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第22話「麻衣はツンデレらしい」

 俺の妹、麻衣は俗に言う『ツンデレ』ってキャラらしい。

 まあ、そういうものが何かって聞かれても上手く説明が出来ない。

 麻衣がそうだって言うことが判明したのは、こないだのS女学院での修学旅行に行った後に判明した――……



 麻衣はどちらかと言うと物静かなタイプで、女子と積極的に自分から仲良くしようとはしない。

 俺が知らないと思っているようだが、よく虐められている痕跡を隠しているのを見つけた。

 先日は制服、ジャージ、ものを盗まれる、破られる、隠される、挙句に階段から突き落とされたこともあったらしい。


 ……らしい、というのは、弘樹の妹の雪ちゃんが「何か同じクラスの綺麗な女の子が虐められてるの」って兄に報告してくれたことから発覚した。

 俺は麻衣にそことなく虐められてないか確認するが、あの子の強気な性格から口を割るのはなかなか難しい。


 雪ちゃんと麻衣が仲良くなってくれたら――俺の気苦労も少し減るんだろうなあ……

 ふとそんなことをぼんやりと考える。


 だが、女子の友情というのはいささか面倒事が多いらしく、弘樹の妹もなかなか相手に心を開けなくて大変らしい。

 過去のトラウマがあって、自分から声をかけるのが苦手なのだという。

 まさしく麻衣と弘樹の妹は似た者同士だった。だったら尚更仲良くなれるのでは?と思い、俺は思い切って麻衣に同じクラスの雪音ちゃんと話しかけてみたら?と持ち掛けた。


 一週間という長い修学旅行から帰宅した麻衣は俺の顔を見て恥ずかしそうにしていた。

 いつもと態度が違う。何かがおかしいと思ったら、背後からひょこっと雪ちゃんが顔を覗かせていた。


「こんにちわっマイちゃんのお兄ちゃん!」

「あぁ、弘樹の妹さん?どうぞ狭い家だけど」


 良かった。弘樹の妹と仲良くしてくれるならこちらとしても話がしやすい。

 あっちの家は雪ちゃんが相当ブラコンで困っているという話をよく聞いていたが、麻衣は俺に対して過保護なだけで決してブラコンではないと思う。

 そういう好きだという言葉を聞いたわけではないのだから。


 麻衣と雪ちゃんが寝室の方で何か真剣に語り合いをしている。

 俺は年頃の女の子達の会話を邪魔しないようにジュースだけ持って彼女達の横にそっと置いた。


「ゆっくりしていきな?俺は邪魔ならねーように外でも行ってるから」


 ミニテーブルの上にジュースを二つ並べると、何やら真剣な表情で雪ちゃんが俺の顔をじっと見つめてきた。


「何?」

「麻衣ちゃんが言うような男らしいところが無いってのは――」

「ゆ、雪ちゃんっ!!!」


 雪ちゃんがどうやらとんでも爆弾発言をしそうになったらしい。慌てて雪ちゃんの口を塞ぐ麻衣の様子を俺は目を細めて見下ろした。


「へぇ~。麻衣ちゃん。俺のこと悪く言ってたわけ?いいのよ、どーせ俺なんておバカで彼女もいない帰宅部ですよーだ」


 自虐的に笑いながらそう言うと雪ちゃんはケラケラ笑ってくれたが、笑わせたかったはずの麻衣は不満そうに口をへの字にしていた。

 何が不満なんだ、お前にとって格好いい兄ちゃんじゃないからか?俺が麻衣にとって格好良くなる方法って……何かあるかなあ?


 夕方まで二人は色々と部屋で語らいをしたところで雪ちゃんは楽しかった!と手をぶんぶん振ってお邪魔しましたと元気に挨拶をしてから玄関を出て行った。

 笑顔で見送った俺は隣で佇んでいる麻衣を見下ろす。


「麻衣、ごめんな兄ちゃん格好いいとこなくて」

「べ、別に……兄貴は、兄貴だし……それに……他の人に格好良いとこ見せたらやだ…」

「何だよそれ。じゃあ格好いいとこなんて見せられなかったら、俺は彼女できねーじゃん」

「……」


 一瞬だけ麻衣が傷ついたような眸で俺を見上げてきた。

 麻衣は、俺のことが好きなのか?

 いやいや…そんなわけない。麻衣は、いつも帰りが遅い両親に変わって俺を過保護にしているだけだ。

 ある意味年下のオカンみたいなもんだと思ってる。これが恋愛感情なわけがない。


「……麻衣って、俺のことどう思ってるの?」


 驚いた顔をする麻衣の顎を掴み、耳元に吐息がかかる距離で囁く。

 すると麻衣はかっと顔を赤くして俺の鳩尾に強烈な一撃を放ってきた。

 ど、どうしてすぐに暴力で解決しようとするんだろう……

 俺は不意打ちの攻撃に膝から崩れ落ち、がくりと項垂れる。

 そんな俺を見下ろした麻衣の眸はいつもより穏やかだったが、明らかに何かに動揺しているように見えた。


「別にっ……兄貴は兄貴だし……嫌いではないよ、だって、家族…だし」

「俺は麻衣のことが好きだけどなぁ……」


 こちらはストレートに言葉を返すのに、麻衣はいつも捻くれた変化球しか返してくれない。


「あ、当たり前…でしょ……だって……家族…だし」

「家族として以上の感情があるのかって聞いてんの?」

「う、うるさいなあ……その服ついでに洗濯したいから先にお風呂行って来てよ!」

「はいはい……」


 答えをはぐらかされてしまったが、こうなってしまった麻衣に何を言っても答えてはくれない。

 俗に言うこのやり取りが、『ツンデレ』だと言うことを、俺は後に雪ちゃんから教えてもらったのである。

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