15.真夜中の外出
気をつけてはいたが、時折ため息つき、視線をそらしてしまう挙動不審な僕。・・・そんな僕に、皆が気にしていてくれてるのが分かった。
父や母、兄様になんて言って話を始めれば良いのか・・・どう話せば良いのか・・・話をする事が出来ないでいた。
角兎が討伐され、皆が落ち着きを取り戻した夜。僕は、まず行動する事にした。
ただ時間が過ぎて行くもどかしさを感じ、僕は『深緑の森』に行く事にした。・・・どんな状況なのか・・・やはり自分で確認しておきたかった。
出来るだけ動き易い格好と、夜の闇に紛れ込めるよう黒の色に近い服を着て、短剣を腰に下げる。僕は、兄様のような長剣を持っていなかった。・・・心もとないが、訓練も始めたばかりだし、仕方が無い。
皆が寝静まった頃を見計らってテラスのある窓を開けると・・・兄様が居た。
「----・・・」
びっくりして、部屋の置くまで下がったが、凄い笑顔でテラスから兄様が腕を組みながら入ってきた。 頭の先から足先までじっくりを視線を動かして、口を開いた。
「---今から出かけるのか?散歩って格好じゃあ・・・ないな」
「・・・兄様も、これから就寝するって格好ではないですね?」
僕はそっと息を吐き、言葉を返した。---そんな兄様も、しっかりと腰に剣を下げている。
部屋から一歩も出ずに見つかるなんて思っても見なかった。・・・帰ってきた時に見つかっても、朝だから誤魔化して逃げればいいかなぁ・・・なんて甘い考えをしてた。こんな格好で逃げ場がない。何も言わない僕に、兄様が言った。
「何か言い訳はないのかい?・・・一応、聞くつもりはある。---ないなら、私から提案をするので選べ。
1.毎晩外出を見張るのはお互いにイヤだろう、ルーの部屋に私も寝ることにする。もちろん、ルーの寝台で一緒に寝よう。
2.今から行こうとしている場所に、私も付いていこう。ルーの隠し事の1つでも見れるだろうなぁ?楽しみだ。
3.---・・・勇者ラインハルト殿が来てから、ルークスの様子が変だというのは気付いていたよ。私は隣の部屋に居たのだから。父も母も私も、家の者達も、ルーの事を気に掛けてる。・・・何か悩んでいるのなら相談して欲しい。力の及ぶ限り協力する・・・そんなに頼りない兄なのかな、私は・・・」
少し寂しげな笑みを浮かべ、兄様は、どれを選ぶ?と僕に視線を投げかけた。
兄様は、3番目を選んで欲しいと考えてる。僕も話さなければならないのだ。・・・でも、僕には今ここで話す勇気が足りなかった。もし、兄様が信じてくれなかったら・・・そんな事は無いと頭で否定しつつも、この部屋での話をする事は避けたいと考えた。
兄様を信じているが、僕の弱い心がこの場で話すのを避けた。
「---では、2番にします」
「・・・わかった、では急ごう」
そう答え、僕に背を向けた兄様の表情がちょっと悲しげだった。
・・・そうだよ。---怖いんだ。兄様が僕をどんな目で見るのか。でも、悲しい顔をさせたい訳じゃない。
兄様は、僕を拒絶しないと信じてる・・・だけど僕の心が弱いから、家から逃げ出す様にはしたくなかった。
ヒラリとテラスに手を掛け先に下りた兄様は、下から僕を見上げ、どうやって降りるつもりなんだ・・・と待っている。
・・・仕方ない。予定通りにいくしかない。
僕は、足元に伏せているシンの上に乗り、首にしがみ付く。
「いいよ。お願い」
シンは僕がしっかり背中に乗った事を確認し、ゆっくりと立ち上がった。犬でも大型犬の様相をしているので、それなりの大きさがある。普通ならば、いくら大型犬でも小さな子供以外は乗らないものだ。
この大きさのシンに乗るのは、抵抗があるがこっそりと出掛けるのでこの方法をとる事にしたのだ。
僕を背中に乗せたシンが、テラスを乗り越え、なんて事はないと、スタッと降り立った。
「---!なっ・・・」
下に居た兄様は、もの凄く驚いてた。いくら僕よりも大きいからって、犬が子供を乗せて2階から飛び降りてきたんだから。僕は、驚いて固まった兄様にシーッと指を立てて、声を上げないようにお願いした。
「置いてきますよ?」
僕はそのままシンに乗ったまま、森を目指す事にした。さすがにシンに乗って行くとは思っていなかったみたいで、目を丸くしてた。いつも僕を引っ張って行く兄が、夢を見ているのか・・・と目を見開いていたのは、少しおかしかった。
兄様は、夜中抜け出そうとしている僕の様子に気付いて、馬を用意していた。
・・・馬で追いかけられたら、僕だって気付くよ。その前にシンが気付く。
「気晴らしに、夜の散歩に連れて行ってやろうと思っていた。敷地を出たら、こっそり付いてくなんて無理だろう」
と兄様は苦笑いをして言った。
「・・・確かに、こっそりは無理ですね」
ここから『深緑の森』までは、見晴らしのいい草原地帯なのだから。見つからないなんて無理だ。
兄様の心使いに感謝しながら、あの時兄様の提案を受け入れなかった自分を恥じた。
・・・どう話せば、いいのかな。




