2.僕の親友
「・・・シン。」
ポフッと僕の寝台に頭を乗せた犬。いや犬ではなく、シルバーウルフのシンだ。
「お前なんでいるんだよ・・・。」
犬の様にクウーンと甘えた声をだし、つぶらな瞳で僕の顔を覗き込んでいた。
シンは、シルバーウルフとよばれる魔獣だ。今は何故か普通の犬?狼?いう感じのかわいらしい大きさになっているが、本来、大人二人は乗せる事ができる。魔族では、戦場を駆け抜ける軍馬のような役割をする。
そのスピードは、人間族の軍馬などくらべものにならない。だからあの時勇者から出来るだけ遠くに逃げるようシンに頼んだんだ。
それにしても人間となった僕の傍にシンがいるなんておかしな事だ。しかも、僕が物心ついた頃から一緒に過ごしている。こうして、魔族だった頃の自分を思い出すと不思議でならない。
「僕が死んだことで契約は切れたのだろう?」
僕・・・いや魔族であったルーフェストとシンは、使獣契約を行っていた。これは、どちらかの命が途絶えた時に解消されるようになっており、ルーフェストが死んだ時に解消されているはずだ。どうして、シンはここにいるのだろうか??聞きたい事は沢山あるが・・・まずは。
「ねぇ、シルバームーン・・・もう一度僕と魔力をお互いに少しずつ相手に渡し、契約を結んでくれるかい?魔力の少ない僕では、シンには物足りないと思うのだけど・・・無理にお願いするつもりはないよ。またシンと一緒にいられたらうれしいんだ。」
・・・お願いできるかい?と期待を込めて、シンの目を覗き見た。
「バゥフ!」
とシンは僕の上に飛び乗り、尻尾をブンブン振っている。
・・・本当の犬みたいだ。
使獣契約は、そんなに難しい事ではない。
だが、魔獣と契約を行うという事は、それなりに強い者となり、魔力も相手を従えるだけの量が必要だ。魔獣が相手に従うという事になるのだから力をみせ、認めさせる必要があるからだ。なので通常、魔獣より魔力が少ない者は使獣契約する事は出来ないのだ。そしてそれだけの魔力を持つ人間族はほんの一握りで、僕はラインハルト以外に見た者が居ないし、人間族には使獣契約をした者はいないと思う。
魔獣に知性があるとは、思ってないみたいだし・・・。
魔力の少ない人間族は、魔獣を従える際、従属の魔道具を使うらしい・・・。
使獣契約は、魔力の交換をした後、魔獣と互いの名前を明かす。一度使獣契約をおこなった事のある魔獣には名前があるが、基本名前はない。名前を付けて契約は成立する。
魔族の行う使獣契約は、友となる魔獣の契約だ。互いに切磋琢磨する存在とし、友として過ごす。
一方、人間族の使う従属の魔道具は、一方的に従わせるものだ。・・・元魔族としては、使いたくない道具の一つだ。
シルバームーンという名は、昔?魔族だった頃、僕が付けた名前だ。付け直す事も出来るだろうけど、どうだろうか??
『シルバーウルフのシルバームーンなんて、名前のセンスなさすぎだわ!』とシルクリース様に言われた事を思い出す。・・・シルクリース様を思い出すと、ズキッと体の中の何かが音を立てる・・・。
しかし今は、気持ちを切り替えなければ。
僕の今ある体内の魔力を循環させる。魔族の時と比べるとほんの僅かしかない。そんな状態で使獣契約を行う事は出来るのか・・・不安がよぎる。まずは言葉に魔力を乗せ、互いの名前を明かさねばならない。深く深呼吸をして気持ちを整える。
「ねぇ、名前はどうするシルバームーンのシンでよいのかな?」
ちょっと苦笑いをしてしまうのは、仕方がない。
「バゥフ!」と再び犬のように返事をしてくれたシンは、僕の目を覗き込み使獣契約を行うのを待っているかのようだった。
まずは、魔力交換を行う。僕とシンは、互いに静かに魔力を纏わせ始めた。
通常は、こんな簡単には行えない。魔力で相手を抑え、力を示さなければならないのだから・・・。
「こんな少ない魔力の僕が契約するのは申し訳ないけど・・・『我が名は、ルークス・ヘルヴォルト。シルバームーンと名を与えよう、我の友となる契約を・・・』」
魔族だった頃、シンに行った使獣契約の儀を再現するように、言葉を紡いだ。
「-----・・・」
魔力多すぎ・・・と心の叫びを残し、僕は本日2度目の失神をした。
シン・・・人間の僕にはその魔力は厳しかったです。
1度目に目を覚ました時に、何故か記憶を思い出した事で増えた魔力はなんとか出来ていたが、使獣契約をした事でまた魔力が増えていた。
現在、魔力暴走中です。僕の周りに風が吹き荒れている。小さな竜巻中心に僕がいる。小さな竜巻でも軽い物は飛ばされ、僕の周りをグルグルと、・・・本とか小さな陶器の置物とか僕に当たって地味に痛い。
当面は、魔力の扱いを訓練しなければならないなぁ・・・と今後の課題となった。
まだ、シルクリース様に会う為には魔力が足りないから増やさないとなぁ・・・。
初投稿の2話目ですが、こんなにドキドキするんです・・・。