第24話「シスコンって言わないで!」
「忍、お待たせ~」
「おぅ。んじゃ行こうか?」
栞とのデートはこれで4回目か。もう大分慣れてきたものだ。
内2回は麻衣と雪ちゃん、柿崎ちゃんに妨害されたり散々だったが、今日は違う。
麻衣には『栞とデートしてくる』と正々堂々言ってきた。
相変わらず、彼女の反応は「あっそ」と酷く素っ気ないものだったが、あの態度であれば今回は妨害してくることも無いだろう。
「忍?」
俺の顔がまた険しかったらしい。隣で俺の腕に絡みついていた栞の胸がぎゅっと押し付けられた。
「うぉっ!?な、何!?」
「まぁた、麻衣ちゃんのコトでしょう?このシスコン」
語尾のシスコンってトコが妙にドスが効いてて、俺は軽くショックを受けた。
「違うっ!!俺は麻衣は妹として可愛いと思ってるだけで、決してそういう感情はだなぁ」
「あーあー聞き飽きたっ。いいから行こ?今日は、栞サマとデートだぞ?」
自分でサマとかつけるな。ったく…
だが、栞は俺と初対面で会った時よりも、俺に対して少しずつ好意を見せるようになってきた。
切欠は麻衣のお陰なのだが、それが良いのか悪いのか。
栞が俺のことを好きだと言ってくれるのは、皮肉なことに『妹に優しい俺』が好きだと言う。
そのくせ、麻衣のことを気にするとこうして不貞腐れる。
どっちを取れば栞は満足してくれるのだろうか?女って難しい。
「ほら、忍っ。ここ」
「あぁ?ここって……」
栞が行きたいと言ってたお店は、最近流行っている手作りペアブレスレットを作っているお店だった。
客は勿論、女性が多い。俺は物凄く居心地の悪い思いをしていたのだが、栞が楽しそうにしているので仕方がなく中に入る。
「いらっしゃいませ、どの様なものをお探しでしょうか?」
店員に声をかけられた栞は、ますます俺の腕を引っ張り、胸を押し付けながらお揃いのブレスレットを見繕って欲しいと言っていた。
パワーストーンのようなその石は、見た感じ高級そうなのだが、どうやら形落ちして売りものにならないパーツを、粗削りして作り直しているらしく、それによってコストが安いという。
学生でも手軽に買えるようなリーズナブルな値段が人気の理由らしい。
俺はそういうものを見た事も無かったので、興味深々になりながら店員の手つきを見ていた。
「忍、ちょっと近いよ」
「あ、あぁ。悪ぃ」
「ふふっ。可愛いカップルさんですね」
店員の褒め言葉に、栞は嬉しそうに顔を綻ばせていた。俺は隣で喜ぶ栞よりも、何故かその横にあるアメジストのブレスレットが妙に気になった。
「忍~。お揃いのクリスタルにしようよ?これは運気も上がるみたいだから、次の試合で勝てるようにって」
「俺はこれ以上運気上がっても帰宅部だぞ」
「いいじゃん~。お揃いとか欲しい」
まぁ、確かに値段は安いし買えないこともない。
俺は栞とお揃いのクリスタルのブレスレットと、もう一本アメジストのブレスレットを買った。
「それ、麻衣ちゃんに?」
「ん?あぁ…こないだ俺の中履き用の紐買ってくれててさ。そのお礼?」
「ずーるーいー」
栞は自分から麻衣の名前を出したくせに、一気に機嫌を損ねて俺の腕をぐいぐい引っ張ってきた。
路地の方に連れていかれた俺はそのまま栞から壁ドンを食らう。普通逆だろコレ?
「ねぇ、忍。ちゃんと私とお付き合いしようよ。次のデートは麻衣ちゃんの話無しね?」
「栞から言ってきたんだろ……」
俺は壁ドンをしながら妖艶に誘ってくる栞の腰に手を回して軽く身体を引き寄せた。
女の子って身体が本当に軽い。持ち上げられそうな気さえしてしまう。
腰を引き寄せたせいで、栞との距離が近くなり、俺と栞の額がこつんとぶつかる。
くすりと微笑む栞は目を細めて俺の背中にそっと手を回してきた。
「だからって、それに釣られたらダメ」
「オーケー栞。じゃあ、もうちょっと恋人っぽいコトする?」
栞の少しだけ上目使いの眸を見つめ、俺は自ら彼女の小さな唇に、己のを重ねた。
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「ファーストキスはレモン味?」
「何それ、超気持ち悪い」
でれっとした顔をしたまま俺は家のリビングにあるソファーでごろごろしていると、麻衣から蔑んだ眸と冷たい言葉が飛んできた。
だって、可愛い栞と初キスだぜ?そりゃあちょっと興奮しちゃうよな。俺の恋人プランにまた一歩近づいた感じ?
へらへらしている俺に、麻衣の態度は酷く冷たい。
デートで浮かれてるなとその背中が言っているようだった。
だが、俺に恋人が出来ても関係ないと言っていたのだから、こうやって少しくらい惚気てもバチは当たらないものだと思うが?
「そうそう、麻衣にお土産があるんだよ」
「……何?」
面倒そうな態度でこちらを見ている麻衣に、俺はゆっくりと近づいてプレゼント用の袋に包まれたブレスレットを取り出した。
「麻衣は確かアメジストだろ?お前っぽくていいなと思って買ったんだ。靴紐のお礼な?」
「あ、……りがと」
ブレスレットを受け取った麻衣は顔を真っ赤にしながら、しどろもどろになっていた。
胸元でそれを持ったまま視線を下にしている様子はいつもと違って可愛らしい。
何、何で麻衣はいつもこんな態度を俺に見せてくれないわけ?
おまけに、お礼を言う声も消えそうなくらい小さいけど、それでも可愛いと思ってしまう。
折角栞という彼女が出来そうなのに、俺は栞とのデート後の余韻に浸るよりも、麻衣が気になってしまった。
俺って、やっぱりシスコンなのか?
こんなもやもやする気持ちが続くなら、早く麻衣に彼氏が出来て欲しい。
そんな理不尽なことを思う俺なのであった。




