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第三話 「妹が怖くておちおちAVも見れないなんて!」


 型枠工の親父は大体朝早くから出勤して夕方くらいに帰宅することが多く、俺と顔を合わせるのは学校が終わってからになる。

 いつも生活サイクルが違うので、親父とあまり会話することは少ないのだが、今日に限って珍しくソファーでテレビを見ている俺の横にすすっと近づいて来た。


「なぁ、忍。お前明日麻衣をどっか連れ出せねぇか?」

「は?何で……」


 明日から俺の母さんは調理師仲間達と1泊2日の旅行に行くらしい。 そうなると野郎2人のご飯を麻衣が作ることになるわけだが、その麻衣を追い出してしまったら夕飯が無いんじゃないか?と心配になってくる。

 母さんのことだから、俺達がくいっぱぐれないように完璧に用意してくれてるに決まっているが、親父の企みはそうじゃない、と目が言っている。


「何?」

「ま~とりあえず、耳貸せ」




******************************




 翌日――

 俺は珍しく早起きしてしまっていた。それもそのはず。昨日親父に囁かれた内容が衝撃的過ぎて興奮して眠れなかったのだ。

 早起き、ではない。ただの貫徹だ。何度も何度も寝返りをうって明日が楽しみだな~と思っていたら朝になっていたらしい。

 それなのに、隣の布団で眠っているはずの麻衣が密かに学校に行く準備を着々と整えていたことに全く気が付かなかった。あいつは忍者か?


 俺が大あくびをしながら枕から頭を上げている姿を見て、麻衣は持っていたジャージの入ったバックをぼとりと床に落とした。


「……あれ、兄貴が早起きしてる」

「くはぁ~。おはよぉ麻衣。朝練ガンバな」


 しかも、低血圧で朝なんて会話にすらならないのに、しっかり話を聞いている。

 明日は槍でも降るんじゃないか?というくらいの俺の様子に、麻衣は何だか気恥ずかしそうに顔を背けてキッチンの方を指さした。


「う、うん……パン、焼いたの置いてるから食べて。あとコーヒーも」

「いつもさんきゅ~。あと麻衣……」

「何……?」


 ちょっぴりちら見してくる麻衣の顔がほんのり赤くなっていて可愛い。いつもこうやってしおらしくしてくれていたら俺も弘樹みたいに『自慢の可愛い麻衣ですっ!』って言ってやるのに……

 まぁ、いいや。今日言いたいのはそこじゃない。


「今日って、部活遅い?」

「……うん。中体連近いから、ちょっと先生と2試合やってくる」

「そっか。ゆっくり頑張って来いよ?」


 にかっと歯を見せて笑うと、麻衣はうるさいっと言いながらバックを持って玄関の方まで行ってしまった。いつもより20分も早いのに、そんなに俺と一緒に居るの恥ずかしいのかな。


「さぁ~ってと。今日麻衣は遅いっと……親父にLINEしとこ」


 ごそごそと頭下の携帯を手に取ると俺はバッチリと短いメッセージを入力した。


 俺は流行性耳下腺炎という大人がかかると面倒な病気になって早3日が経過。 耳の下のぼっこりした腫れは大分引けて来たが、まだ少しだけ微熱が残っている。

 しかも、この腫れが消えるまでは学校に行けないので、自宅療養となっている。勿論、他人にもうつる可能性があるので、面会禁止状態で正直、有り余った暇を持て余している。

 こういう時こそ勉強すりゃいいんだろうけど、俺はそんなにガリ勉タイプじゃないし、どっちかと言えば、身体を動かしていたい。


 中学の頃までは麻衣と同じく羽球部バドミントンぶだったが、ちょっと諸事情があって引退した。その、俺の後ろ姿を見て育ったせいなんだろうか、麻衣も羽球に手を出したのは。


「ただいま~」


 夕方になり、ちょっと陽気に親父が帰って来た。俺はソファーから慌てて身体を起こして親父を玄関まで迎えにいく。


「親父っ!待ってたよ。ほら、秘蔵ビデオ出して出してっ!」

「へへっ、んなに焦るなっつの。寝室の布団のっかってるとこの上、ちょい押してみな?」

「え?こう……ってうわっ!」


 言われる通りに押し入れの天井を押すとぼこっと抑え蓋が外れた。それを少しずらしてみると、黄色いプラスチックに入ったビデオが山のように入っている。

 重そうなそれを俺は両手でゆっくりと引き下ろすと、真新しいものから、古いレアなものまで大量に入っているそのジャケット写真に目が釘付けになった。

 思わず生唾を呑み込んでしまう。――18禁って、結構過激だ。


「ははっ。知らなかっただろう。ボロアパートだから、隠し部屋なんてあるんだよそこ。まあ、ネズミも湧くけどビデオは食われてないから大丈夫だ」


 親父がひょいひょいとビデオをセレクトしながら俺にこれお勧めとニヤニヤしながら渡してくれる。

 法律的に18禁?んなもん関係ない。だって俺は17歳。あとちょっとしたら18歳。ってことは別にオッケーでしょ?

 つぅか、周りがみんな彼女作ってヤっちゃってるってのに、俺と弘樹だけいつまでもDTどうていなんて嫌じゃん。


「マジ嬉しい。親父さんきゅ~!!」

「へーへー。とりあえず、麻衣は帰ってこないんだろうな?」


 念押しのように聞いて来る親父に、俺は首振り人形のようにこくこく頷きながら秘蔵のビデオを漁る。親父が貸し出してくれたのは18禁のアダルトビデオだった。

 昔っからこうやって隠しているのを母さんは知っているし、俺も親父が秘蔵のものを持っているのは知っていたのだが、まさか天井にあったとは。そりゃあ部屋の中どこを探してもないわけだ。


 実は17歳になっても未だに彼女無しの俺と幼馴染の弘樹は互いの妹にそれなりの問題があって、お互い童貞のままだ。別にそれが恥ずかしいとか、どうにかしたいってことは無いのだが、十分性欲はあるし、友達の話を聞いたら女ってやっぱりいいのかな?とか妄想してしまう。


 それが、妄想していると生理現象って奴で朝に大変なことになってしまうので、実際アダルトビデオを見てどんなもんか勉強したいと親父に以前相談したのだ。

 今日は母さんもいない、麻衣は部活で遅い。となったら、俺と親父はハッピーデーじゃん。こういう男だけの時間ってとても大事だと思う。俺は親父のセレクトしてくれたものをいそいそとデッキに突っ込んだ。


「ああ、忍。俺さあ、折角かーちゃんいないから、ちょっと回してくる」

「うん。あまり無駄遣いすんなよ?小遣い無くなるじゃん」

「へへっ。北〇の拳新しい機種出たんだよ。ちょい行って来らぁ」


 スロッターの親父はたまに暇を見つけると煙草を買うとか言ってパチンコ店に足を向ける。あんなにうるさい場所のどこが楽しいのか、大人の趣味はいまいち分からない。

 俺からしてみたら、親父と一緒にアダルトビデオを見ることにならなくて良かったわけだが。まさか、親父も気を利かせて出てくれたのかな。本当、俺のDT卒業に向けての教材をありがとう親父。


「……しっかし……他人とのセックス見て何か燃えんのかなあ……」


 俺はおやつ棚に入っていたポッキーをかじかじしながら大人の女性の喘ぎ声ってやつを聞いて物凄く冷めた目でそれを見つめていた。こういうビデオだと、実際に触ってるわけじゃないから燃えないんだよ。やっぱお肉は触って感触を確かめてこそ!だと思うんだよな~。


 でも触るっつーても……俺が弘樹の妹に手を出すわけにはいかないし、麻衣に手なんて出したら間違いなく殺される。クラスの女子だってそこそこみんな彼氏持ちだし、母さんのぷよぷよの腹とかおっぱい触っても……なぁ。


「はぁ~……なんか空し」


 ドサドサドサっ


「は、ぁ!?」

「……兄貴……何、みてんの……?」


 俺は親父がパチンコに行った後、玄関の鍵はかけていたが、チェーンをかけるのをすっかり忘れていた。気配もなく帰宅してきた麻衣が俺の方をケダモノでも見つめるようなとっても冷たい目で見つめてくる。


 や、やばい……


 しかも、俺自身はビデオに全く興味が無かったのだが、生本番、お互い絶頂の場面だ。ただ興味が無いと言っても身体は正直なようで、脳みそは微妙と思っても何故か下半身は熱く反応を示していた。


「ち、違うのよ?麻衣ちゃん…これは…ですね……」

「…………はぁ……」


 わ~完全にドン引きされた!!!やばい。やばいよこのままだと麻衣に捨てられる。慌ててDVDを切ってソファーから身体を起こし、キッチンで料理をしようとしている麻衣に近づいた。


「あのね、麻衣。俺はさぁ……」


 そっと麻衣の肩を掴んだ瞬間、振り返った麻衣の手にはじゃがいもがしっかり握られていた。

 そしてそれを思い切り俺にぶつけてくる。


「――この……っケダモノっ!!」

「はぅあ!?」


 見事超至近距離から繰り出されたじゃがいもボールは、俺の股間に直撃した。ころころフローリングを転がるじゃがいもと、不意打ちの強烈な攻撃に身悶える俺。


「ま、麻衣……」

「……折角じゃがいもでグラタン作ろうと思ってたのに……クソ兄貴っ!」


 麻衣は俺の為に喉に優しいあったかいものを作ろうとしてくれていたらしい。その気持ちを踏みにじった俺が確かに悪い。悪いんだけど、頼むから急所突きはやめて欲しい……

 このままだと、兄ちゃんは子供が作れない身体になるんじゃないかと本気で心配です。じゃがいもの攻撃で軽く半勃ちになってしまったのは言うまでもない。

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