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第29話「ちっくん嫌いだよぉ~」


 俺は麻衣と一緒にクリスマスの買い出しに出かけていた。このイベントシーズンに何が悲しくて妹と買い物になど……

 先日、俺は彼女だった栞に振られてしまった。それも全て俺がシスコンで、麻衣がブラコンだから。という安易な理由だ。俺は自分で自分をシスコンなどと認めてはいない。いや、何度か認めそうになったが、彼女が欲しいという気持ちに変わりはない。

 いくら麻衣が可愛いとは言え、弘樹の家とは違って麻衣は「実の妹」だ。戸籍上でも絶対に結ばれることもないし、麻衣の感情は一時の思春期特有のものだと思っている。俺はそう安易に考えていたのだが、栞と別れてから、麻衣の態度が若干変わってきた。

 以前のようにツンツンしていたと思いきや、突然可愛らしい笑顔を向けてくることがある。言葉尻は相変わらずキツイが、そのふと見せる笑顔は本当に可愛らしい。頬を赤らめて俺の方から視線を逸らしたり。


「なぁ、麻衣。クリスマスプレゼント何が欲しい?」

「兄貴が買ってくれるの?」


 痛いところを突かれる。俺達はバイトをしている訳では無いので、正直欲しいものを聞いても買う余裕なんて無い。ダウンジャケットのポケットに手を突っ込みながら町中で流れているクリスマスソングを聞き、恋人達の逢瀬を見るとリア充羨ましいなあとぼんやり思ってしまう。つい先日までは俺も栞とああいう光景になる予定だったのに、どうしてよりによってこのタイミングで振られるんだ俺。悪いこともしてないのに本当に神様あんまりだ。


「あ、可愛い……」

「ん~?」


 麻衣がふと足を止めたのは、展示品となっているインターロッキングペンダントだ。値段を見ると、どう頑張っても俺のお小遣いでは買えない。女の子はああいうものが好きなのか、という指標にはなった。ふっと笑いながら、俺はいつか買ってやるなと言い麻衣の髪を撫でる。外で何すんだよ、と麻衣は顔を赤らめながら別に自分でいつか買うもん。と拗ねていた。


 俺達は母さんに頼まれたものを一通り買った所で家へと戻る。既に冬休みに突入していたので、買い物が終わったら俺達は狭い部屋の大掃除へと突入する。家が狭いので、俺と親父で2DKの部屋の掃除を始める。寝室は俺の担当で、親父は母さん達の邪魔にならないようにリビングのソファーやローボードを動かしながら床のワックスかけをしていた。

 大掃除をすると昔のものがバラバラと出てくる。俺は寝室の奥に眠っていた昔の麻衣の写真を見つけてニヤニヤしていた。麻衣も小さい頃は俺によく懐いていた。今みたいに兄貴とか言わないで、兄たんとか言って、目に入れても痛くない。そんな妹だった。


『兄たん!』

『どうした? 麻衣……』

『今日、ちっくんやだ! あたし、病院嫌い!』

『ん~……そうだなあ、じゃあ、ちっくん頑張ったら、オレが麻衣にご褒美あげる!』

『ごほーび?』

『うん。だから頑張ろうな、麻衣。オレがちゃんと側にいるからなっ!』

『ごほーび! 兄たんからのごほーびっ』


 写真だけで思い出せる、あの時の可愛い麻衣。小児科の先生が予防注射の針を向けた瞬間、麻衣はびーびー啼き喚いて俺の背中にぴったりとしがみついて離れなかった。問診をする時も、麻衣は絶対に俺から離れなくて苦労したらしい。そんな話を以前両親から訊かされた。


「何してんの?兄貴」


 なかなか部屋掃除が進んでいない俺を見かねた麻衣が、調理の方から部屋掃除に回されてきた。腕捲りしてかなりやる気満々の様子だ。一方の俺は、ジャージにTシャツで掃除用の服を着ているにも関わらず、あちこちにアルバムや書類を広げてそれをじっくり眺めている。やる気あんのか? と麻衣に目で睨まれる。


「昔の麻衣は可愛かったなぁ。予防注射に行くと必ず俺に抱き着いて嫌々って泣いてたもんな」

「へぇ~覚えてないけど、そんなこと」

「兄たん、痛かったぁ~。マイたん、ちっくん嫌いだよぉ~とか。俺にいいこいいこされると泣き止んでな」


 しみじみと思い出に浸っていると、目の前で仁王立ちしていた麻衣がふるふると怒りに拳を震わせながら、さっさと部屋を片付けろ!とお叱りの一撃を俺に食らわしてきた。


 本当に、昔の麻衣は可愛かった。今みたいに狂暴では無かったし、俺の腕にいつもしがみついて微笑んでいた。

 いつから麻衣はツンデレさんになったんだろう? 俺の所為なのか?

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