将棋部
「よおよお、荻原さんよお。一年のガキが大会に出るんだってえ?そりゃ大変だね。」
地獄の百局対局が終わり、落ち着いてきたと思ったら、厄介なところに伏兵がいた。荻原部長の前に立っているのは、将棋部部長の益田さんである。チェス部、特に荻原部長を目の敵にしている、益田さんは、ことあるごとに絡んできては実績がほとんどない我々をいびってくる。
「一体何が大変なんだ。後輩の成長は喜ばしいことだ。」
「そーだそーだメロンソーダー。」
「やっちまえ、健!」
清水先輩のふざけているのか応援しているのかわからない声と、中西先輩のまともな声援が先輩に向かって送られる。
「いやあ、君たちみたいな弱小ボードゲーム部に、やる気のある一年が入ってきたって噂だから、大会で入賞でもしたら先輩としてのプライドが揺らいじゃうんじゃないかなって。」
「俺たちはボードゲーム部でもないし弱小でもない。逆にそっちはどうなん」
「僕たちを舐めてもらっちゃ困るね。僕率いる将棋部は都内有数の強豪だ。僕は関東大会優勝の実力者だし、一年の下僕・・・後輩たちだって才能ある奴らばかりだ。特に一年の秀悟はすごいよ。数々の大会を総なめしてきた天才だ。」
この人サラッと後輩のこと下僕って言わなかったか?
「まあ、この大会で優勝でもしたら見直してやらんくもないけど?」
「ああ、望むところだ!俺たちの後輩がきっとチェス部の実力を証明してくれる!」
正気ですかあ?そんな勝負に巻き込まれるのはごめんだ!もし優勝できなかったらいびられるの僕らの方なんだぞ!
「そっか、せいぜい頑張りな、ま、無理だと思うけど。」
益田さんは身を翻し、将棋部の縄張りに帰っていく。
「やっちまった、、、。」
益田さんが立ち去ってから部長が崩れ落ちる。中西先輩が慌てて支えた。
「もう、君は懲りないねえ。この人、君たちが入部する前も同じことやらかしたの。その度に総大将がプレッシャーでやられちゃうから、結果は散々なんだよね。漫画なら奇跡の大逆転してるところだけど、これは現実世界ですからね。」
清水先輩が放心状態の荻原部長の頬をつねる。
「健、前回までは俺らがいびられるだけで済んだけど、今回は後輩任せじゃないか。この子たちが益田に潰されたらどうするんだよ。それこそ先輩としてのプライドどころじゃないぞ。」
素晴らしき常識人である中西先輩が部長を諭す。
「皆、ごめんねー。会議が長引いてしまって、、、え?」
教室に入ってきた武田先生は、正座させられている部長を見て固まる。
「あっ武丸ー。今ねー。」
「ちょっと待ちなさい清水さん、何度も言ってるでしょう。私は武丸ではなく、た・け・だ・せ・ん・せ・い。」
「えーいいでしょ。同一人物なんですから。」
武田先生からため息が漏れる。相棒が裏で使っている武丸というあだ名の出所は清水先輩だったのか。もっとも相棒はこんな表立って言える勇気はないだろうが。この部活内で先生を呆れさせ、放牧されている唯一の人、それが清水先輩だ。
「で、何を言おうとしてたの?」
「それはですね、、、。」
清水先輩がかくかくしかじか事情を説明する。
「なんだ、そんなことなら勝てばいいだけじゃないか。」
先生の反応は意外なものだった。
「大会まであと一ヶ月ある。それまでに君たちと僕で一年生をしごいて、優勝できるようにすればいいだけだよ。もちろん、無駄に喧嘩を買ったことは感心しないけど。」
「よかったじゃん、健。」
よくないよ。部長を励ました川西先輩に心の中で悪態をつく。
「さて、そうと決まったら練習あるのみ。今日は先輩達3人で一年生を個別指導していこう。僕は全体を見ながら時々アドバイスするから。」
「頑張るぞー。」
「おー。」
僕たちの掛け声は夕方の校舎に溶けていった。
その日の夜、街灯に照らされた住宅街の道を、益田諭と大泉瑠偉が歩いていた。
「いいんですか、部長。そんな喧嘩売っちゃって。漫画のベタベタな展開そのものですよ。荻原も何度も同じ失敗を繰り返してますけどその度に順位は良くなってきてました。ましてや今回大会に出場するのは傾向が分からない一年生です。特にあいつは、、、。」
「いや、僕たちが賭けに負けることは絶対にない。」
「どういうことですか。まさか不正行為でも、、、。あいつらに部長がそこまでする価値はないですよ。」
「いや、僕がこれからやることは不正行為でもなんでもない。それに僕はね、チェス部と、荻原をなんとしても叩き潰したいんだよ。」
「お言葉ですが、なぜそんなに荻原さんを目の敵にするんですか。部の活動場所を一部取られたくらいで。もしかして部長は個人的な恨みを晴らすために、僕たちを利用しようとしているのではないですか。」
諭が鋭い眼光で瑠偉を睨む。彼の威圧に瑠偉は肩を震わせた。
「なあ、秀悟は、チェスもやっていたよね。」
つぶやいた諭にもう威圧感はなかったが、何か不審な雰囲気を纏っていた。いったい秀悟となんの関係があるのだろう。
「はい、かなり強いはずですよ。」
「そうか。」
諭が不敵な笑みを浮かべていたことに、瑠偉は気づかなかった。
こちらの作品は今回で終わりになります。この作品を元にした新しい作品を一週間以内に連載予定ですので、お待ちください。
2025.1.7




