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第⑪話 「救済企画が消滅しました」

 ――先日、俺は人生で初めて告白をされた。

 しかし、その日に俺は夢精をしてしまってその醜態をこともあろうに妹の麻衣にバレてしまい、彼女に半ば脅迫めいたことを言われた。


 確かに…あのまま麻衣がエスカレートして誰かを殺してしまったら取返しがつかないと思う。

 まあ、パンツ濡らしたことについては恥ずかしい話だから麻衣が誰かに吹聴なんてしないと信じたい。


 告白してくれた花音ちゃんを再度校舎裏に呼び出し、俺は「好きな人がいるんだ…」とかありふれたフレーズで、折角できた彼女をたった1日で振ってしまった。



「あぁ~……今思えばもったいないことをした」

「なんだぁ?忍。お前まだ彼女の一人もいねーのか」


 遠征から帰って来た親父は愛用のハイライトをふかしながら俺にわざと煙を吹っかけてくる。

 その白い煙を思い切り吸い込んだ俺はげほげほとむせ込んだ。勿論親父のそんな悪戯を横目で見てた麻衣がじろっと親父を睨み付けている。


「お~……麻衣ちゃんが激おこモードだ」

「あんまり刺激すんなよ…麻衣怒ると怖いんだから……」

「しっかし忍もその歳で未だに童貞君ってのもちょっとなぁ……いきなりデキ婚とかされても養える自信ないし……よし、俺の友達んとこのお子さんとデートしてみるか?」

「マジで!?親父そんな人いるの?」


 まさかの救済企画に、俺はソファーから身を乗り出して食いついた。


 親父は型枠工の親方をやっており、部下は100人以上超えている。

 まだ38歳と若いのにその腕と下を従える統率力の高さが上に買われているのだとか。

 確かに親父のツテだったら、一人や二人は同年代の子がいてもおかしくない。

 善は急げという言葉通り、親父はニヤニヤしながら携帯を取り出して同じ型枠の仲間に電話をかけていた。

 げらげら笑いながら雑談を交えていたが、途中から子供の話の本題へ変わる。


「おぅ、うちの息子な忍ってんだけどまぁ一度飯くらい行ってみてくれる?ははっ。俺に似てて可愛い奴だぞ」


 一体どういう説明をしてるんだか……

 会話内容に不安はあったものの、俺は次の日曜日に帆宮ほみや しおりちゃんという同年代の子と遊ぶことになった。




******************************




「……なぁなぁ、麻衣。兄ちゃん変な格好じゃないかな、これ」


 俺は前日夜からテンション高く、ファッションショーのようにあれこれ服を引っ張り出してコーディネイトしていた。

 元々中学~高校に上がってもずっと制服・ブレザーだったので正直手持ちの服が少ない。

 寝室であぐらをかきながらう~んとタンスの中身と向かい合っていると、麻衣がすっと横から白いカッターシャツと、Vネックの黒Tシャツを持ってきた。


「あと、ダークグレーのジーパンでいいんじゃないの?白は清潔に見えるって言うし」

「おっ。麻衣ちゃん~流石気が利くじゃない。女の子のコーディネイトは外れがないからこれでいっか」


 去年の誕生日プレゼントでもらったシルバーアクセのペンダントをつけるとちょっとこなれた感があって何となくいい気がした。

 早速麻衣が持って来た服をいそいそと着替える。麻衣に一挙一動全て見られるのは慣れているのだが、どうも今日はぶつかってくる視線が熱い。

 ふと袖を軽く捲りながら、ちょっとだけ麻衣に意地悪く返す。


「もしかして、こういうシンプルな格好って、麻衣ちゃん好みとか?」


 それは余計な一言だったのか、少しだけ顔を赤らめた麻衣から強烈なパンチが飛んで来た。

 折角明日着ていく服だってのに、強烈なパンチの所為で危うく吐きそうになってしまったので慌てて服を脱いだ。

 スラックスだけ履いた状態で腹部をさすりながらあぐらをかいて座る。


「――いてて……マジで加減して欲しい……」

「ごめんね、兄貴」


 珍しくしおらしい麻衣が近づいて来る。何故か俺の腹の心配ではなく、鎖骨あたりにこつんと顔をぶつけてきた。

 さっきまで強烈なパンチを繰り出してきた人物と同じとはとても思えない。


「ま、麻衣ちゃん……?」

「――知らない女なんて……」

「へっ?あ、痛っ!!」


 左鎖骨の少し上あたりに軽く歯が当てられる。痛みを感じた後は麻衣が労わるようにそこをぺろりと舐めてきた。

 ま、まて……どうした。どこに麻衣が怒る理由があるんだ。さっきのシンプルな格好が好みなの?とか余計なことを訊いたから?

 妹のデッドワードがさっぱり分からなくてとにかく怖いっ!


「ねぇ、兄貴……帆宮さんとはご飯に行くだけだよね?」

「う、うん…親父のお友達さんの娘だってさ。麻衣も行く……?」


 何で俺は彼女が欲しいって言ってんのに麻衣まで誘ってしまったんだろう。自分が言ってしまった言葉の軽率さを恥じるがもう遅い。

 麻衣は少しだけ驚いた顔をしながら、一緒に行っていいの?と嬉しそうに微笑み、私もおめかしするねと言いながら自分のお出かけ用服を漁り始めていた。


 あぁ……

 妹が怖い。どこに怒りの矛先が向くのかわからないし、まさか今度は噛まれるなんて……

 麻衣ちゃんが凶暴過ぎて彼女が出来ません。

 一体どうしたら俺は恋愛初心者から卒業できるのでしょうか……誰か教えて。


 麻衣が無意識に起こしたこの噛みつき行為が、兄妹の枠を超えた嫉妬だと言うことに、俺はまだ気づいていなかった。

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