6.出かけるといざこざが起こります
「カッツ、カッツ、カッツ、カッツ・・・」
僕は今馬上に居ます。
兄様の操る馬に相乗りをさせてもらっている状態で、後ろには兄様が跨っている。馬の後ろからシンが「ハッハッハーーーー」と息を弾ませながら追いかけてくる。
シンは馬に乗せられないから、走ってもらっている。見た目は犬っぽいけど魔獣だから馬が怯えます。
部屋に引きこもっていた僕と一緒に居たからとても楽しそうだ。
朝食後、僕は商人の子供風に着替え、兄様はその護衛のような恰好で、腰には剣を下げている。
シンの弾んだ足取りに合わせる様に、兄様は早足で馬を操っているので、馬上では話はしない。舌を噛んでしまうからだ。
何か聞きたそうな兄様には悪いが、助かった。何も聞いて欲しくないと思っている僕の心情は、兄様にだだ漏れらみたいだけど。
父の納めるこの領地は、辺境ではあるが多くの騎士達が逗留するので、治安が良く物流のしっかりとした大きな街だ。
騎士に志願する半数は貴族の息子達だ。国は魔族対策を重要としているのか、貴族の子息達をこの地に配属させ重役達に予算をしっかりと出させるようにしているらしい。
そうなると、各ギルドが商売を始め街、が大きくなったらしい。貴族って言っても次男・三男などが多いのだけれども、いい商売相手には違いない。
勿論、平民も騎士団に所属する事ができ、魔獣の出る危険地帯にある騎士団なので実力が重要視されている為、平民出身でも肩身の狭い思いをすることが少ない。わりと平民にも人気の領地となっている。
・・・魔獣討伐に借り出されたら危険なので、自分の実力に自身のある者か自惚れ屋がおおいみたいだけど。
街の南に位置する『深緑の森』側と東西側にに街を守る壁を築き、東西南北にそれぞれ門を設け、騎士団の駐在所を設置している。北側は特に壁を設ける事しない、魔獣は南から来るので北に逃げやすいようにしている。主に街の中心に繋がる北からの街道は、多くの商人達が行き来をする王の住む首都に繋がる生命線だ。
僕たちは、屋敷から一番近い東門にある騎士団駐在所に馬を預け、街中を歩く事にした。
「---兄様とても気持ちがよかったです。連れてきてくくれてありがとうございます。」
馬から降ろしてもらいながら、素直な気持ちを告げる。シンもとても喜んでるしね。
兄様はなにも言わず満面の笑みを浮かべ、僕の頭をクシャクシャになるまで、撫で回す。
チョット痛いくらいに撫で回した手が、今の兄様の言葉にしないでいる気持ちを表している様で胸にしみた。
兄様は、僕とシンを広場に残し、馬を預けに行った。
街には幾つかの駐在所があるが、大小様々だが広場が設けられ、普段は子供の遊び場になっている。訓練場所は施設の中にあり、この場所が使われる時は街で大事があったり、大規模訓練や大人数の騎士団の移動の際に使われるくらいだ。駐在所の広場は、子供の憧れである騎士団を身近に感じ、治安もいい安心安全な場所だ。怪我しても治療してもらえるし人気の遊び場だ。
この広場には、男5人組と男女混合組があり、男5人組の身体付きの大きい子が、この場を仕切っているらしい。一人になった僕をジロジロ眺め、みんなで品定めを始めた様だ。ジリジリと距離を縮め、僕とシンの前にズラリと並び、茶色い髪のが僕に近づき、顔を覗き込んだ。
「お前この街の子供じゃないな?」
「・・・・・・えっと」
僕が領主の息子だって事は言えないし、言っちゃうとこの格好の意味なくなるし。まあ確かに街中には住んでいないけど。
数える程しか街に来たことはないから、僕の事知ってるのは数人の騎士の人たちくらい。
「!こいつ勇者様の訓練の時に、後から来て倒れた迷惑な奴じゃあないですか・・・」
取り巻きの一人が指差し、広場中に聞こえる声で言った。
その声を聞いて他の子供も集まってきた。ひそひそと囁きあって、ちらちら此方を見る視線が痛い。
あの日は、街の子供も招待されていたらしい。
「こんにちは」
相手は友好的ではないけど、にこやかに挨拶してみよう。でも、反応はない。むしろ睨まれた。
隣のシンは警戒してるので、僕の一歩前にでる。
僕と中央にいるリーダーらしい子と視線を合わし、互いに無言なので睨み合いの様になった。
「---シュ」
僕の横から拳くらいの石が投げられた。
シンの腹を狙った様だけど、ヒョイとシンは軽く躱し、何事も無かった様に僕の横に立つ。
躱された事で、子供達はざわめき次々に石を手にした。
「---何するんだ」
「ひ弱なお坊ちゃんを守れるように訓練してやるんだよ」
ニヤニヤしながら、周りの子供に石を投げるように指示する。
シンは、次々に投げつけられる石を簡単にかわしている。
ザワッ・・・と怒りと共に僕の押さえ込んでいた魔力が動き始める。
僕は止めさせようと、リーダーと思われる子供に詰め寄るが、体格差で突き飛ばされシンの横に尻餅をついてしまった。
「---うわっ」
投げつけられようとした石から、僕は咄嗟に顔を両腕で隠す。顔面直撃は痛すぎるし、これ以上気持ちを高ぶらせるわけにはかいかない。
既に凄い勢いで魔力が体中に巡っていくのがわかる。
顔を庇うように広げた手の中に、投げつけられた石が飛び込んできた。
僕は、その石を握りしめる。
少しでも魔力を解放しないと・・・。
「---グルルル・・・」
普段上げない唸り声を出し、周りを威嚇し始めた。倒れ込んでいる僕の前に立ち、周囲を更に威嚇する。
「ダメだ!シン抑えて」
僕は、シンの首にしがみ付き、反撃しないようお願いした。
子供達は一斉に、シンに向かって石を力一杯に投げつけた。
「---ガッ」
シンの額から血が流れた・・・。石を避けると僕に当たるからだ---。
「---うあっあぁ〜!」
シンの血を見た瞬間、激しい怒りの感情が抑えられ無かった。