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平凡な女には数奇とか無縁なんです。  作者: 谷内 朋
ガチで婚活三十路前 〜今年も家族とクリスマス編〜
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cent てつこ

「やっぱりビンゴ〜」

「は?」

 何言ってんだこの女?

「中西哲でしょ? “島エリア”の電気店調べたらベタな名前でもしやって……うわぁ久し振りぃ」

「……」

 ‎誰この女? 一見質素で化粧っ気は無いんだけど、爪は長くてデコりまくってるわ髪の毛はボロボロになるまで色抜いてるわ眉も不自然に細い……ここまでの細眉って二十世紀じゃね?

「おかえりママ」

 ‎さっきの長男くんが子供らしい笑顔でママと呼ばれたこの女に懐こうとするんだけど。

「あ"? 今話してるところだろ?」

 ‎いや子供優先でお願いします。

「あの、もう遅いんで失礼したいのですが」

「え〜良いじゃぁん、イブに再会なんて運命感じなぁい?」

 ‎いえ全く感じない、ってか普通に勘弁してくれ。俺はとっとと帰って杏璃を迎えに行きたいんだ。

「すみません、娘待たせてるんで」

 ‎只でさえもう深夜とも言える時間になってるのに、何でこんなとこで知らない女に知り合いぶられて足止め食らってんだ俺?

「そんなの待たせとけば? ガキなんて放っといても何とかしてるって」

 ‎そりゃまぁ十二歳だからな、けどそれとこれとは別問題だと思うが……自分で何とか出来ても十二歳はまだ子供だ。

「修理の方は終わってますんで。それが済めば用件は特に」

 ‎そいじゃとばかりその女をすり抜けようとすると手首に不自然な痛みが走る。掴まれてる痛みは大した事ないけど如何せん固いものが食い込んで……その爪マジ痛ぇわ。

「あの、爪食い込んで痛いんですけど」

「ならいい加減思い出してよ、アタシの事忘れたの?」

 ‎いや知らん、仮に知ってても俺の人生にこの女は不要だわ。

「どちら様です?」

「え〜マジで言ってんの? “マキン”よぉ、思い出した?」

 ‎“マキン”? 聞いた事あるような無いような……ってか真面目に名乗れ、子供に悪影響だわ。まぁこの子らなら反面教師にしていい子に育ちそうだけどな。

「ママ“マキン”っていうのぉ?」

「チッ、大人の話に入ってくんなよ」

「あの、お子さんを優先なさってください」

「だったら思い出してよぉ、哲君(・・)とアタシの仲じゃなぁい」

 ‎一体どんな仲だったんだ? 俺間違ってもこんな知り合いいないけど、ってか馴れ馴れしすぎて鬱陶しい事この上ないわ。

「ママのおなまえ“マキコ”だ()ねぇ?」

 ‎“マキコ”? 小学校時代には居なかった名前だから中学か、高校と専門学校時代は男ばっかだったし……中学時代には四人ほどいたからなぁ。木暮真姫子こぐれまきこは普通科だったけど高校も一緒で、野球部のマネージャーだったから今も交流あるし。て事はアレか? 他の同級生は(思い出せてないけど)間違ってもこうはならないはず。

「ったくうっせぇ!」

これじゃそのうち子供に手ぇ上げかねないな、一か八か……。

「上坂麻希子?」

「当ったりぃ〜! もっと早く思い出してくれると思ってたのにぃ」

 ‎いやあんた変わり果ててて面影無いから。コレ見てたらなつでさえも可愛く……ってちょっと失礼か。スマン、今よぎった事は墓場まで持っていくわ。

「ねぇねぇここで会ったのも何かの縁だからぁ、今から再会を祝して乾杯しなぁい?」

「いえしません、車で来てるんで」

 冗談じゃない、何が悲しくて大して親しくもない奴と乾杯せにゃならんのだ?

「え〜ちょっとくらい大丈夫だって〜」

 大丈夫な訳ないだろ、‎あんた道路交通法知らないのか?

「俺が捕まればあなたも芋ヅルですが?」

「サツはもう勘弁」

 ‎あんた一体どんな人生歩んできたんだ? とは思うが全くもって興味は無い、それより早くここを出たい。

「おちゃならだいじょうぶだよね?」

「そぉねぇ。さっさと用意しな、気の利かねぇガキだなぁ」

 ‎気が利かないのはあんただ。けどきっと長男くんの淹れるお茶の方がマトモだろうから黙っておく。偏見込みで言わせていただくとこの女なつよりも重症だと思う、アイツ炊事の壊滅力は凄いけど掃除と洗濯は普通に出来るからな。

 ‎はぁ〜何やってんだ俺? マジ冗談じゃねぇぞとイライラを募らせていると、ズボンの膝の位置あたりをツンツンと引っ張られる。ん? と思って見るとさっき馬鹿女の名前を教えてくれた女の子……長女ちゃんかな? が俺を見上げて手招きしてきて、多分座れって事だろうからその場にしゃがむと小さい顔を耳元に寄せてきた。

「ママああな()とめんどくちゃ(・・)いか()ガマン()てぇ」

「……」

 ‎この子多分二歳とかくらいだと思うけど、俺と同い年の母親よか精神年齢全然高いじゃないかよ。親は無くとも子は育つ、この親ならむしろガチで無い方がマシ……とまでは言えない。

「お兄ちゃんのご厚意として一杯だけ付き合うよ」

 ‎「あ()がとね……ママーッ、おにいしゃ(・・)んいっぱいだけならだいじょぶ(・・・・・)だってぇ!」

 ‎こ、この子女優だ。長女ちゃんは満面の笑みを見せて上坂にまとわり付き、長男くんもじかんあるときにゆっくりあえば? なんて言いながら上手いこと母親を執り成していた。何かこういうの見てたら断りづらいし、後々この子たちが八つ当たりの材料にされてしまいそうなのが透けて見えてきて……結局は場の空気に流された俺は本来不要である『乾杯』とやらに付き合わされ、解放されたのは深夜一時前だった。

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