月の住民の一日
宇宙エレベーターが出来て、早10年。
そして、俺が宇宙に来て、早5年となる。
今は月に在住している。
月は地球の6分の1の重力であるので、最初は戸惑ったが、5年ともなると慣れてしまった。
「さぁて、今日も一日がんばりますか」
俺の一日は、野菜工場の様子を見ることから始まる。
というのも、月でも随一、というか唯一の巨大野菜工場に勤務しているのだ。
この野菜工場の運転が滞れば、月の人間が絶滅すると言っても過言ではないだろう。
それをコンピューターで1人で制御している。
そう、俺はこの工場を1人で切り盛りしているのだ。
「おはよーございます」
なので、朝の朝礼も1人っきり。
まぁ、朝と言っても地球時間でのことで、この野菜工場は月の北極にあるため、ほとんどずっと日が昇っているのだが。
一応、5年前まで地球に住んでいた事もあり、これだけは慣習となっていて体から抜けないのだ。
それから、野菜の納品を済ませて、新しい野菜の種をまき、肥料や水を数時間ごとに投入する――――なんてプログラムを作って、仕事は完了となる。
といっても、前日のプログラムを少し改変させるだけなので、30分もかからず終了してしまう。
その後は夕方まで、想定外のことが起こらない限り、パソコンでネットサーフィンをして過ごす。
宇宙でもネット回線はつながっていて、地球のサイトを見る事が出来るのだ。
ネット回線が月にも繋がってるのは、地球と月の間を宇宙エレベーターと衛星で繋いでいるかららしい。
つくづく、宇宙エレベーター様様と言えよう。
「つっても、暇である事に変わりはないがな」
誰にも聞いてもらえないと知りつつも、ぼそっと呟く。
元来、独り言ってのはそういうもんだと思う。
一昔前、独り言を呟くだけのものが流行ったりしたが、あれは独り言とは言わないだろう。
ただ、フォロワーとおしゃべりをしたいだけなんだ。
ただ、人肌恋しいだけなんだ。
「まぁ、こういう時はチャットをするに限るな」
そうして、人肌恋しい俺はパソコンに向き合うのだ。