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平凡な女には数奇とか無縁なんです。  作者: 谷内 朋
ガチで婚活三十路前 〜ハイテンションな見合相手編〜
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 今日は人生初のお見合いの日。


 私五条夏絵(ごじょうなつえ)はこれまた人生初の振袖を着て、お見合い場所であるとあるホテルレストランのテーブル席にて着席中。

「夏絵ちゃん、着物よく似合ってるわね」

 そう言ってくれるのは近所でリフォーム業を営んでいる葉山時雨(はやましぐれ)さん。息子らんちゃんこと(あらし)さんのお母様で、両親を早くに亡くした私たち五条四きょうだいの面倒を看てくれた恩人である。本当はお見合いなんて別にしたくなかったけど……なんてこと言えるはずもなく、気乗りしないまま今日この時を迎えてしまった。

 名前を出してしまったので息子のらんちゃんのことも少し説明させて頂くと、彼は四つ歳上の幼馴染でご実家のリフォーム会社四代目社長だ。今でも現場でバリバリ働いているし歳よりも若く見えるのであまり貫禄は無いけれど、それでも仕事が早くて丁寧と評判も上々だ。

 プライベートでもご近所のマドンナ梅雨子(つゆこ)さんを射止めて現在二児のパパ。誰もが羨むおしどり夫婦でつゆちゃんは現在三人目を懐妊中。因みに彼女は二つ上の姉 (?)春香(はるか)と同級生、とんでもない美人さんである。


 ……と言ってる間にお相手の方がやって来た。えーっと、名前は確か霜田景樹(しもだかげき)さんもといけいじゅさん、おっとどこかの個性派作家さんみたくなっちゃうじゃない。

 彼がパステルカラーな見た目のはずもなく、どちらかと言えば無彩色な方だ。ライトグレーのスーツに紺のネクタイ、整った顔立ちにブランド物のお高そうな眼鏡を掛けていらっしゃる。

 私がこの方のことで知っている情報は、首都圏の有名私立大学卒で現在一流食品メーカーの広告宣伝部主任三十二歳となかなかの高物件。二流公立大学卒、二流文具メーカーの本社ビルで日夜会社の金の動きを管理している経理課一般職勤務の地味女には勿体無い案件ですなぁ。

 正直写真の時点で断ってくれるかと淡い期待もしたけれど、この方ストライクゾーンがとってもお広いみたいであれよあれよとお見合いが決定してしまった。


 『男から断るってそう無いらしいぜ、良かったななつ姉』

 ……と顔だけ(・・)は恐ろしく美形に生まれ育った三つ下の弟秋都(あきと)に言われてしまうほどのイケてない私の何が良かったのかと……逆にそれが良かったのか? ってか暗に私のこと不細工と言ってるようなもんじゃないの?

 まぁきょうだい四人揃えば私だけ地味で平凡ですが何か? 目鼻口の配置は正常範囲内だし、脳みそ空っぽなお前には言われたくない。どれくらい空っぽかって説明は後にします、何せ今は初対面の方とお見合い中。

 

 「初めまして、霜田景樹と申します」

 しもだけいじゅさんね、もう間違えません。パステルカラーとはほぼ真逆、さっきまでの脳内独り言は墓場まで持って行きます。

「五条夏絵と申します」

 そうそう、ご挨拶はきっちりとね。何にしたって第一印象はとっても大事、特に美人には程遠い私みたいなのは残像に残りにくいけど、それでも悪目立ちはしたくないわ、おほほ。

「景樹さんはね、江戸食品(えどしょくひん)にお勤めなのよ」

 とは霜田さんサイドの仲介人の方で、確かお名前は白井(しらい)さん、だったかな? 時雨さんとはフラダンス教室で知り合ったそうだ。ん? 彼江戸食品勤務だって? 超一流企業じゃない!

 元々はお菓子メーカーだったらしいんだけど、ぶっちゃけて言えば高級志向過ぎて一時期経営が悪化。それでもこの不況の中企業努力を怠らずに耐え忍んだ結果、今や看板商品である“浪漫カフェ”と言う名のインスタントコーヒーが爆発的にヒットして、今や業界三位の一流企業に返り咲いたってかなり前にテレビでやってたわ。

 余談だけど我が家の朝食に“浪漫カフェ”は欠かせない、百グラム二千円超えとやっぱりちょっとお高いけどアレの味を知ったら他のものが飲めなくなってしまった。中元歳暮にはコーヒーギフトをくださいとは言えない、さすがに今言うのは厚かまし過ぎる。

「左様ですの? “浪漫カフェ”は美味しいですわよね」

 相変わらず時雨さんはノリが良過ぎる、コーヒー全く飲めないのに。これじゃただの悪ノリだ。

「えぇ、家でも毎朝頂いています」

 一応フォローしておこうかな、とは言え時雨さんはなかなかの情報通だから多分何やかんやであっさり乗り越えてくれるだろう。因みに彼女はホットココアが大好きで姉宛に送られてくるコーヒーギフトを解体し(一応許可は得てるみたい)、ココアだけを持ち帰っていく。家は誰もほとんどココアを飲まないから良いんだけど、たまに欲しくなって探しても大概は彼女の手に渡っている。

【今年こそ一つだけでもココアを残してもらう!】

 と姉が年明けに参拝した神社で絵馬に力強く書いていたことを私は知っている。三十過ぎた人間が千円ほどする絵馬をわざわざ買ってそれを願い事にするか? とも思うんだけど、何度かお願いしたけどあっさり忘れ去ってくれるから、姉にとっては神頼みレベルの事案に昇格したようだ。

「そう仰って頂けて嬉しいです。手前味噌ですが私もよく飲みますので」

 良かった、突っ込んで聞かれなくて。隣の時雨さんも似たような表情をしている、言ってから『しまった!』くらいは思ってたのかも。

「そう言えば五条さんは文具メーカーにお勤めと伺っていますが」

「えっ、えぇ。でも経理課ですので商品のことはそれ程……」

「私、海東文具(かいとうぶんぐ)さんの万年筆は素晴らしい逸品だと思うんですっ!」

 なっ何が始まった? ってか私勤務先の名前すら言った覚えが無いのですが……ってことは時雨さんだな。私はしれっと座っているアラ還美女をチラ見してやる。そんな私を軽く無視して霜田さんはどんどん話を進めていく、正直全く付いて行けてませんけど。

「私左利きなのですが、大抵のメーカーは左利き事業に力を入れていないのですっ!」

 あぁ、そういうことですね。我が社の場合先代社長が左利きですから、理由は単にそれだけです。因みに今の社長も左利き、先代の次男坊だから遺伝ですね。ご長男はって? 彼は職人気質で日夜新商品開発に没頭してらっしゃいますよ、案外霜田さんと気が合うんじゃないかしら? って余計なこと考えてて話聞いてなかったわ。

「この万年筆は就職祝いに頂いて以来十年使い続けていますが、劣化どころか書きやすさが増しているんですっ!」

 十年前って事はまだ先代の頃の職人さん……つまり先代のお兄様ですね。海東家は基本的に長男が職人気質で次男が経営者気質みたいだ。職人気質ってことは多分出世とかに興味が無いのだろう、絶妙なバランス取ってるな海東家。 

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