9.間接的でも関わりたくないと思いました
「・・・兄様は、お店の店主さんが言っていたシルバーウルフって見たことありますか?」
びっくりしてお店を出てしまったが、何処で見たのか、聞いても良かったと思った。
「いや、ない。シルバーウルフは上位魔獣になる。『深緑の森』の奥に行かないと遭遇する事はないだろう」
「そうなのですか・・・では、あの店主さんは凄腕なのですね」
「どうだろうなぁ~、討伐されて運び込まれたのを見たのかもしれないな」
上位魔獣の討伐がそうそう無いはずだが、ありえない事ではない。・・・でも、しっくりしない。だって、シンは、確かにシルバーウルフだけど、この大きさは生まれたばかりの幼獣の大きさなのだ。シルバーウルフの子供がこんな所にいたら、親が街にやってきて大騒ぎ、しかも仲間で行動するので数頭でやってくる事になる。
・・・この大きさをみて、シルバーウルフだって言うのは変だ。
「そうなんだ・・・僕も見てみたいなぁ」
なんて、返事をしてみたけど・・・あの人何者なんだろう。魔石商やってるけど、やっぱり凄腕の傭兵か?冒険者なのかな?
どちらにしても、僕にとっては---要注意人物です。
僕と兄様は、もと来た道をとおりながら、東門の騎士団駐在所を目指す。途中、母様にお土産を買い、僕もお菓子を買ってもらった。子供なんで、子供らしく。
駐在所に着くと、広場で遊んでいた数人の子供達が集まり、中から数人の騎士達が僕達の前にやってきた。
まだ1・2年目の新米騎士なのだろう、兄様の事を知らないようだった。
ちょっと体格の良い子供達のリーダーっぽい子供が前に出てきてボソリと言った。
「---・・・悪かったな」
ふてくされた顔をしていたが、一応謝りに来たのだろうが、あわてて前に出てきた騎士の一人に無理やり頭を押さえつけられ下げさせられていた。
「うちの弟たちが、暴力をふるい申し訳ありませんでした!」
「えっ、イヤ大丈夫です」
あまりの勢いでブンブンと手と首を振って気にしないで欲しいと変な行動をしてしまった。
だって、勇者に会える機会を僕がダメにしたみたいなので・・・。。
「いえ、ほらお前達もちゃんと謝るんだ!」
後ろに居る子供達に声をかける。良く見ると子供の後ろに居る騎士達が思いっきり子供達の頭を押さえつけ下げさせているのが目に入る。
「あっ、もう謝ってくれたならそれでいいです」
僕の一言で明らかに騎士達は、ホッとした顔になったが、一瞬で顔を引き締め視線を下に向けていた。
僕の斜め後ろから腕を組んだ兄様が、僕達全員を睨んでいた・・・。
あっ、僕何か間違ったみたい・・・後で僕も怒られる対象らしいので、助けてあげる事は出来ません。
僕らの様子を少し離れた場所で観ていた兄様くらいの年齢の騎士が「話が終わったら、奥に来て欲しい」と、兄様に告げた。
・・・僕の前に声を掛けないって事は、兄様の事知ってる人だ。
広場に居る子供達は直ぐに解散となり、帰宅を促された。もう帰らなければいけない時間だったようだ。
僕と兄様、新米騎士達は、案内されるままに駐在所の中に入った。ここに戻るまでは機嫌の良かった兄様だが、主に僕に怒っているのだろう。
僕達は、東門騎士団の団長の執務室に入った。一人の騎士が僕の目の前に立ち胸に手を当て敬礼をしてた。
「ルークス、東門騎士団団長のギレン・レイヴォルク殿だ」
「ギレン・レイヴォルクと申します。以後お見知りおき下さい」
と兄様に促され、騎士団長は子供相手に丁寧に挨拶をしてくれた。兄様知ってるようだから、僕の事も知ってるみたい。
「---始めまして、ギレン・レイヴォルク殿。私はフリスト・ヘルヴォルトの息子、ルークス・ヘルヴォルトと申します。この度はお騒がせ致しました事、お詫び申し上げます」
レイヴォルクの名を持つということは、子爵家の者だという事だ。もちろん侯爵家である我が家よりは格下になるのだが、僕はまだ10歳の子供で次男、ギレン殿が跡継ぎである可能性は低いのだが、僕は年下の未成年として僕は、貴族としての挨拶をし、騒ぎを起こした事を詫びた。
僕の名前を知らなかった後ろの騎士達がギョッとして、また部屋の空気が微妙なものになった。
・・・?明らかに騎士団長に緊張していたのは分かっていたが、何でだ。
目の前に居た兄様が呆れたような顔をして、はあぁ〜とため息を吐いてから説明してくれた。
「いいか、お前は街の子供のした事だからと、もうこの件は無かった事にしようと思っているのだろう?だが、この街には色々な家の貴族がいるんだ。大半は騎士だから、相手も喧嘩を仕掛けてきたり、暴言を言ったりはしない。・・・今回のような事は起こらないだろう。だがな、騎士以外の貴族が街に来て、気に食わないとか、ちょっとした事で一方的に暴力を振るってきた人間を許すと思うのか?知らなかったとしても、特に今回のような一方的に行われた事に関しては、子供といえども本来は刑罰の対象になる」
「それは・・・謝罪を簡単に受け入れてはいけなかったのですか?貴族だから余計に厳しくしろと・・・?」
「---そうだ。こういった行動を処罰する事によって、大きな事件を、起こす輩を少なくする事に繋がるんだ。だから、どんな些細な事も目を瞑り、なかった事にしてはならないのだ。今回の様に、理不尽な振る舞いに対して同じ扱いは出来ない」
僕と共に入ってきた子供達の兄であろう騎士の方々が、兄様に「領主の息子なんだから厳しく処罰をしろ」と言われ、青ざめてるのが分かる。
「・・・分かりました。以後、気をつけます。それから、子供達の刑罰に関してですが、通常はどんな内容になるのでしょうか?」
「そうですね・・・相手の貴族がどう処罰をして欲しいか訴えてくるのですが、危害の大きさにもよりますが、子供といえども、鞭打ち・極刑となる場合が多いです。ルークス殿はお望みですか?」
ニコリと、騎士団長は笑顔で教えてくれたけど、内容はむごいよ。
「---・・・!!」
ブンブンと咄嗟に首を振った。そんな怖いことイヤだ!無理!
「では、どうなさいますか?」
「・・・ご家族の騎士の皆さんには、子供達にちゃんと言い聞かせてください、相手が貴族だったら大変な事になってたって。でも僕が貴族だって事は内緒にして下さい。それに暴力で訴えるのは良くないと思います。後は・・・広場の草刈を子供達にやってもらいましょう、それが罰です・・・駄目ですか?」
・・・また、兄様に睨まれてるよ。兄様は鞭打ちとかしちゃうのかな?
「・・・わかりました。後の事はこちらにお任せ下さい」
「ありがとうございます。レイヴォルク団長」
了承を得たので、一安心。兄様は納得がいかない様子で、一言。
「わかりました。この件はそのようにお願いしますが、レイヴォルク殿が子供の監督をする事をお願いしたい。本来であればこのような生やさしい事では済まされない。街の平穏を守る為には、周囲に示しが必要だ。次は無いと思い、しっかりと刑罰を実施される事をお願いする」
レイヴォルク殿や、部屋にいる騎士、僕の顔をグルリと見渡しながら、睨みつけて言った。
とりあえず、良かった。問題解決。
「じゃあ、僕も騒ぎを起こした罰として一緒に草刈り参加するので、日時が決まった連絡下さい」
にっこり笑顔でお願いしたのに、
「ダメだ(です)!」
と二人が声をそろえて却下してきた。
騎士の人たちも、青ざめて斜め下を向いて誰も目を合わせてくれなかった。
問題起こさないように気をつけるよ?
僕が居るとまた大変な事になると思ってるのかなぁ・・・勇者がかかわらなければ大丈夫だと思う。今回はまだ前回の事が尾を引いてただけだから。ほとぼりが冷めたら大丈夫なはず!
・・・でも、今回も間接的に勇者が絡んでる?