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13.夜明けに出歩く者

 早朝、あたりが明るくなり始める頃、月が空から姿を隠したの確認すると、一人の男が家を出る。

 頭には帽子をしっかりと被り、冒険者の装いだ。

 冒険者を装うのは、『深緑の森』に入るのを誰かに見られたとしても、冒険者組合の依頼を達成する為に森に入ると思わせる為だ。


 男は、誰にも声を掛けられる事もなく、森に入り思わず息を深く吐いた。自分では意識していなかったが、周囲を気にしすぎていたらしい、と苦笑いを浮かべる。


 いつもはこの時期にではなく、もっと雪深い季節、人々が家の中で過ごす時間が長い季節に、こっそりと森に入るのだ。


 この『深緑の森』に入りさえすれば、後はひたすら走り抜ける。

 途中、普通の冒険者ならば、今回の獲物として見つけた動物達を捕まえるのだろうが、男はただひたすら走る。


 森の半ばに差し掛かった頃、男は、大きく息を吸い、大きく体を捻り全身を動かした。そしゆっくりと、顔を上げた男の纏う雰囲気が変わり、男を大きくみせる。


「あ〜すっきりした。じゃあ、急ぐか」


 と、独り言を言って再び走り出す。足取りが幾分軽やかになっていた。



 この森『深緑の森』は奥に進むにつれ、魔獣が出やすくなり、強さを増す。そんな事は関係ないとばかりに、魔獣が飛びかかってくるとヒラリと交わし走り抜ける。




 太陽がしっかりと姿を現した頃、男は大きな泉に着いた。男が目指す場所の丁度真ん中にある『光の泉』だ。

 この場所は、どんな魔獣も襲って来ないので、一息つくには丁度良い。


「おはよう、久しぶりね」


 と、腰を下ろし足を泉につけている男の後ろから声がした。

 男が振り返ると、スラリと手足が伸びた髪の長い少女がいた。

 少女の髪は、晴れた日の真っ青な空の色をしていて、濃い紫色の瞳がとても印象的だ。


 彼女をもっとも印象付けてるのが、服装で、膝丈の水色のドレスとブーツ、それに胸と肩、それと腕に付けられた銀色の防具と腰にぶら下がる剣だ。


「おはようございます。お会いしたのは雪が積もっていた時期でしたので4ヶ月程前でしたでしようか」

 と軽く挨拶をした後、辺りを見渡し眉を寄せた。


「お一人ですか?誰か護衛をつけてくる様言われていたはずでは?」


「そんな心配いらないわ。私は強くなったんだから・・・」

 と、胸の前でギュッと首飾りを握りしめた。

 それは、いつも少女が身につけている花の形をした魔石。

 少女から、哀しげだが少し笑顔が戻り始めた頃、幼なじみの男の子が作っていてくれた婚約の魔石だと・・・涙を堪えた笑みを浮かべ話してくれた。

 直接受け取る事は出来なかったが、私のとても大切な宝物なのだと、言っていたが・・・この魔石に何か誓いを込めているようだった。



 いつもの事だが、はぁ、仕方ない・・・とため息をつく。


「もう少し休憩をしてから城に向かうので、それまでですよ」

 と少女に告げると、無言でコクリと頷き剣を振り始めた。


 男がこの泉で始めてあった時は、小さな女の子でポロポロと、涙を流していた。

 心配した男が『魔素の森』を抜け森に一番近い警邏隊に連れて行くと、兵士達が安堵の表情を浮かべていた。

 あの場所で泣く程の悲しみはなんだと、男が聞くと、「大切な幼なじみがあの場所で人間に殺されたんだ」と言わた。


 そんな筈はない!と男は思ったが、数ヶ月前人間の街であった騒ぎを思い出す。

『魔族の討伐され、勇者となる者が城に呼ばれた』と言うものだった。

 まさか・・・と思ったがやはり女の子の幼なじみの事だった。

 男は、急いで今来た道を戻り人間達の住む街に入り、魔族討伐の証である髪を探し回った。時間はかかったが、あれこれ手を尽くし金を使い、何とか手に入れる事が出来た・・・出会いから半年掛かった。

 もう、私の事など忘れてしまっているだろうと思いながらも、警邏隊に女の子の居場所を聞きに行くと城に連れて行かれた。


 生涯会う事の無い方々に多大なる感謝を受け、涙を流しながら礼を言われた。


 こうして故郷に帰る時は、この泉で休憩をとるのだが、それからというもの少女に朝も早くから出くわすのだ。


 少女は、「朝早くじゃないと城を抜け出しにくいのよね~」と言うが、一人この場所で幼なじみの思い出に浸りながら、同じ悲しみが起こらない様に剣の腕を磨いているのを男は知っていた。





「そろそろ戻るわ。お父様にご用事かしら?」



 そう男は、予定外の帰郷には理由があった。先日店に持ち込まれた魔石とシルバーウルフを連れた子供の話をしに、魔族の城を目指していた。



「いや、ちょっとばかり不思議な事がありまして。さほど気にする事ではないと思うのですが、ご報告に」


 少女は、口元に弧を描き目を細めた。

「そうなの?悪い知らせじゃないなら安心したわ」


 少女とは知り合って10年、会うのは年2回・多くて3回程か。

 この泉で出会う事の多い少女は、『光の泉』の精霊と思える程の美しく成長していた。


 だが、男が知ってる微笑みは、いつもどこか哀しげで、心からの笑顔を知らない。


 この泉の暖かな輝きが、少し弱く感じるのは共に居る少女の淋しげな笑顔の所為なのかと思っていた。

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