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第27話「お兄ちゃんの前だけ…」その②

 麻衣がその、落合君。とやらとデートしていた所為で、俺は麻衣よりも先に帰宅していた。

 珍しく家の中には誰も居ない。折角栞とデート…という名のお買い物をしてきたのに気分は最悪だ。


 何で俺が、全く知らないノーマークの男に嫉妬しなきゃなんねぇんだよ……!

 別に麻衣が今更男と付き合ったところで、『兄貴に関係ないでしょ』の一言でどうせ片付けられる。


 気分が晴れない俺は、見たくもないテレビをつけてソファーにどかっと座る。

 すると、目の前のテーブルから雑誌がばさっと落ちてきた。


 そういえば、最近麻衣が着る服の傾向が変わったような気がする。この雑誌は、以前俺が栞から借りてた女性ファッション誌で、可愛いのをチェックしろとか言われてたやつだ。

 確か、こないだ麻衣がつけていた下着もこの雑誌に載っていたような……しかも、栞が折り目つけてたやつじゃないか? あれって。

 高校生の下着とかファッションを真似て、背伸びしたいお年頃なんだろうか。

 たかが3歳と思っていたが、意外と3歳って違うのかも知れない。


「……あれ、兄貴帰ってるの?」


 玄関から不思議そうな声がかかり、俺は手に取った雑誌を再び元の場所に戻し、親父が趣味で買っている週間少年雑誌を手に取った。


「お、おぅ。お帰り麻衣」

「ただいま……」


 麻衣は大事そうに何か買い物してきた袋を抱えて帰ってきた。

 男とデートでショッピングか。麻衣もちょっと見ない間に成長したなあ。

 俺の横を通り過ぎる瞬間、ちらりと視線だけ投げかける。


「デートしてきたんだって?」

「えっ……?」


 ぴくりと麻衣の動きが止まった。何で知っているんだという目でこちらを見つめている。

 詮索するつもりなんて無かったので、俺は雑誌に目を向けたまま麻衣に良かったなと一言だけ呟いた。


「麻衣ちゃんにもついに彼氏が出来たのか~。兄ちゃんは嬉しいぞ。これで麻衣も……」

「ッ……馬鹿兄貴っ!!」


 やっと兄貴離れ出来るな。


 そう言おうとした言葉は、麻衣が投げつけてきた買い物袋によって遮られた。

 顔面にばしっとぶつけられた袋と、少年雑誌がダブルパンチで降り注ぐ。


「ってえなあ……何だよ!」

「別に、兄貴に関係ないしっ!」


 あーそうですか。

 

 俺の中で何かの糸がふっつりと切れた。

 何だよ、麻衣の奴。今まで俺に散々構ってきた癖に。もう知らない。俺だってシスコンじゃねぇんだ。

 麻衣が誰とどーこーしていようがもう関わらない。こんなもんだ兄妹なんて。俺は弘樹んトコとは違う。


「あーあーそうですかよっ。もう干渉しません。彼氏とお幸せになぁ麻衣ちゃん」


 俺は投げつけられた袋をばしっと床に叩き付けるとソファーから身体を起こし、ヒリヒリする鼻頭を擦った。

 麻衣は唇を噛みしめたままただ佇んでいる。何、俺からどういう反応が欲しかったんだ。


「……あのね」

「んだよ」


 俺の機嫌は最悪だった。何時もであれば麻衣の方がツンツンしているのに、相当冷たい言い方だったろう。


「落合先輩に、告白されたの」

「それで?」


 興味無さそうな返答をしながら、俺は大して面白くもない週刊誌をパラパラとめくった。

 麻衣は俺の反応にがっかりしたのか、俺に先ほど投げつけた袋を取って値札をハサミで切っていた。

 ちらりと視線を上に向けると、以前可愛いと言っていた濃紺のニットワンピースだ。栞が今日買っていた色違いに近い。


 俺がフェミニンな服が好きなのを、麻衣は一体どこで仕入れてきたのだろうか?

 思わずそのワンピースを麻衣が着ている姿を想像し、俺は少しだけニヤけてしまった。


「先輩に告白されて、デートして。それで、麻衣の気持ちは?」

「べ、別に……彼氏欲しいとか、そういうの…無いし」


 麻衣はぎゅっとニットワンピースを胸元で握りしめて顔を赤くしていた。

 わざわざ自分に告白してきた男と一緒に、俺の好みの服を買い物に行くなんて、落合君も相当な当て馬だ。

 それが自分だったらきっと立ち直れないだろう。麻衣は、そういう行為に悪気が無い。


「俺の好きな服買ってきたの?」

「ッ……べ、別に…兄貴の為に買ったんじゃないからっ!!」

「ふーん。俺は、その可愛いニットワンピース着た麻衣が見たいな」

「じ、自分が着たいから買っただけなんだからっ!」


 少しずつ顔を真っ赤にしていく麻衣が可愛い。もっと虐めたくなってしまう。

 そう言いつつ、麻衣は今着ていたシャツを脱ぎ、買ってきたニットワンピースを上から着る。

 下に履いていたジーパンを脱ぐと、素足に紺のニットワンピースを着た麻衣が完成した。

 ウエストラインもくっきりしており、色白の麻衣にはよく似合う。

 普段、私服で麻衣がスカートを履くことなんてまずありえないので、こういうフェミニンな服を見れるのはすごく新鮮だ。


「麻衣、可愛いよ?」

「う、うるさいなぁ……たまには、こういうのもいいかなって思っただけだもん」


 耳まで真っ赤にしながらキッチンに逃げるように向かう麻衣の後ろ姿を見つめて、俺は少しだけ顔を緩ませていた。

 あれ?俺も弘樹のこと言えねーな。麻衣と栞を比較しちまうなんて……折角彼女が出来そうなのに、まともな恋愛が出来ない。


 栞に振られてしまったら、俺はきっと彼女なんてもうできないだろう。

 彼女を、大切にしよう。俺はそう固く心に決めたのであった。


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