買って楽しそうになさってるわ。それをお母さんの仏前に供えて晩酌するんが至福の時間であるらしい、出張帰りの夕飯は仏壇の側にテーブル設置しそこで土産物食べて酒酌み交わすのが内海家の習慣となってる。父一人子一人、それなりに仲良く同居しとります。

 取り敢えず帰宅の方向でと電車に乗り、こうたんとこでケーキでも買うかと脳内計画を立ててるところでこんばんはと男性に声を掛けられる。ウヒョ♪ ナンパされた♪ と気持ち可愛目な表情作ってこんばんはと返すと、先日の婚活パーティーで進行役をしてた高階さんだった。

「奇遇ですね、仕事帰りですか?」

「えぇまぁ、特に予定も無く。高階さんは?」

「俺も特に予定無しです」

 電車はそれなりに混んでて両隣とも埋まっちゃってる。彼は吊革を持って私の前に立ち、他愛もない会話に花を咲かせる。

「ご自宅ってこの沿線なんですか?」

「えぇ、▼▼町です。そこの団地で一人暮らししてます」

 ほぅ、独身ですか? それとも妻子持ちの単身赴任ですか?この人どっちとも取れる見た目だからなぁ……▼▼町の団地って全国的にも規模がデカくて千室以上あるらしい、法人契約で転勤族の単身暮らしも多いって聞くなぁ。

「単身赴任ですか?」

「ある意味そうですけど独り身です、祖母と母と妹との同居だったんで」

 前者でしたか、彼盛り上げ隊長っぽいから好かれはするだろうけどモテはしないのか。モテと結婚は別問題だけど、ハマると結婚早そうだな。

「ご予定が無いんであればどこかで一杯飲みません?」

 っとぉ、飲みに誘われちった♪ けど空いてるお店あるかなぁ? クリスマス需要で満席の店続出っぽい気もする。

「それは全然いいんですが、お店空いてますかねぇ?」

「う〜ん、それなら荒業使おうかとも」

 荒業? 何する気だ?

「荒業、ですか?」

「えぇ、手土産買って五条家に乗り込む! ってのは?」

「それ乗った! ケーキならアテがあります!」

 五条家の都合無視でたかり計画を発足させたら私たちは、駅近くのショッピングモールの食料品売り場でシャンパンを二本、こうたんとこで三十センチのブッシュドノエルを購入して五条家に乗り込んでやった。


 私たちが訪ねた時点で先客としてゲンが乱入、律子さんお手製のローストチキン十本も手土産にしてたんであっさりと迎え入れてもらえた。五条家の連中はこういうとこ寛大で、余程でもない限りウェルカムで大らかな四きょうだいだ。この後仕事が残ってるとかでてつこが杏璃を預けに来て、大人八人子供一人のそれなりに盛大なクリスマスとなっていた。

「そう言えばなつぅ、婚活は良いけどそっち(・・・)はどうなったのさぁ?」

「えっ? 何? そっち(・・・)って」

 おいそれで気付いてくれ友よ……郡司の名前出したらここのきょうだい連中に殺されるわ。

「あぁ、郡司さんとか仰る方の事ね。お断り、したのよね?」

 と当事者よりも早く勘付くボス姉、言葉遣いこそ丁寧めだけど目が笑ってないって。

「あ〜そうなんだぁ、でもそれでカタ付けられたのぉ?」

 ふゆは思いっきり嫌そうにしてる、あきと姉カレさんと……杏璃まで嫌悪感丸出しだわ。あの男いつの間にそこまで嫌われてたんだ?

「お断りはしたんだけど、あのクズ(・・)理解力に乏しいみたいで」

 もうなつ本人にまでクズ呼ばわりされちゃってぇ。そう言えば浅井製紙の臨海工場で主婦パートとして働いてる高校の同級が『長期出張』ではなく『ほぼ左遷に近い異動』だって教えてくれたわ。理由? 役員の妻だか娘だかのつまみ食い? 何せ職場内の痴情の問題ですわ。しっかし何であんなショッボイ嘘吐いたんだろうね、しかもその手の嘘なつは結構嫌がるのに、ってご存知ないかそんな事まで。

「今度こそ轢き殺そうかしら?」

 ボス姉恐いって、案外目がマジになってる。

「一瞬願ったけどマジ止めてください」

 と引き留めるなつなんだけど、一瞬でもそう願ったお前もどうかと思うぞ。

「意思表示自体はしてるんだよね? 石渡組さんにシメてもらえば?」

 すっかり“島っ子”になってる杏璃ちゃん(・・・)、余所でそれ言っちゃ駄目ですよぉ。

「しばらくは様子見る、いざとなれば投げるわ」

 そうでした、この女に肉弾戦で勝てる相手なんぞそうそういやしませんでした。

「まぁそれで良いんじゃねぇか? 理解力に乏しいにしろしばらくは来ねぇだろ、策ってやつを練る時間も要るだろうし」

「まぁ安藤が対抗策を功じてくれたらしいからそれ次第にしとく、こっちからはアクション起こさない」

「ほえ? なして安藤?」

 このところ接点が出来たのか親しくしてるみたいだが。

「従兄弟なんだって、『禁じ手がある』的な事言ってた」

 ほぉ〜。高校ん時に知ったんだけど、アイツ女らしい見た目の割に結構な男勝りなんだよなぁ。てつこに告ってフラレてるけど、仕事上での付き合いは案外上手くやってんだよ、『ありゃなつと同類だ』ってか〜なり前に言ってたわ。

「そんな繋がりがあったんだねぇ」

「私も最近知った」

 世の中案外狭いものでございますな。


 それからなつの部屋で仮眠を取り、何とな〜くまだ暗い早朝五時前に目が覚めたんでトイレにでも行くかと下に降りると高階さんと鉢合わせた。

「「おっ、おはようございます」」

 ケータイのライト機能で動いてらしたんでちょっとビックリしたけど、リビングのソファーでなつとてつこが眠りこけちゃってるんで電気を使うのを躊躇ったみたい。

「電気、使われては?」

「ん〜、あの二人相当話し込んでたっぽいから起こすのもどうかと思って」

 まぁ時間が時間だから気を遣われたんですな。

「躓くとかぶつかるよりかはいいんじゃないでしょうか? コイツらちょっとやそっとの事で起きやしませんので」

 勝手知ったる五条家の電気のスイッチの場所くらいは把握してるんで有無を言わさず灯りを点ける、予想通り二人ともピクリともせんな……ぬゎに! コイツら何してくれてんだ!

「「……」」

 昨夜は半分どころか三分の二以上残ってたはずのブッシュドノエルが……アレ三十センチあんだぞ、三分の二でも二十センチ、お前ら調子ぶっこいてあの短時間で完食しおったんかい! しかもあき、姉カレさん、杏璃……それに買った本人である私も食べてないのにぃ! そう言えば『無くなってたら困る』とか言いながらボス姉ちょろっと無理して食ってたな、こうたんとこのケーキって身内贔屓抜きにしても食べ出すと止まらんのだわ。

「「食い過ぎだろ」」

 ある程度小さく折り畳まれてゴミ箱に入ってたケーキの箱をじっと見つめてしまう私と高階さん、朝ごはん代わりにしようと思ってたのに計画パーじゃん。

「ちょっと摘んでから出ようと思ってたんだけど」

「同感です。こんなん見るとお腹空きません? 今ケーキは作れませんが何か作りますね」

「いえそれはちょっと!」

 とオーバーリアクションで遠慮してくる高階さん。こう見えても私料理は得意分野でございます、ボス姉ほどではないにしろ家庭科だけは成績良かったんだから。

「一度帰宅なさるにしろ朝食までとなるとご面倒でしょ、ご飯も保温してありますし私今日は休みですから」

「そうは言ってもここ五条家ですよ」

 そらまぁ余所様宅の台所勝手に使うっつってんだからその反応はむしろ普通なのか。さっきも言ったけど私五条家の持ち物事情は大体把握してんだよねぇ、他人さんが多少勝手に荒らそうが許してくれちゃう大雑把もとい寛大な四きょうだいなんで。

「まぁまぁご心配なく、私ちょいちょいここで勝手に飯作ってるんで」

 高階さんは釈然としなさそうにはしてたけど取り敢えずは大人しく座ってくれた。私は冷蔵庫を物色して味噌汁と卵焼きを作り、これから仕事の彼に食べてもらう。けど考えてみたら会うのも二回目、友達でもない相手に手料理出すって初めての事だからちょっとした緊張もある。お口に合えばいいんだけど。

「いただきます……んっ、美味っ!」

 はぁ〜良かったぁ、表向きは軽くドヤ顔してやったけど、内心ではホッとして膝が崩れそうになってた。

「得意も伊達じゃないでしょぉ♪」

 なぁんて調子に乗ってごまかしたが、大袈裟か? なくらいに美味しそうに食べてくれる高階さんの姿にちょっとドキドキしてしまっていた。

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