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26.抑えきれない感情

 記憶が戻った頃の僕は、数歩先さえ見えない深い霧の中を歩いている様な感覚で・・・行きたい道筋は決まっているのに一歩踏み出す事ができない、もどかしい状況だった。


 それが、シンとの使獣契約をできた事により、歩くべき道筋ができた。


 魔力が上がるにつれ霧が薄まり、兄様が共にいてくれる事により足元を照らす灯が、父に話す事で更に明るい光が灯った。


 今、僕の手と繋がれているこの手・・・シルクリース様と繋がった事により、全ての霧が晴れ・・・後は僕の力の限り進みのだ。---僕が、目指す先に、願う未来があると信じて。






「---しかして、お前さんたち不恰好だな」


 ・・・何が?とシルクリース様は首をかしげていたが、確かにそうなのだ。僕との身長差は頭一つ以上ある。この馬車を降り、舘に入るために僕か兄様の手をとらなければならない。

 シルクリース様の中では、僕の手をとり共に歩くと思っていると・・・。---兄様のお相手というのが外から見た者が思うのだろう。僕と腕を組むのは、ちぐはぐで不恰好なのだ。


 このまま館に戻るのに、僕が伴ってい歩くのは些か不可思議な印象を与え、不自然だ。・・・印象に残りにくく、館に戻るには兄様が一番無難---僕の手を取っていて欲しいと願うのは我が儘だろうか・・・。



 僕の考え込んだ表情を見たからか・・・シルクリース様も思うところがあったのだろう。少し考え込み、僕の顔を覗きこんだ。


「---ねぇ、ルーと同じくらいの身長になればいいかな?」

 と、シルクリース様は馬車内で魔力を練り上げる・・・馬車の中は、風が渦を巻いた様な感じだが、強い魔力の渦だ。水色の薄いカーテンのような霧がシルクリース様を覆った直後、水色の膜が一瞬にして消えた。


「-----・・・」

「---くうっ」

 兄様が魔力の圧迫を受けた様な状況に陥っていた。少し苦しそうにしていたが、ほんのひと時の出来事だったので、すぐに持ち直したのを確認し、シルクリース様に視線を戻した。






「---シルクリースさ・・ま」


 ---僕は目を疑った。だって、目の前に居るのは僕と同じ身長になった女の子だったから。


 そう・・・あの別れた時と同じ頃の姿だった。


 ---声が・・・震える・・・。もう二度と会えないと---見ることの叶わないと思っていた彼女の姿だ。



 もう一度だけ、とあの瞬間、一眼だけでも姿を、無事な姿を確認したいと願った・・・震える腕を伸ばし、彼女を・・・シルクリース様を抱きしめた。


 ---無事で良かった。

 きっと、僕は何度同じ場面に遭遇しても、同じ事を繰り返すのだろう。離れ離れになるとわかっていても、僕は何度だって彼女の為に命を投げ出す事のだ。



「---ルー?どうしたの・・・?」


 首筋に顔を埋め動く事の出来ない僕は・・・そのまま腕に力を込めた。この腕の温もりを二度と失うことはしないと・・・胸に誓う。


 なんとしても---。


 この温もりを、無くさない様に僕は、すがる様に腕に力を込めた。






 *****


「---おい、なんだアレは。魔族は規格外だな、常識外れの事をするな」

 私は目を見張った、常識では考えられない事がおきたのだ。


 ルークスは、少女の姿に動揺を隠せずに、少女を胸に掻き抱いた。まるで縋る様に---。


「---俺も初めて見た。魔力量の多い奴しか出来ない芸当だな」


 と、ゴードンも、呆れ顔だが・・・少し目を細め懐かしそうに頬緩めていた。


 ・・・ルーとゴードンには、あの姿に思うところがあるのだろう。


 訝しげにゴードンの様子を伺っていると、シンがすっと立ち上がり、二人の膝の上に顔を乗せて、「くおぉ~ん・・・」と小さな声を上げた。少女の姿に何の反応も示さなかったシンが---動いたのだ。


 ・・・シンにも思う事があるがあるようだ。


「・・・あら、シン久しぶりね。11年振りかしら??美人になりすぎて私に気づかなかった?忘れてた訳じゃないでしょ?!あっ---わざとでしょ!!全く相変わらずルーしか興味が無いのね!!」


 ---シンは魔族だった頃のルーといつも一緒にいたと言っていたから、少女とも顔見知りなのは当然か。


「あんた・・・ゴードン殿はシンの事を知っていたのか?」

「---ゴードンでいい。あんたの事は・・・」


「私の事は『フォース』と呼んでくれ。一応この街では、ルーの護衛なんでね。宜しく頼むゴードン」


 この街では、騎士団の数人と、舘の者しか私の事を知らずに生活をしているのだ。名前を呼ばれるのは、よろしくない。


「わかったフォース・・・。シンとはこの前店で始めてあった。姫さんと会った頃---もう事が起きた後だった」


 昔を思い出しているのか、遠くを見つめるような瞳で、私の横にある窓に視線をずらす。


「---丁度あれくらいの時だ」


 私に視線を向け、はっきりと言ったのだ。


 ---あれくらいの時・・・確かにルーは魔族の子供だったと、私に言っていたではないか。だが・・・漠然と子供という認識しか、私はしてなかったのだ。今のルーと同じ年齢の子供が---・・・そんな、そんな理不尽な事があっていいはずが無い。大人が子供に刃を向けるなど、理由も無くそん行為が許されるはずがない!


 握り締めた拳を馬車の壁に向けた時・・・ゴードンの手が受け止めていた。ギリリッと歯を鳴らし、私はゴードンを睨みつけた。行き場の無い怒りの感情をゴードンに向けた。


「---理解したか、これは我々の怒りだ」


 耳元に顔を寄せ、私にしか聞こえない小さく低い声で言った。


 ---・・・これは、魔族が持つ感情だ。私が今感じている憤りを、11年間抱えているのだ。


 ゴードンは、受け止めた私の拳を投げ捨て、私に背を向け外の景色に視線を向けていた。


 この感情は隠しておくものだ。---私が騒ぎたててよいものではないのだ。私もゴードンに背を向け、車外の景色に目をやり、この感情を腹の奥底に押し込める。



 ---・・・馬車が、舘に着く前に。







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