8話 帰還
目が覚めた。
夢を見ていた。
嫌な世界だった。
あんなところにいたくはなかった…
いつものように雪篤と朝食をとっていると、また小春が話しかけてきた。
「雪、今日あの子が帰ってくるから12時に会議室に来て。あ、ついでに秋くんも。」
あの子?…誰だろう?
ここのコミュニティの者だろうか。
など考えていると、ため息混じりに雪篤が口を開いた。
「あいつが帰ってくんのか…。あいつのテンションは好きじゃないんだがなぁ…。」
「まぁそう言わないでよ、大事な仲間でしょ。あの子はここではかなりの戦力なんだから。」
「わかってるよ…。はぁ、今から気が重ぇ…」
食事を終えて、俺は雪篤の部屋に向かった。
部屋の前に立ち、ノックをする。
すると、入室を促す声が返ってきた。
部屋に入り、雪篤に問いかける。
「さっきのことだが…『あの子』って誰なんだ?」
「あとですぐ会えることだし、今話す必要もないと思うが…まぁ聞きたいなら教えてやろう。あいつはこのコミュニティの、能力者保護のためのグループに属する『特攻隊長』みたいなもんだ。敵がいるとこに行き、能力者を保護する。あいつはこのコミュニティの中で、随一の戦闘能力を持っているからな。あ、名前は本人から聞け。俺はあいつの名前が嫌いだ…、というかあいつが嫌いなんだ。名前からして暑苦しい…」
なるほど…静かで普段からテンションの低い雪篤とは正反対な人間…というわけか。
戦闘能力が高いということは、能力もかなり戦闘的ということだろうか。
そして、お互いのここに来る前のことなどを話しているうち、12時が近づいてきた。
「…お、そろそろ行こうか。お待ちかねの特攻隊長さんに会いに。」
「あぁ、まだ会議室の場所がイマイチ覚えられないから、案内頼むな。」
「あぁ、任せろ。」
会議室の扉は、すでに開かれていた。
中から楽しそうな声が聞こえてくる。
「おかえり、ヒマ。無事でよかったわ…。」
「何を言うかー。あんな底辺の雑魚相手に怪我してるようなタマじゃないってのー!まぁでもちゃんとここに帰ってこれてよかったわ!」
「うん。私も嬉しいよ。」
「2人でラブラブしてるとこ悪いが、俺もいるぞ。」
雪篤が部屋に入り、2人の中に入る。
「おぉ、雪くん!久しぶりぃぃぃ!!」
『ヒマ』と呼ばれた女の子が、雪篤に飛びつく。
「うわっ来んな!!」
「いーじゃーん!久しぶりなんだからハグの一つや二つぅ〜!」
「だから、お前は良くても俺は良くないんだよ!」
眼の前で繰り広げられる光景に、俺はしばらく何もできなかった。
「ほらほらヒマ。さっき話した新人がいるんだから、挨拶して。」
「おぉ!そうだった!」
こちらを振り向く少女。
そして満面の元気な笑顔で
「初めまして!夏目 向日葵です!特攻隊長やってまーす!よろしくね、栗山 秋人くん!」
と、橙色の髪の少女は俺に向かって拳を突き出してきた。
俺は若干面食らったが、深呼吸をして
「あぁ、これからよろしく頼むよ。いろいろとな。」
と返し、お互いに拳を合わせた。
ー8話 終ー