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悠の憂鬱

チェス部に所属する中学生たちの学園ものです。

たくさんの方に見ていただきたいです。

より良いものにしたいので、アドバイス等お待ちしています(優しめにお願いします!)

NOVEL DAYSさんでaseroraappleとして重複連載しております。


 「将棋部、人多いからって調子のんなよなー。俺らの縄張りにはみ出てるじゃねえか。」

 放課後の多目的室に相棒の声が響き渡った。将棋部に聞こえただろうか。悠は焦る。しかし、みな次の手を考えていて聞こえないのか、言い返すまでもないと思われているのか、将棋部から言葉が返ってくることはなかった。

「ダメだよ丈ちゃん、うちの縄張りって言ったって元は将棋部のものだったのを分けてもらっただけなんだから。」

 部長がこっちにくる、何か言われるだろうか。

「そうだぞ、吉野。反撃の時は今じゃない。た、耐えるんだ、、、!」

 あーそっちもですかー。よっぽど将棋部が嫌いなのだろう。萩原部長も激情をなんとか抑えようとして変な顔になっている。チェス部の部長である荻原部長と将棋部の部長の益田さんは犬猿の仲である。あとからできたチェス部に活動場所の一部を奪われた益田さん達の将棋部は、こちらに何かと嫌がらせしてくるのだ。

「はい、そういうことだから。丈ちゃん、そっちの手番だよ、早く指してよ。」

「うう、、、降参。」

 丈が自分のキングを倒す。

「これで五連敗じゃないか、吉野。」

「なんで負けんのかなー。入部した時は俺の方が強かったのに。」

 机に突っ伏した丈は力なく言う。

「十六手目の時に丈ちゃん、Bf4って指したでしょ。でも俺がNc2ってするのを防がなきゃいけなかったんだよ。」

「吉野君は攻めるのは得意だけど、相手に隙を見せてしまう時があるね。」

 声の主は先ほど入ってきた一人の青年だった。生徒というには老けているが、先生というには若すぎる見た目をしていた。

「先生!」

「やあ、みんな。遅れてごめんね。実は、みんなにおすすめの大会を見つけたんだ。暇がある人はチャレンジしてみてもらえるかな。特に中一の永澤君と吉野君、日向さん。君たちにとっては初めての大会になるから、必ず参加するように。」

 大会か、、、。思うところがあり幼稚園の頃からやっていた将棋を辞めたあと、チェスに転向してから早三ヶ月。もちろん相棒の丈や先輩にも時々勝てるようにはなってきたので自分でも視野には入れていたが、人から言われると実力を認められたみたいで嬉しくなる。

「これだよ。レベルアップチェス大会。場所は品川区。」

「そこなら行ったことあります。」

「そうか、吉野君は経験者だからね。」

「ここでの大会ではレーティングによって区分が違うから自分に合ったリーグを選んで参加するように。」

「レーティング?」

 チェス部一年生の中では紅一点の日向さんが清水先輩に聞く。

「レーティングっていうのはいわゆるチェスの強さを表す数値のこと。正式な今まで自分が参加した大会での対局をもとに計算されるの。でもネットとかアプリとかで簡易的なレーティングは計測できるから試してみて。」

「さすが清水さん。僕が一年生諸君に言いたかったのもまさにそのことなんだよ。今までは部員同士や周りの人としか対戦してこなかったけど、これからはあるサイトを使って世界中の人と対局してほしい。」

「おぉ!」

「もったいぶらないで教えてくださいよ先生。」

「いいだろう。その名もchess.comだ!」

「さあさ、早く開いてみて。」

 清水先輩が悠達にリンクを教えてくれた。ユーザー登録を済ませると出てきたのは「オンライン対戦」「ボット対戦」など、数々のボタンだった。

「ありがとうございます、清水先輩。」

「君たちZ世代なんだから文明の利器バンバン使ってくべきだよー。」

「清水もZ世代じゃないか。」

 冷静に荻原先輩が突っ込む。

「清水さんはchess.comをフル活用して強くなった人の一人だよね。」

「えへへ、照れるなー。荻原君、これからもどんどん強くなって君にも勝てるようになるから、用心するんだよ。」

「油断ならないな。」

「さて、今日はこのくらいでお開きにしようか。君たちは次回の部活までに各自chess.comで最低でも100人と対局すること。」

「ひゃく!?」

 この声が自分から発せられたことに悠は数秒経ってから気づいた。

「そうですよ先生、次回の部活って明後日ですよね。それまでに100人と戦うなんて、、、。」

 そうだもっと言ってやれ相棒。

「いや、無理だね。今は君たちの正確な実力を推し量る必要がある。できなかった人は将棋部のテリトリーも放課後掃除してもらうことにしようかな。」

「ヒィ、、、!」

 丈が思わず声を出した。あのイビリ好きの益田将棋部長とその取り巻きに見られながらの掃除なんてたまったもんじゃない。チェス部顧問、武田先生は皆が嫌がることもしっかり把握しているのだ。

「「わかりました、、、」」

 悠と丈は二人で肩を落とす。

「頑張ってねー。」

「サボるなよ。」

「荻原、清水、ラーメン食いに行こうぜ。」

 先輩達が次々教室から出ていってしまう。

「3人とも、そう気を落とさないで。案外楽しいものだよ。」

 先生が軽やかに出ていく。

「イケメンキャラの癖に性格は全然イケメンじゃないな。」

「同感。」

「日向さんも大変じゃない?」

 丈が日向裕香さんに話題を振る。

「そうだね、確かに大変だけど、チェスをするのは楽しいし、きっと上達するはずだし。やってみようかな。」

「日向さんが言うならそうだよね!」

 わかりやすく態度を変えたな、相棒。丈は入学式で日向さんに一目惚れして以来日向さんにくびったけなのだ。

「じゃあね、吉野君、永澤君。」

 僕と丈は二人っきりになった。

「あー今日も可愛かったな日向さん。」

「好きだねえ。宿題やるの忘れるなよ。」

「そうだった!武丸許さねえー。じゃあな、相棒。」

 武丸って誰のあだ名だろうと思ったら武田先生のことだと思い至った。百本ノックならぬ百局対戦か、、、。

「さてと、帰るか。」

 百局対局するとなるとそもそも時間が足りなくなる。道中の電車の中でも対局する必要があるだろう。いつなら時間を割けるかなと考えながら荷物をまとめ、教室を出た。

 アマチュアチェスプレイヤー、永澤悠。彼の物語はチェスに青春を賭ける少年少女達の記録である。

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