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第31話 「来年も、よろしくな?」

十二月三十一日。今年もやってきた大晦日に、俺は麻衣と二人で近所の神社へやってきた。毎年この時期は人が多いので、俺は時刻が変わるまでこういう場所に来るのは好きではなかった。

本来ならば、俺は栞と此処に来る予定だったのに、俺は栞からお友達でいましょうと言われてしまったので、必然的に一緒にお参りをするのは高校の友人か、妹の麻衣しか居ない。


こんな時に限って友人達は不在。弘樹はお母さんの実家に帰っているので、北海道だし、雄介に至ってはまっち〜と別れて、また新しい彼女を作り、そのコとデートだとか? リア充め。全く反吐が出る。

「…兄貴、お参りしたくないの?」

「いや、そんなわけじゃねーけど」

隣を歩く麻衣は、ダッフルコートの中にワンピースを着こみ、黒のブーティーを履いていた。

出来れば妹の可愛い振袖でも見たい所だったが、そういうものを着ない辺り、麻衣っぽいと言えばそうかも知れない。

まだ時刻は十一時で、日付が変わるまで一時間もあると言うのに、既に本堂まで人で賑わっていた。


近くには様々な出店が並び、学生達も多い。

勿論、俺達は完全に補導に引っかかる時間帯なので、麻衣は多少おめかしをしてもらい、中学生である事がバレないように偽装した。

意外と、麻衣は元々大人っぽい顔立ちだったので、化粧をして、少し上品な格好をすると、それだけで一気に映える。

すれ違う大学生達が麻衣を見て口笛を吹いていたのが気に入らない。俺はむっとしながら、麻衣の左手を強く握った。何かあったら、必ず麻衣を守る。ただそれだけだ。

しかし、麻衣も羽球で鍛えた腕があり、一対一ならば、きっと俺よりも強いだろう。

「麻衣、何か食べるか?」

「おみくじ引きたい」

「って、まだ日付変わってねーよ」

少し気の早い麻衣のコメントに苦笑しながら、俺は麻衣の手を握ったまま、恋愛系のおみくじが引ける場所を確認した。多分、もう少しすると、もっと人で溢れかえるだろう。

「この時間なると携帯規制かかるなー。今頃雪ちゃんも北海道でお参りだろう?」

「うん。叔母さんの家が神宮の近くらしいよ。さっきメール来てた」

麻衣が見せてくれたものは、北海道の逞しい叔父さん達に、多少酒を飲まされて潰れた弘樹と、満面の笑みでうつる雪ちゃんの姿だった。

「あっちは雪で大変だろうなあ。っても、こっちも寒ぃけど」

「手、貸して」

右手はダウンに突っ込んでいたが、やはり寒い。ホッカイロでも持って来るべきだったと後悔しても遅い。

もう少し人が集まると熱気で暖かいかも知れないが、そういう熱気と寒さは別問題だ。

俺は麻衣と向かいあう形になり、ダウンに突っ込んでいた右手も握られた。

麻衣は小さいホッカイロを持っていたようで、俺の手にそっと重ねてくれる。

「うぉ〜、あったけー! 麻衣、サンキューな?」

「べ、別に兄貴の為に持って来たわけじゃないし。二つ入ってて、ポケット熱いから、それ、兄貴使ったら?」

顔を赤くしてふいっとそっぽを向く麻衣が可愛らしい。

「麻衣、真っ赤」

「風が冷たいからでしょ?」

「ふーん。風吹いてないけどな」

「か、カイロが二つあったから、熱いんでしよっ! もう、本堂行こう?」

さすがにいじめ過ぎたか。麻衣はふてくされて、俺から右手を離してずんずん先に行ってしまった。

そろそろ規制も入るし、人も多いから、出来れば離れたくない。

十二時まであと五分だった。俺は先を歩く麻衣の手を握り、境内に入る。

「そろそろだな」

あちこちでみんなが携帯を開き、カウントダウンを始める。

俺も麻衣の手を握りながら、年が明けるのを待つ。

誰かの携帯ニュースで、年が明けた事と、新年を告げるコメントが流れている。電話は完全に通信規制がされており、あけおめメールも送れなくなっていた。

「麻衣、今年も仲良くな?」

「……兄貴が、バカな事しなきゃね?」

ちらりとこちらを見た麻衣の瞳はいつもと変わらないが、俺の左手を握る麻衣の右手指先には、少しだけ力がこもっていた。


予定通りに総合運のおみくじを引き、俺は吉という微妙な結果に少しガッカリしていたが、待ち人来たれりという一文に、俺は一人ガッツポーズをした。

麻衣は大吉だったようで、持って帰ると大切にそれを財布にしまっていた。

中身は見せてもらえなかったけど、まあ、麻衣が嬉しそうだからいいか。

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