レーティング
「一年ズのみんなお疲れ様ぁー。どお?チェス強くなった?」
テンションの高い清水先輩が話しかけてきてくれた。机に突っ伏した悠は、返事をしなければとは思うのだが、したいとも思うのだけど、貯めに貯めた疲労がどっときて口を開く気力がない。頼んだぞ、相棒。返事しといてくれ。同じく机に突っ伏している相棒に希望を託す。もしくは日向さん、返事をしてくれ。まだ来てないけど。今すぐ来て、返事をしてくれ。
「反応がありませんねえ。こう言う時は、、、っと。
あっ先生だ!」
ガバっ。悠と相棒はピッタリ同じタイミングで上体を起こした。
「チェス部員にはこれが一番聞くんだよねー。荻原君と西園寺君も同じ反応してたよー。」
「すいません、清水先輩。俺は悠に話しかけてるとばっかり、、、。聞こえてたんですよ。」
「はあ?『一年ズ』って言ってたでしょ?僕は丈ちゃんが答えてくれるかなって思ったの!」
「もう、二人とも責任転嫁は良くないぞ。先輩への返事はちゃんとしないとねえー。で、チェス強くなった?レーティングどのくらい?」
「1800くらい、、です。」
「僕1850です!よし、丈ちゃんに勝った。」
「俺は切り捨てしたの!ほんとはもっと高いから!」
「はあーん。じゃあスマホ見せろよ。端数まで見せろ。」
「そうだぞ吉野くーん。ほんとはもっと高いんでしょー?」
「くっ、、、」
相棒が渋々見せた画面には1780とあった。
「ぶふっ、、、」
「あっははは!」
「仕方ないだろ、四捨五入だよ!」
「さっき切り捨てって言ってたじゃん。」
「お疲れ、吉野君。」
清水先輩が相棒の肩をポンっと叩く。悠もそれに倣った。
「それでもすごいじゃん、レーティング1780だって十分強いよ。もっとすごいのはチェス始めて四ヶ月の永澤君だけど。」
「僕はもともと将棋やってたので。」
「そっか、それでか。」
将棋とチェスで駒の細かい動きは違うが、戦術には共通するものが多い。将棋をやめてチェスにすぐ切り替えたのも、丈ちゃんに誘われたからと言うのもあるが、二つが似ていると聞いていたからだ。
「そういえば吉野君はチェス経験者なんだよね。今までchess.com使ったことなかったの?」
「俺中学上がるまでスマホ持ってなかったんで。」
「そゆことね。」
その後の部活はみんなでワイワイ序盤の定石について語りあって終わった。帰ろうとすると、武田先生に呼び止められた。
「一年のみんなちょっと残ってくれないかな。」
先輩達が帰ったあと、悠と丈、日向さんが武田先生の前に並ぶ。
「さて、ちゃんと宿題をしているかと、君たちの現時点でのレーティングを確認したい。」
先生は相棒をチラッと見た後、悠達にスマホを出すよう指示した。
「吉野君のレーティングは1780、永澤君は1850、日向さんは1750、ね。吉野君は諸般の事情により実際のレーティングはもう少し高いだろうね。」
相棒がビクッと肩を振るわせる。
「なんにせよ、みんな百局をよく終わらせたね。ここからは大会の案内になるよ。君たちが今度っ挑戦する予定のレベルアップチェス大会だけど、レーティングによってクラスが分かれてるみたいなんだ。君たちはまだレーティングがないから要項を確認してみたけど、吉野君と永澤君はクラスA、日向さんはクラスBでの参加がいいと思う。じゃ、お疲れさま、帰っていいよ。」
3人が帰ろうとすると、武田先生が相棒の肩を後ろからガシッと掴んだ。
「君は居残りだよ。」
御愁傷様。先に帰ろう。
「待って悠、置いていくなーーー!」
自業自得だろう。1時間目も説教されてたけど、まだまだ反省し切ってなかったみたいだし。先生、相棒を真っ当にしてください。無慈悲にも悠は相棒の想い人、日向さんと一緒に帰ったのだった。相棒が何かやったのか日向さんに聞かれたが、流石に可哀想なので黙ってあげた。その上相棒をさりげなく褒めるというファインプレーまでしたのだ。なんて、優しいのだろうとほくそ笑む。翌朝、げっそりとした相棒が言うには、武田先生と一局交えたらしい。先生と相棒が戦えば、相棒が速攻で負けるのは目に見えていたが、「そんなズルを考える脳の容量があるならもっとチェスの研究をすればいいのに。」「そんなんだからチェスを始めて四ヶ月の永澤君に負けるんだよ。」などなど、いびり倒されながら生かさず殺さず駒でじわじわ苦しめられたらしい。流石に可哀想になってきたが、これでもう何かズルをすることはないだろう。相棒の成長が多少嬉しくもある悠であった。




