ある日、異世界の高校生が魔神復活を目論む魔王を倒す勇者に選ばれたまる
かつては世界には二柱の神がいた。一方は人神、もう一方は魔神。
彼らは一つしかない世界を巡り、永久に近い時を争い続けた。
しかし、その果てに彼らは疲れてしまった。
そして、彼らは自分達の代わりに自分達の子を創造したのだ。
最初に『魔神』が『魔族』を。
次に『人神』がそれを真似て『人族』を。
しかし、それでも決着は付かなかった。
怒った人神はやがて異界から天の遣いを召喚した。
彼らは数多の魔族を討ち倒し、やがて魔神をも滅ぼした。
そして世界に平和が訪れた。
そして、後に人々は彼らの事を『勇者』と呼び讃えた。
「あなたが勇者様なのですね!」
あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!
俺は高校から家に帰ろうと階段を降りていると思ったら、いつの間にか全く知らない広い場所にいて目の前に金髪ナイスバデーな美少女がいた。
な……何を言っているのかわからねーと思うが 俺も何をされたのかわからなかった……
頭がどうにかなりそうだった……
催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねぇ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……
俺が脳内で元の世界でしか分からない下らないネタをしていると少女の隣にいた王様っぽいおっさんが、親しげに話しかけてきた。
「待て。ルヴィアよ。勇者様が困っているではないか。勇者様、今から一から説明しますので落ち着いて聞いてくだされ」
言われんでも分かるよ。今時の社外人は人から言われなくても空気を読んで、自分から察して動くから。動かない人は戦力外通告されっから。
俺、高校二年生だから知らんけど。
つまり、これってあれだろ? 最近流行りの異世界召喚だろ? ダチがやたらその手のに詳しいから俺も必然的に詳しくなってもうた。
あれかな? ずっと黙ったままだから逆に混乱してると思ったのかね。すごいシリアスな雰囲気。それにまだ勇者様じゃねぇ。
「今、人族は魔族と呼ばれる他種族と戦争をしておるのです。奴らはかつて人神様が異界から遣わされた勇者様に魔神諸共討ち倒したのですが、十年前に……」
「ストーップ! その話長くなりそうなからカットカット! キングクリムゾン! もっと簡潔に! 時は鐘なり、だ。その辺分かった! 今は俺にして欲しい事を言ってくれ!」
おっさん達は俺の言葉に驚くが、俺を不快にしてはいけないと判断したらしい。互いを見ると頷いた。
実際、そんな長々と話をしなくても大体の事、知ってるからね。
どうせ魔王倒せって言われるに……
「十年前から奴らが魔神復活しようと目論んでいる魔王率いる魔族達をを倒す勇者になって欲しいのです」
な、なんだってー!(棒)
ってかまだ勇者の事オーケーした覚えないぞ、おっさん。ちなみに最初の美少女は王女様何だとさ。
何だかんだ、承諾してしまった俺。
ほら、人間は自分が困らない程度内で、なるべく人に親切にしたいもんだって某文豪も言ってたし?
つーか魔神とかいんのな。前に滅んだはずなのに。そこは魔王倒してから、裏ボス展開に現れるパターンだろ!
大抵、そういうの後出し展開とかで叩かれるのが多いが。
俺は昔から、あまり自分から動くんじゃなくて周りにやらせて自分が楽したいタイプなんだぜ。それはこの世界に来ても変わらない。これは前世からの性だな、きっと。
ぐちぐち言ってもしゃーなし。たまには自分で動くかー。
どうやら俺は歴代の勇者の中で規格外の強さらしい。特に魔力量がやばくて、前の勇者とパーティーを組んだ爺さん賢者が驚いていた。
何でも、勇者とはいえ人族ではあり得ない量らしい。魔族や魔王を超えるかもだと。ま、そりゃあそうだろうな。
というより今までも何回も勇者召喚したのな。死んだ奴もいたらしい。少数だけど。聞いてねぇ、詐欺だ!オレオレ詐欺だ!
え、ちゃんと言った? すいません。
それからある程度だけ訓練した。俺としてはいらないけどな。俺のパーティーになるというイケメン剣聖がうるさいので渋々付き合った。
俺のパーティーはそのイケメン剣聖と爺さん賢者の孫娘の魔法使い、王女様の幼馴染とかいう聖女さんだ。
うん、はっきり言って足手まといですね。でも、一人旅なんて孤独死しそうだ。みんな良い人そうだしな。それもいっか。しゃーなしだ。
そんなこんなで、数人の仲間を連れて魔王討伐の旅が始まった!
俺達の冒険はこれからだ!
勇者の愛が世界を救うと信じて……
「THE ENDォオ! よっしゃああああッ!」
「これからが魔神を倒す旅の出発だというのに、何を意味のわからない事を仰っているのですか、勇者様?」
「ん……勇者様が変なのは元から」
……すいません。後地味にひどいぞ、魔法使い。魔法使いの癖に魔法戦で俺に勝てた事ない癖に!
それを言うと自分より長い杖で頭をしばかれた。イテェ!
俺もあっちの世界に染まったとつくづく思わされたよ、ホント。
キングクリムゾン!
という訳で来ちゃきました、魔族領。何というかようやくって感じだ。
訪れた街で、どれも英雄扱いで困ったもんさねぇ。大変だったんだぜ、これが。
パーティーの連中も俺が表に立てってうるさいし。俺そういう前に出るのとか嫌いなのよ。あっちの世界でもそうだったし。
それで手を振ったりすると、顔面レベルが美形ばかりの他の仲間と比べられて悲しかった。イケメン剣聖が勇者だと間違われた事もあったけな。
「あれが勇者?」なんてクソガキに言われた時はキレそうになったね。なりたくてなった訳じゃないわ、ボケェ!
物事は心で見なくちゃ、よく見えないのさ! 肝心な事は目に見えないからな!
俺がそう言うと、イケメン剣聖に同意された。
ごめん、それ元ネタがあるから。
それはそうとして、俺は面倒臭いのに、パーティーの一員である聖女さんは困ってる人がいたらつい助けてしまう人。聖女みたいだ。あ、リアル聖女か。
それにイケメン剣聖が同調し、魔法使いが派手な魔法でさらに厄介ごとを増やすというのがお決まりパティーンだった。尻拭いはもちろん私こと勇者がしました。解せぬ。
でもその優しさにつけこまれ聖女さんが攫われた。俺がすぐに救ったけどり
勇者の子孫らしき冒険者に弟子入りされそうになったり、俺の力を一部感じ取った竜に挑まれ圧勝したら妙に懐かれた。
「ついに魔族領ですか……」
「ようやくここまで来れたな……」
「ん、大変だった」
「油断するなよ。今までみたいに遊んでいたら死ぬぞ……」
「「「勇者様に言われたくないです」」」
珍しくシリアスでいったらこのザマよ。解せぬ。
でも、まぁ実際に俺がいたら遊んでても問題ないと思う。
「まぁ、何だ俺がお前を見捨てるなんて事はありえん。大船に乗ったっりでいろ」
それだけ言うと俺はみんなの反応を見ずに歩いた。何かこういうの恥ずいよね。
とりま行くぞ! しゃーなしだ。
「勇者様……これは一体どういう事ですか?」
ちょっと、待って。俺、何かしたぁ? 魔族領入ってから何もしてないよ、俺。
「いえ、勇者様が何かした訳ではなく……」
何よ? トラブル起こしたの俺よりも魔法使いの方が断然多いからね。
「ん……勇者様はその単発がデカイ」
「「確かに」」
解せぬ。
「それより勇者様、魔族領に入って何かしましたね?」
いんや、今回ばかりは何もしてnothingですよ。というより今回も、ね。
「そうですか……それよりここおかしいですね……」
何さ? 何かおかしな所あんの?
「勇者様は気づいていないのか?」
あぁ、あれね? あれだろ? ほら、あれだよ、あれ。
「……勇者様、分かってない」
何? 俺らバカなの? 死ぬの?
「はぁ、もう良いです。魔族領に来て少なすぎると思いませんか?」
人族は少ないよ。え、違う? わけがわからないよ。
「魔族領での交戦回数ですよ。魔族はおろか、魔族領にいる魔物でさえ襲ってきません。どうして?」
あー、ほら争いは同じレベルの者同士でしか発生しないっていうじゃん? 俺達が強すぎて警戒してんじゃね。
実際、魔王の幹部っぽい人を人族領で倒してたし。そいつは聖女さんを攫った奴だ。たっぷりらお仕置きだべぇ、しといた。
倒した後、他の幹部がいて「ククク……奴は四天王の中でも最弱……」「人族如きに負けるのは魔族の面汚しよ……」とか言ってた。
ちなみにその後、俺を見てめちゃくちゃビビって、すぐ逃げてしまった。
「勇者様が四天王の一人を一撃で倒してしまったから……」
ごめんね。まさかあそこまで弱いとは思わなかったの! 何、最近の魔族ってあんなに弱いのか! 運動不足だぞ! 野菜と肉もっと食え。
「でも、向こうが来ないなら結構です。こっちから魔王城に行ってやるまでです」
そして始まる魔族領での旅。
訪れた街で俺達は襲われると思っていたらぜんぜんそんな事nothing。寧ろ、今の魔王は魔族達にも圧政を敷いており解放を心から望んていた。
え、ナニコレ。こんなパターンもあるの? そこは人族と魔族で互いの憎しみをぶつけ合う種族間闘争というのが起きてだな……
さらにパーティメンバーが増えた。それは人族との戦争をする事にに反対していた穏健派だった先代魔王の娘。しかし、それが今の魔王を怒らせ、殺されてしまったらしい。しかも、家族もろとも。彼女だけが何とか生き延びたらしい。
何でこんな事をするようになってしまったのやら。
俺達が来た事を分かると何故か俺に決闘を挑まれた。でも、
「降参だ……」
俺が力を出そうとした瞬間に銀髪魔族ちゃんは負けた。俺の力を見てぶるったらしい。
さらにそれを見ていた魔族達も震え上がっている。
まさしく、……スゲェ、覇気だ、状態になっとる。
「ふっ、勇者とはこれ程の力を持っているのか? 今の魔王でもこんなには……」
「んっ……ここにいる勇者様は別格。魔王だろうと余裕」
「でも、こんな事をしなくても普通に勝てたのではないのか?」
まぁ、今の魔族にはきつかったかもな。周りに強い奴がいるか試そうとしたってもある。残念ながらいなかったけど。
「ふっ、なるほど。今目の前にいるのは歴代の勇者でも最高峰という訳か」
俺を他のちゃらんぽらんな二流勇者と一緒にしてくれんなよ、ちみぃ。
「んっ……勇者様うざい」
あ、すいません。しかし、銀髪魔族ちゃんは何か決心したように俺を見ている。あ、これまさか。
「貴方達は魔王を倒そうとしているのだろう」
そーだよ。でも、そんなウルウルと見つめられても困る。美少女はお得だねぇ。何をやっても様になる。俺がやったら即事案よ。
ぎんぱつまぞくちゃんは なかまになりたそうに こちらをみている! なかまにしますか?
「その旅に私も同行させてもらえないだろうか」
そんな眼で見られたら、はい、しか答えられんぞ。
俺はパーティーの奴らに目線で確認を取ると承諾した。
それを聞くと銀髪魔族ちゃんは思わず守ってあげたくなるはにかんだ笑顔を浮かべた。
今のドキッとしました! 勇者の一ドキ貰いました〜。俺も温かい目で対抗だ。
魔法使いに殴られた。キモい? すいません。
こうして、旅の道連れが一人増えました。しゃーなしだ。
後の道程は面倒だから省く。四天王の連中が襲いに来た。
一人は銀髪魔族ちゃんの親父さんを罠に嵌めたとかいうので本人が一騎討ちで倒した。その時にはお父さん思わず泣いちゃいそうだったよ。
四天王の中で紅一点が俺を誘惑しようとして危うく引っかかりそうだったぜ。
パーティーの女どもが俺をタコ殴りにして目を覚まさせた。解せぬ。イケメン剣聖が気の毒そうに見ていたのが印象深い。おい、見てないで助けろ。
最後の一人は俺とパーティーを分断させ、俺以外の仲間を先に始末しようとしたらしい。俺には百万体の操られたスケルトンの相手をさせられた。ウゼェ。
でも、他の仲間は俺が思っている以上に強かった。協力して何とか倒す事が出来たようだ。
その事を微笑ましく思っていると魔法使いが、
「勇者様、ニヤニヤしていて気持ち悪い」
おい! 今のシリアス的な雰囲気だろ!
「ふ、勇者が気持ち悪いのはいつもの事だ」
銀髪魔族ちゃんもここの女どもに染まりやがって。
「……私は勇者様がどんな気持ち悪い事を考えていても、私だけは味方ですから!」
トドメ刺すのやめようか、聖女さん。
そして、俺を助けろ、イケメン剣聖。というより魔族の女に囲まれてニヤついているのは、寧ろあいつじゃん。
そんなこんなで俺達は魔王城に着きましたとさ。
魔族領に封印されているかつて勇者が使っていた聖剣を探そうとしたが面倒だからやめた。というより俺にはそんなものいらん。
俺ゲームでは最低限の装備でボスに挑むタイプです。そんでもって二週目からアイテムとかレベル完璧にするタイプです。
某金属の王セット集めんの面倒かった。聖剣Ⅱにいたってはどうやったら手に入れんのかわからんレベル。やろうとしたが、十二時間は流石に時間的に無理があった。後、一時間早かったら手に入ったのに。
そんな事を置いといてだ。俺の聖剣がいらないという意見は珍しく受け入れられ、そのまま魔王城に突入した。
次から次へと出てくる今の魔王が今の魔神の力を使って作り上げた魔族。
その全てを次々と塵に変えていく。
そして、奥へ進んで行き、分かれ道があった。
ここまでは分かれ道があっても倒した魔族に聞けば良かったが、今はもう、俺達しかいない。
どうするよ。散々、迷った結果、俺が一人で右側。後の仲間は左に進んだ。左からビシバシ魔王の気配がするぜ。右からは……とりま嫌な予感がする、とこいつらには言っとこ。あ、そうだ。
そんな装備で大丈夫か?
こう聞いたけど誰もお決まりのネタで返してくれなかった。ですよね。
とりあえず、俺は別れ際に全員の手を握った。魔法使いは握ろうとしたらぶっ飛ばされた。ですよね。
でも、これはあれだ。お前らに必要なもんだ。
「んっ……魔力が……」
「すごい。傷が勝手に治って……」
「俺の剣が聖剣レベルに……!」
「おお、魔力が漲ってくるぞ!」
俺の魔力を一部送り込んでやった。みんなは驚愕の表情で見てくる。ここまでの付き合いで、まだ分かってなかったのか。それに前のままじゃ成長としたとはいえ、魔王相手はきついと思うしな。
それに言ったろうが俺がお前らを見捨てるなんてあり得んから。
「……魔王城来る前より強くなった」
「ここまでとは流石に思わん」
「勇者様は大丈夫なのですか?」
「こんなに貰ったのだ。勇者にも影響がある筈だ」
大丈夫だ、問題ない。
少なくとも俺が想像しうる敵ならばノープロブレムだ。
言っとくが、今回はファンサービスだ!
別にあんた達の為なんかじゃないんだからねっ!
あんた達が死んだら寝覚めが悪いだけなんだからねっ!
と、一人脳内ツンデレをしてる内に時間が来てしまった
俺は全員の背中を叩いて一言呟いた。お前達ならやれる! 行ってこい!と。それを聞くと全員が笑って左の道へ進んで行った。
後は俺の仕事だ。しゃーなしだ。
私は幼い頃から勇者という存在に憧れていました。
勇者は人族と魔族との戦いで人神様から御使いとして召喚され、魔族を倒した。
勇者はその戦いの中で様々な人を助けます。中には人族以外の魔族でさえ助けたのです。
私はそんな勇者の在り方に憧れました。今、人族は再び、魔族と戦争をしています。そんな中で人族と魔族の区別関係なしに助けるなんて事、出来ないからです。
私はそんな勇者に憧れ、困っている人に手を差し伸べました。回復魔法を学び、魔物を倒す手段を得ました。
そして、いつの頃から私は聖女として扱われてました。
そんな私がその人に出会ったのは、王国の城内、ではなく王都の花屋でした。
私は花を育てる事が好きでした。時々、お忍びで教会を抜け出しては近くの花屋で花を買って育てていたのです。聖女だった私はそれぐらいしか心を休める術がなかったのです。
でも、その日は違いました。私は聖女として城に呼ばれ、その行きしに、たまたま見かけた花屋に寄っただけでした。
花屋に入った私は教会がある地元のよりかなり大きく、様々な花があり圧倒されました。
でも私がふと最初に目に付いたのは花ではありませんでした。
「え、マランカの花、ここにない? 売り切れ? 今人気の花だから? 次はいつ来んのさ? 明後日? いかん、それじゃあ、間に合わないんだ……」
何やら店員と揉めている少年でした。歳は私と同じ十代半ばでしょうか。ここら辺では見かけない黒髪黒目です。東方の出身でしょうか。
こう言っては失礼ですが、その黒髪以外はパッとしない印象です。
それにしてもマランカの花ですか……確かにちょっと前までは、あまり買われませんでしたが、今は勇者様が召喚されるという事で王都はお祭り騒ぎでそれに使われているのでしょう。
その人からは、あまり花好きという感じがしなかったので意外でした。これも失礼ですね……それとも誰かにプレゼントするのでしょうか? そっちの方が自然ですね。それにこの方は……
「あの、マランカの花なら私がご用意しましょうか?」
「いいんですか!?」
私が事情を聞くとその人は飛びつかんばかりの勢いで私の前に走ってきたのです。その勢いに少し引いてしまいました。
それにしてもこんなに近くなのに私が聖女だと分からないのでしょうか。最初は聖女だと分かってこちらへ来たと思ったのですが……
「え、えぇ。でも今はないので街の外で採取するという形なんですが……」
「えぇ、構いません。謝礼もするので是非お願いします!」
その人はどうやらマランカの花を欲しがっている人がいたのですが、お金がなくて、代わりに買いに来たらしいのです。でも店には花が置いていないという困った事態に。お人好しな人ですね。
という訳で私は近くの森まで行ってマランカの花を摘んできました。そこはそこまで強い魔物がいるという訳ではないのですが、弱い魔物ならば襲ってくる事もあるので子供だけでは危険な場所でした。
街へ戻ると花屋の前でさっきの人が待っていてくれていました。それと彼の隣には小さな子供が赤い目をしてこちらを見ていました。ある程度の変装をしているとはいえ、よく見たら聖女だとバレてしまいます。気をつけないと。
「あの……そちらの子は……」
「あぁ、そのマランカの花を欲しがってた子だよ。今日は母親の誕生日らしくね。プレゼントに母親が好きなマランカの花をとおもったらしいんだけど、花を買うお金がなくて、採取しようにもあの森は危険だしね。冒険者ギルドに依頼を出そうにも年齢的にきついしで……ギルドの前をウロウロしている所を俺が見つけたんだ」
「なるほど。しかし、私が行かなくても貴方が行けば良かったのでは?」
この方の立ち振る舞いを見れば分かります。私も聖女として時に戦場に立つ事がありますからね。
この方は強い。それこそ、私が束になっても勝てない程の実力者だと。
「それでも良いんだけどね……俺が仲間が王都から出ると何しでかすか分からないって言うからさ。俺って仲間から信用ないんかな……」
困ったように頬を掻いて話していました。ふふ、その方達はこの方をとても大事になさっているのでしょう。
「それにしても良かったよ、花が貰えて」
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、ありがとうございました!」
お礼を言うその子からは本当に感謝しているのが伝わりました。
「ふふっ、どういたしまして」
「俺からも言っとくわ。わざわざ森まで行ってくれてありがとな」
その時からでした。その人のあの笑顔が頭から離れなくなったのは。
私は聖女でこの王都で行かなければならない用事かあったのでそのまま二人と別れました。またあの方と会えるかなと期待を寄せて。
そしてその再会は私が思うよりも早かったのです。
「えーっと、久しぶり。いや、さっきぶり?」
「ご、ごきげんよう? ってどうした貴方が?」
城へ行くと驚く事に何と別れた筈のあの人がいました。
さらに魔法使いさんや剣聖様もいらっしゃいます。
「……この人が勇者様だから、聖女様」
「「えーっ!!」」
二人の驚愕の声が重なりました。
それからでした。私とあの人の長くて短い時間が始まったのは。
勇者様はやっぱり強かったのです。私が想定していたより何倍も。
本人は「俺の場合に限って常に最悪のケースを想定しろ。俺は必ずその少し斜め上を行く」と仰ってましたが少しどころの話じゃありません。
幼馴染で王女のルヴィアに聞いた所、過去の勇者はこれ程強い訳ではなかったようですし。
訓練も嫌々やっておられてました。どこかで戦闘経験がおありなのでしょうか。異世界は平和そのものと聞いておりましたが。
剣聖様曰く「勇者様からは歴戦の猛者の気配がする。場数は俺より遥かに上かもしれない」と仰ってましたし、訓練も勇者様ではなくて逆に我々が受けるような感じでした。
……勇者様、貴方は何者なのですか? 勇者様はいつも笑っている。魔法使い様を弄ってボケて殴られる勇者様。
剣聖様の凛々しいお顔を羨んで寝てる間に、落書きして魔法使い様に魔法を撃たれる勇者様。
私の着替えを見てしまって慌てて顔を赤くする勇者様。
そのどれもが笑っておられてました。でも、あの花屋で見た笑顔とは違っていた気がしたのです。
勇者様、貴方は何者なのでしょうか?
魔法使い様も剣聖様も薄々その違和感に気付いておいででした。でも、もし訊いてしまうと、今のこの心地良い関係が崩れてしまう気がしたのです。
結局、魔王を倒す旅に出ても訊けなかったのです。
でも、一つだけ分かっている事があります。あの方は私達が困っていたら絶対に見捨てない事。
私は聖女故に人に頼られたらそのまま請け負ってしまう悪癖があります。いつもならそれは良いのですが、今は魔王退治の旅路の途中。
はっきり言って寄り道以外の何者でもありませんでした。
剣聖様は実直で真面目な方なので私に反対しませんが魔法使い様はあまり良い顔をされてませんでした。
そんな時、勇者様は決まってあの笑顔をされて「しゃーなしだ」と言ってすぐに解決してしまうのです。
その間に魔法使い様が大規模な魔法で問題をさらに広げたりしますが、それも全て勇者様はあっという間に終わらせました。
旅の途中で私は攫われてしまいます。その相手は魔王の幹部で四天王と呼ばれる魔族。戦闘能力がもっとも低く回復役の私を狙ったのです。そして、私のお人好しな面につけこんだのです。
私は牢屋に閉じ込められ、その魔族と無理矢理結婚させられそうになったのです。
でも、勇者様は、いやパーティーの皆様はすぐに助けに来てくれました。
特に勇者様はどこから現れたのか。私が着替えている所にいつの間にか現れたのです。
私は思わず顔を叩いてしまいました。
「いてぇ! 違う違う。俺だよ、俺。あ、詐欺じゃねぇぞ?」
こんな状況なのにいつもと変わらない勇者様に思わず笑ってしまいました。
「俺はお前らを絶対に見捨てないからな。これもしゃーなしだ。さっさと出るぞ」
その差し出された手を私は掴みました。
四天王と呼ばれた魔族は剣聖様と魔法使い様が相手をしていましたが、勇者様が来られると一撃で倒されてしまいました。
本当に勇者様は凄い方です。
勇者様はそれからも変わりませんでした。
自分を殺しに来た竜の命を逃がしたり、魔族領に入って魔族を助けたり、終いには魔族の女性をパーティーに入れると言い出したのです。
私達はそれを受け入れました。
これが他の人ならばそうならなかったでしょう。
いくら魔族達が魔王と敵対してるとはいえ、魔族は人族の敵。それは大昔から変わらない普遍の事実。でも、受け入れたのは、言い出したのが勇者様だからです。あの神話の中の勇者のような方だからこそなのです。
仲間になった魔族の方と因縁があった四天王の魔族が襲ってきた時も勇者様は魔族の方が一騎討ちで戦いたいと仰った時、それを躊躇いなく了承しました。
勇者様と私達が分断された時もあの方の教えで「頭はクール。心はホット」という教えで私達は協力しあい何とか四天王を倒せました。
勇者様は何と百万体いるスケルトンの相手をさせらていたのです。
その事を魔族から告げられた時は本当に怖かったです。でも、魔族を倒した後、何事をもなかったかのように戻って来た勇者様を見て安心しました。その余り抱き着いてしまったのは忘れたい過去です。こういうのを勇者様は黒歴史と仰っていました。
でも、勇者様が敵である四天王に色仕掛けで迫られたのは許せません。あまりの怒りに女性陣三人でお仕置きしました。もちろん、魔族は倒しました。
そして、ついに魔王城へたどり着きました。
中には今まで出会ったどんな魔物より強力な魔族達が待ち構えていました。しかし、勇者様は、
「自重すんのは終わりだ! ラスダンでヒャッハー!!するぜ! 汚物は消毒だー!」
とまた訳の分からない事を言い出したかと思うと一瞬で目の前にいた魔族を消し炭にしたのです。
そして、あの笑顔で、
「しゃーなしだ。行くぞ、お前ら」
はい、本当にしゃーなしですね。
向かってくる敵は全て勇者様が塵に変えました。そして、最深部に行くと分かれ道がありました。
迷った末に勇者様は嫌な予感がするという右側に、私達は魔王がいると思われる左側に向かいました。
不安はありました。今までの旅は全て勇者様あってこそ。私達はだけで魔王を倒せるのかという事。
しかし、勇者様はそんな不安も読んでいたようで。
「俺がお前らを見捨てるなんてあり得んから」
そう言うと私達に魔力を明け渡したのです。それも膨大過ぎると言える程の。はっきり言って勇者様が死んでしまうのではと本気で思いました。
「しゃーなしだ」
勇者様のその声で杞憂だと分かりました。もう、本当に勇者様は……
そして、勇者様と別れた私達は魔王の間へと向かいました。
「よくここまで来たな。勇者とその仲間達よ」
勇者様はいらっしゃらない筈ですが……何故か魔王は剣聖様を見据えてそう言ったのです。
まさか、勇者様の魔力のせいで勘違いを?
「まさか我が魔神様の力を使って創り出した魔族達がこうまで破られるとは……だがそれもここまでだ。我が直々に相手をしてやろう!」
「行くぞ、みんな。しゃーなしだ!」
普段あまり大声を出さない剣聖が剣聖様がそう叫びました。何だか可笑しくなって、みんなで笑ってしまいました。
「んっ……しゃーなし」
「あぁ、しゃーなしだ」
本当にしゃーなしですね。そして私達と魔王との死闘が始まりました。
私達は激戦の末に勝利しました。勇者様から魔力を貰っていなかったら敗北していたでしょう。
「ふっ、勇者の仲間の力は勇者と並ぶか……しかし、我が残りの魔力を魔神様の復活に……」
そう言うと魔王を青白く輝きすぐに消えてしまったのです。不安な遺言を残した魔王。唐突に嫌な予感がしました。
私達はすぐに分かれ道に引き返し勇者様の後を追いました。
「んっ……止まって」
魔法使い様が手で私達を制止したのです。目の前には黒い魔力で出来た壁がありました。
いや、これは結界? ここまで強力な結界は賢者様でも作れない……
「勇者様のもの……この中で勇者様が戦っている」
なっ! ならば早く加勢にっ!
「それは駄目。この結界は空間毎、切り取られている。外から内に干渉出来ない。逆もまた然り……」
つまりこれは勇者様が私達に被害が及ばないように。
私達はその場で座り込んでしまいました。私達に出来るのは祈る事だけ……
魔神なんてどうでもいい! 勇者様が無事に帰ってこれれば!
私は目を閉じ、胸の前で手を組んで祈っていました。
そして、
「よぉ、こんなとこで何してんだ、お前ら?」
目を開けるとそれは私達が大好きな勇者様の声でした。
「勇者様! 良かった! 良かったよぉ……」
私は抱き締めていました。しかしよく見ると勇者様のお顔がところどころおかしい……
前は黒目だったのに今は金色です。まるで魔族みたいです。その事を聞くと、
「いやぁ、魔神が復活しそうでヤバめだったから俺がその力を吸い込んだらこうなってしまってみたいな?的な?」
魔神の力を吸い込んだ!? 大丈夫なんですか? いや、勇者様なら大丈夫ですね。もう……本当に無茶な事ばかりしてくれますね。
「んっ……今の勇者様は魔神そのもの。魔神を倒した勇者にさえ吸い込むなんて出来なかった」
「そこは俺の天先的なアドリブよ? これからどんだけアホ魔族が魔神を復活しようと企んでも魔力を捧げてもぜーんぶ俺のもの。俺のものは俺のもの。お前のものは俺のもの。これ即ちジャイアニズム」
「また勇者様は訳のわからない事を……」
「でもやってる事は凄いな。これでもう魔王と魔神の被害はない訳か……」
「ま、まぁな。言ったろ? 俺は何があってもお前らを見捨てねぇよ(それに元々俺の責任だし……)」
「えっ、何か仰いましたか? 勇者様?」
「いんや、何でも。じゃあ、お前ら帰るぞー」
その一言で私達の魔王を倒す旅は終わりを告げたのです。
そこからはあまり特筆すべき事はありません。
期間後、ルヴィアと勇者様を取り合いになったとか、ルヴィアが既成事実を作ろうと押し倒したとか、勇者様が勇者様の部屋で私に夜這いを仕掛けに下さったとか。
あぁ、剣聖様は魔族の方と結婚されました。あれから魔族と和平が結ばれ、人族と魔族が互いに歩み寄る姿勢を見せたのです。その第一歩として二人の結婚は世界から祝われました。
魔法使い様は王家の筆頭魔法使いとしてご出世されました。賢者様の後を継いでその役目を果たそうと努力なさってます。
まだ、勇者様に魔法勝負で勝てない事を悔しがってますが。魔法が人族より盛んな魔族との交流研究会もされています。
そして、現在。あれからまだ一年だというのにあの日々が今では夢のようです。しかし、私の中で全く色褪せないのです。
「聖女である貴女はまだ踏ん切りがつかないの?」
「私はルヴィア程強くないから……あの方がいなくなられた事がまだ信じられなくて……」
「勇者様は元々異世界の方よ。それを私達の都合で召喚した。あの方はあの方の人生があった。その為に元の世界に戻るのは当然の権利よ」
分かっています、そんな事は。でもせめて一言ぐらいあっても良いじゃないですか。
私にあの方の部屋で夜這いを掛けに下さった翌日、突然勇者様の姿が城から消えていたのです。
城内は大慌てでした。勇者様のお戯れは何回もありましたからすぐに戻って来られるだろうと思っていました。でも、魔法使い様の一言が一変させました。
「召喚魔法が使われた形跡がある」
それだけで私は理解しました。あの方の魔法は魔法使い様や賢者様、さらには魔神でさえ叶わない程です。城にあった召還魔法の魔法陣を使って逆に送還魔法で元の世界に戻る事など造作もない事です。
城内は静まり返りました。勇者様のあの態度からずっとこの世界に、この国とどまってくれるとばかり思っていたのです。
国王陛下は勇者様を責めてはならないと厳命しました。
勇者様は誰にも伝言も手紙も残していきませんでした。
剣聖様は未だ一騎討ちで勝てておらず勝ち逃げした事に怒っていました。
魔法使い様も魔法勝負が出来ない事、勇者様がいないと逆に調子が狂うと寂しがっていました。
魔族の方はただ泣いていました。
勇者様は私達を見捨てないんじゃなかったんですか! あれは嘘だったんですか!
でも、勇者様を恨む反面、もしかしたら勇者様が帰ってくるかもしれないとも心のどこかで思っていたのです。期待していたのです。
それまでの間、私はこの想いに蓋をしました。聖女としてあの勇者様のように困った人に手を差し伸べ続けようと決めました。
だから勇者様、私が死ぬまでに帰ってこないと許しませんからね?
そして、さらに月日が経ちました。
私は今、法王という教会のトップの立ち位置にいます。腐敗していた教会を魔法使い様や剣聖様、ルヴィアと協力して立て直したのです。
法王と言っても地位だけで普段は孤児院にいて子供達の面倒を見ています。
ルヴィアは他国の王子に嫁いでいました。彼女の顔を幸せそうでした。
そうそう、剣聖様と魔族の方に孫が生まれました。
二人のお子様の時もそうでしたが新たな命が芽生えるというのは本当に素晴らしい事です。
魔法使い様は賢者様の名を受け継ぎ賢者の名前を貰いました。新たな魔法を開発しては世界を驚かせています。
私は何度も結婚を勧められました。私は聖女と呼ばれ魔王を倒し、今では法王の地位にいる身。私と縁を結びたい方はたくさんいらっしゃいました。でもその度に私は首を横に振り続けました。
あれから四十二年という月日が経ってもあの方の事を想っていました。こんなヨボヨボの老婆になって何を言ってるのかと思われましょうが、私はあの方が私達を見捨てなんてありえない、そう信じています。
だからーーー
コンコン
自室で休んでいると誰かが来たようです。最近、昔を思い出す事が多くなりました。歳を取ったという事でしょうか。
「どうぞ」
しかし、応答がありません。不思議に思い、もう一度呼んでも同じでした。
「しゃーなしですね」
私は立ち上がりドアを開けました。しかし誰もいなかったのです。イタズラ? 子供達かしら? 全くまるであの方みたいな……
「その口癖、俺の真似か?」
衝撃が走りました。私の覚えのある中で絶対に忘れる事のない声色。お調子者の典型的な軽い雰囲気を持つその声色は間違いなく……
「貴方は……まさか……」
私は急に怖くなりました。後ろには間違いなくあの方がいらっしゃいます。でも、私の間違いならば……
「何ビビってんだ? 歳食った顔を見られたくないってか? 安心しろ。実年齢は俺の方が何十倍も年上だから。英国紳士は老いも楽しむもんだぜ」
ふふっ、相変わらずの減らず口。そうですね。その態度は全くお変わりのないようで。
私は振り返ると同時に相手の確認もせず胸に飛び込みました。
「お久しぶりです。勇者様」
「あぁ、久しぶりだな、聖女さん」
あぁ、死んだな。そう俺が思ったのは、俺が苦手な聖属性の聖魔法を立て続けに千発食らい、人神の力が宿っている武器の攻撃を同じくらい食らった後だ。
あの人神の野郎。まさか異界からのらの強者を連れてくるとは。しかも四百人程。なんつう人海戦術。
でも、まさかいつも遊戯で勝てなかったお前が俺に勝つなんてな。
まぁ、良いさ。俺も十分に長生きした。いや、長生きしすぎた。下手に生き延びるよりそっちの方が潔い。それに仮にお前に勝ってもお前がいない世界なんて詰まらなさすぎる。俺がいない世界にお前は耐えられるか?
だから置き土産を残してやる。もし、年月が経てば俺の代わりとしてお前の遊び相手になるだろうよ。それまで我慢してくれ。じゃあな。
そして、次に俺が目覚めた時、目の前にいたのはデカイ人族の女の顔だった。まさか、 俺を生きながら捕らえたのか? 人族め、まさか敗北したとはいえ神であるこの俺を捕らえるとは……にしても俺の身体がなんか窮屈だな。
どうやら俺は転生したらしい。それも異世界の人族として。
何もかもが違った。ここは地球という世界でその中の日本という国だった。
俺はその国の一般家庭として生まれた。魔法も魔族もない。その代わりに科学技術が発展していた。
幼稚園という児童施設に入り、童の為の学び舎の小学校に入り、その上の中学校に入った。
その年になると精神年齢が千歳を超えた俺も染まってきていた。友人になった奴がやたら異世界もののラノベを勧めてきた。すまんな、リアル転生人がここにいるんだわ。
ちなみにこの世界は魔法はないが魔力はあるので俺だけが魔法が使えた。魂はそのままなので魔神の時のままの魔力があった。
調子に乗って裏山で魔法を使い山火事を起こしかけた。すぐに水魔法で消火した。
そして、そのままこの平和な世界で人生を終えるんだろうなと漠然と思っていた時だった。
俺は高校生になっており、学校から帰宅していた時、突然魔力を感じたのだ。
魔法がないこの世界で俺の足元に魔法陣が浮かび上がったのだ。そして、俺の身体が光の覆われた。
気付いた時、なんと元の世界に戻っていた。
そして、その世界で再び魔神が復活しかけているという。人神は何をやっているんだ?
そして、調べてみると人神はどうやら俺がいない世界に耐えられず、自ら命を絶ってしまったらしい。
そして人神がいない今、俺が置いた置き土産が一人で暴走しているという。
ごめんなさいね、ほんと。俺達バカ二柱の神のせいで世界に迷惑かけて。
俺はすぐに王様の頼みをすぐに承諾した。
王様が仲間を頼むと言ったので、一緒に連れて行った。
なかなか楽しめた旅だった。銀髪魔族ちゃんも仲間に引き入れ本当に有意義だったと言える。
あぁ、ホントにすまんな。俺の置き土産が迷惑かけてる。
魔王城に着くと俺の魔力の気配がふんだんにした。
やはり俺の置き土産の力を使ってやがるな、魔王め。それを俺のもんだ。返してもらうぞ。
俺の力を使った創造された魔族を倒しまくり魔王の間へ仲間達を送り、俺は置き土産がいる場所へ向かった。
もしかしたら破壊できない程、成長した自我を持ってるかもな。
やはり俺の置き土産はかなりの魔力を溜め込んでいた。
「アイツ……ヒトガミ……ヲコロス!」
うわぁ、何故か人神の憎しみが増えてやんの。てか魔王の魔力が今宿ったよね? やべぇ。最悪、魔王城毎吹き飛ばすか。
俺と全く同じ魔力のその魔神の欠片は俺を見据えている。
「オマエノ……チカラヲ…….スイトリ……ヒトガミ二フクシュウヲ……!」
俺の力を吸い取る……ね。お前は元々俺自身だ。オリジナルの俺にそんな事出来るわけねぇだろ。
いや、待て。逆に言えばだ。その逆は出来るという事だ。楽勝じゃん。おっと、一応、次元結界張っとくか。
つーわけで勝負だ。劣化俺自身。
勝負は呆気なく俺の勝ちだ。そもそも魔力の質、量ともに俺の方が圧倒的だ。俺が勝てない訳がない。
まー、お前という病気を生み出したの俺だ。処理すんのも俺だ。これでおあいこだ。
あいつらが来たな。ならさっさと帰るか。
城へ戻るとまぁ、そりゃあ大騒ぎだ。見た目が魔族っぽくなったけど俺は世界を救った英雄な訳だ。あにらこちらで引っ張りだこだった。
でも、本当の事を言うなら俺の役目は魔神を倒した時点で終わりだ。あっちの世界には残してきた家族や友人がいる。
俺は召喚魔法の陣をいじり、あっちの戻れないか確かめていた。そして、
「あっ、間違えて魔力送り込んでしまった」
俺は送還されてしまった。ちょっと待ってくれ! まだあいつらに言い残した事あんのに! せめて一言!
そして、気づけば俺は元いた高校の階段にいた。送還は成功という事か。
しかし、それは違った。年月がおかしかった。俺が召喚されてから二年半が経っていた。
どうやら、あっちで時間が流れるとこっちでもそうらしい。速さは違うが。
それから俺はあっちの世界に戻る方法を探しながら元の生活を送っていた。心の中でどうしようもない空っぽを抱えながら。
俺は友人は多かったが恋人は作らなかった。つまりはそういう事だ。家族は心配していたが二つ下の弟が結婚すると踏ん切りがついたらしい。それに両親の老後の面倒は俺が見た。
両親の死後は、俺は時間が余ったので世界を見て回った。この世界については知ってる事は少ないからだ。
空いた時間にあっちの世界に行く方法を探した。
そして、俺がこっちの世界で生まれて七十も半ばになった頃、それは成功した。あっちな世界が存在する座標を探して送還魔法を使えば戻れることが出来たのだ。
俺はもう、死んでしまった友人達に別れを告げた。自分の姿を召還された当時のものにした。
これくらいは魔神だからね、余裕だぜ。待ってろよ、みんな。しゃーなしだ。
気がつくと俺はあの城の召還魔法の魔法陣にいた。成功だ。
あれから四十二年経っていた。王都はかなり様変わりしていた。
人の話を聞くとみんな結婚したり子供を産んだりしていた。中でも驚いたのは聖女さんが独身だった事だ。
魔法使いは……えっ、結婚したの? マジかよ。
しかも、俺は世界を救う為に現れた人神の生まれ変わりだのと伝わっていた。
あー、確かに魔神倒す為に、何か出てきて倒したと思ったら、すぐ消えたもんな。実際は魔神の生まれ変わりです。
俺は真っ先に会いたい人がいた。話を聞いて瞬間移動ですぐにその場所へ向かった。しゃーなしだ。
暗示で彼女がいる部屋を聞き出し侵入した。これやべーな。完全に泥棒……細かい事は気にしない!
彼女の部屋に辿り着いた。普通に会ったのではつまらんな。少し驚かすか。
俺はドアをノックした。そして、
「しゃーなしですね」
それを聞くと瞬間移動で部屋の中に入り彼女の後ろへ立った。某13さんなら死んでるね。
にしてもその言い方はまるでーーーその口癖、俺の真似か?
「その口癖、俺の真似か?」
おっと、思わず声に出ていた。
「貴方は……まさか……」
驚いてるな。そりゃそうだ。いなくなったと思ったら四十二年ぶりに帰ってきたんだから。
ソロモンよぉー! 私は帰ってきたぞー!
「何ビビってんだ? 歳食った顔を見られたくないってか? 安心しろ。実年齢は俺の方が何十倍も年上だから。英国紳士は老いも楽しむもんだぜ」
何言ってんだ、俺は。こんな時も減らず口か? ツンデレにも程があるぞ。このグダグダ感も俺らしいな、ホント。
「お久しぶりです。勇者様」
「あぁ、久しぶりだな、聖女さん」
今は喜ぼう、この再会を。俺は胸飛び込んできた聖女さんを軽く抱いた。
「遅すぎですよ! どれだけ待ったと思って……私待ってる間にこんなお婆ちゃんになってしまって……」
「気にすんな。俺は見た目の美醜なんて気にしない。俺にとっちゃ見た目なんて変えられるもんだしな」
「ふふっ、ホントに規格外ですね。貴方がいなくなってからの話聞きたいですか?」
「あぁ、俺も話したい事がたくさんあるんだ」
そうして俺達は四十二年の時を超えて、世界を超えて、再会した。
かつては世界には二柱の神がいた。一方は人神、もう一方は魔神。
彼らは一つしかない世界を巡り、永久に近い時を争い続けた。
しかし、その果てに彼らは疲れてしまった。
そして、彼らは自分達の代わりに自分達の子を創造したのだ。
最初に『魔神』が『魔族』を。
次に『人神』がそれを真似て『人族』を。
しかし、それでも決着は付かなかった。
怒った人神はやがて異界から天の遣いを召喚
した。
彼らは数多の魔族を討ち倒し、やがて魔神をも滅ぼした。
そして世界に平和が訪れた。
そして、後に人々は彼らの事を『勇者』と呼び讃えた。
しかし、時が経ち、魔神は復活した。
人神は人間として生まれ変わり、勇者として世界に現れた。
彼は魔族を加えた仲間とともに、苦難の旅路を歩いた。
そして、その末に愛する聖女とともに魔神を討ち倒した。
そして、人族と魔族の世界に平和そをもたらした。
しかし、彼は世界から消失してしまった。
彼は世界に危機が訪れた時に再び現れるだろう。
……何だこれ。嘘っぱちじゃん。
俺は魔神の生まれ変わりだし。旅とか楽勝だったし。俺消えてないし。消えたの人神の方だし。
まぁまぁ、そっちの方が良いではありませんか。子供向けで分かりやすいですし。
それぐらい分かってるよ? 剣聖んとこの孫も面白いって言ってたし。
それに貴方の事を知ってるのは私だけで充分です。
あぁ、そうだな。今の俺はお前の騎士だしな。
えぇ、顔をも性別も分からない私だけに仕える黒騎士。その代わりに私は貴方だけを支える聖女になりましょう。
あぁ、本当にしゃーなしだな。
えぇ、本当にしゃーなしですね。