表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/34

第26話「お兄ちゃんの前だけ…」その①

「忍~。これどう??」

「おぉ、可愛いんじゃねえの?」


 試着室に消えた栞が、数分後にオフホワイトのニットワンピースと同じ色のニット帽をかぶって出てきた。

 下は黒いストッキングに、ブラウンのショートブーツを履いている。

 ニットってシンプルなのにすごく可愛い。俺は派手に着飾る服装よりも、こういうシンプルなものにぐっと惹かれてしまう。

 ミニスカートや流行りのダメージデニムを愛用する今時の栞の格好よりも、フェミニンで可愛いスタイルにそそられる。

 ギャップ萌えって奴?派手なイメージの栞が、少し女の子らしい可愛い格好をすると抜群に可愛いと思う。


「じゃあこれにするっ。ちょっと待っててね?」


 買い物の長い女子に付き合うのも、栞のお陰で大分慣れた。


 俺は来週に迫っている文化祭に栞を呼び、挙句仲間に唆されてミスコンに出るように言ってしまったので、その埋め合わせのお買い物に付き合っていた。

 普段は栞も学校があるのだが、今週の水曜日は祝日のお陰で学校が無い。

 祝日の所為か、周囲は人が多かった。俺はいつものように栞に腕を差し出し、彼女はそれに嬉しそうに絡みついている。


「ミスコンって何するの?」

「まあ、ある意味うちの高校のお祭りみたいなもんだよ。いつもは学校内の生徒だけで壇上に上げて学園No.1を決めるんだけど、今年は外部からも声かけるんだってよ」

「へぇ~。私が出て勝てるのかなあ?」

「松宮先輩って、すっげえ美人のマネージャーが居るんだけどさあ」


 俺は少し興奮気味に松宮先輩の話をした。するとすぐに栞がむっとした様子で俺の額にデコピンしてくる。


「あだっ!」

「こういう時は、栞が一番可愛いでしょ?」


 俺はあんなにデートプランを妄想していた割に、実際行動に移すとあまり彼女の気持ちを汲み取れていなかったらしい。

 痛む額を押さえながら半分棒読みで隣に並ぶ彼女を褒め称える。


「へいへい、栞様が一番です」

「ふふっ。宜しい!」


 機嫌の治った栞と共にウィンドーショッピングを楽しんでいると、向かいの方から見知った顔が近づいてきた。


「お?弘樹じゃん」

「あぁ、田畑。あ、栞さんでしたっけ。はじめまして」

「はじめまして~。忍の彼女の栞ですっ」


 どうやら、弘樹と妹の雪ちゃんが仲良く買い物をしているようだった。

 栞は弘樹と雪ちゃんに彼女です。とハッキリ挨拶をしながら俺の腕にぎゅっと密着してきた。

 見た目もそうだけど、積極的なんだよなぁ栞って。こんなに可愛いのに、今まで彼氏がいなかったのが不思議で堪らない。

 俺の妄想を全部ぶち壊して新しい風を入れてくれるから嬉しいような…。


「あれ?マイちゃんのお兄ちゃん。マイちゃんは?」

「ん?あぁ…麻衣は今日俺より早く出かけたよ」


 最近の麻衣は反抗期なのか、俺に対して何処に行くのか行先を告げてくれない。

 兄妹でも平然とお出かけしている弘樹達を見ると少しだけ羨ましい。

 まあ、弘樹からしてみたら壮絶ブラコンの妹と一緒に居るのだから、嬉しいのかどうかは不明だが。


「マイちゃん、今日はお買い物に行くって言ってたよ?落合先輩と」


 誰だそいつ?俺は聞いた事のない名前に首を傾げた。

 麻衣の交友関係は限りなく狭い。それは彼女が受けた陰湿な虐めが物語っている。

 男にも、女にも心を開くことは極稀で、今目の前にいる雪ちゃんと、彩ちゃんという子が唯一の女友達。

 そして羽球部の仲間。それくらいか?それなのに落合?誰だそいつ……


「あぁ、羽球の男子でいるだろ。1年生の。その子じゃないか?」


 弘樹の助け舟に俺は羽球部のメンバーを1から思い出す。

 どうやら、その落合って奴は俺達の学校の生徒らしい。

 しかしいくら記憶を辿っても落合という女子が出てこない。


「女の子でいたか? んな奴」

「落合治君。男だよ?」


 何い!? 男だと!?


 俺はあれだけ麻衣に彼氏が出来て欲しい…とか無謀な願いをしていたのに、いざこうして他人から麻衣の男の話を聞くとショックだ。

 呆然と立ち尽くしていると、隣に立っていた栞が楽しそうに笑っていた。


「あははっ。もう、本当に忍ったらシスコンなんだから。いいじゃない、麻衣ちゃんが忍から離れてくれたんでしょ?」

「うっ。そ、そりゃあ…そうだよな。麻衣だって彼氏の一人や二人…」


 それは俺が願っていたことだ。

 麻衣に彼氏が出来たら俺はもう用済みになる。

 今まで俺にオカンのように甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた麻衣もついに別の男に……


 はぁ、空しい。


 一体どうしてこんなにも麻衣が気になるようになってしまったんだろう?

 麻衣が突然俺から離れたせいか?それとも、俺が麻衣を気にするようになったからなのか?

 以前の麻衣は俺によく懐いてくれた。それなのに最近は反抗期が酷すぎて会話にすらならない。


「噂をしてたら、あれ麻衣ちゃんじゃない?」

「え?」


 弘樹が人混みの先を指さしている。其処には俺が見たくない光景が広がっていた。

 羽球部1年生という落合君と、隣にはデニムのジャケットといつものジーパンを履いた麻衣の姿。

 眼鏡をかけたイケメンの落合君と、ミステリアスで可愛い雰囲気の麻衣は遠目で見てもお似合いのカップルに見えた。

 何だろう。胸が痛い。――何で俺がっ!



 麻衣のことが気になり過ぎて、俺は折角の栞のデートなのに、彼女を盛り上げることも出来ないまま帰宅することになった。

 それでも優しい栞は俺に対して一切文句の一つも言わずに買い物もできたしと笑顔を見せてくれた。なんていい女なんだろう。最高の彼女だ。

 そう思うのに、俺の気持ちはすぐ麻衣のことばかり考えてしまう。最低だ。

 麻衣は、一体何が欲しかったのだろう。一緒に買い物に行く相手が俺じゃもうダメなのか?

 いきなり麻衣と俺の間に深い溝が出来たような気がした。妹離れってこういうもんなのか。



 柿崎ちゃんよりも強そうなライバルの出現に、俺はこの日初めて「嫉妬」した。

続く(`・ω・´)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ