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第7話 地獄のフルコース

 無事に《箱庭》計画が正式に始動したことで、本格的に島の探索と開発を進めることができるようになった。まずは、この島の全体図が必要となってくるが、それはこれからゆっくりと探索を行っていけばいい。

 さしあたり、フィオナやイソラと《箱庭》の建設計画について話し合うことにした。


 「フィオナ、これから《箱庭》を作っていくにあたり、相談したいことがあるんだ。よかったら、僕が今考えていることに対してアドバイスが欲しいんだ。」

 「構わない。聞かせてみてくれ。」

 「えっと、僕の考えとしては、島を様々な区画に分けるんだ。例えば、この入り江なら『深海湾岸区』みたいな形で。そうして、外から新しく魔物娘を迎え入れる場合は、それぞれに適した環境の区画に招待したいと思ってる。どうかな。」

 「ふむ、考え方としてはいいんじゃないかな。ただ、それだけ多種多様な環境がこの島にあるかというのは問題になってくる。」

 「そうなんだよね…。僕がイソラに相談したいって言ってたのはこのことなんだけど、どうかな。」

 「実は私も、ちょうどそのことについて話したかったの。」


 イソラは入り江の東を指さした。そこには、火口から煙を上げる活火山がそびえていた。


 「実は、最近あの活火山の内部温度がこれまでに比べてだいぶ上昇していて、もしよかったらその原因も調査してもらいたいの。」

 「なるほど…でも火山の調査か…。だいぶ骨が折れそうだね。」

 「火山?それなら私たちに任せてよ!」


 どこからか話を聞きつけたゼビリアがひょっこり生えてきた。


 「ゼビリア!火山の探索のお願いできるの?」

 「うん、私たち悪魔にとって火山のような灼熱の環境は故郷も同然だからね。全然苦じゃないと思うよ。」

 「そう?そう言ってもらえるならばお願いしようかな。」

 「でも!対価は支払ってもらわないと。」


 ゼビリアはにやりと笑って手を差し出してきた。


 「対価、か。うーん、僕は今何か払えそうなものは持ってないんだよね…。価値のありそうな魔鉱石はアウリスの皮を買うときにあの悪徳店主に渡しちゃったしなぁ。」

 「いやいや、別に対価はものじゃなくてもいい。今回は、そうだねぇ…ソフィアの時間をもらおうかな。」

 「え?僕の時間?…つまり、何かお手伝いをすればいいのかな。」

 「お、話が速くて助かるよ。そうそう、実はこの島に来るときに部下と来たんだけど、その二人とはぐれてしまって…二人ともこの島に来ているはずだから、探すのを手伝ってほしいんだ。」

 「それぐらいなら、全然するよ。」

 「ありがとう!じゃあ、契約成立だね。」


 ゼビリアの差し出した手を握ろうとしたとき、背後から鋭い声が飛んできた。


 「ちょっと待ちなさい。」


 振り返ると、そこにはリヴィエルが立っていた。


 「ゼビリア。話してる部下ってフリッタとブランメラのこと?それともケリュネ?」

 「フリッタとブランメラだよ。二人がいないとおいしい料理が食べられないからね。」

 「ケリュネは?」

 「彼女は…まぁいずれ呼び出すよ。今は洞窟にこもってるよ。」


 フリッタ、ブランメラ、そしてケリュネ。初めて聞く名前だけど、恐らく全員魔物娘なのだろう。


 「その二人なんだったら、私がフリッタを探しに行くわよ。彼女なら、私でも呼びかけに応えてくれるでしょう。」

 「そうだね、じゃあ、私がブランメラを探しに行くよ。」

 「頼むわ。ブランメラはあなたの言うこと以外聞くことがほとんどないんだもの。」

 「オッケー!そしたら、探しに行こうか。」

 「探しに行くって言っても何か当てがあるの?」

 「いや?何もないけど、まぁ会えるでしょ。」


 さすがにあてずっぽうで探すのは無理があるだろう…何かいい案はないかな…


 「あ、そうだ。アビッサに昨日の海流の様子とか、何か漂流物がないか聞いてみようよ。そうすれば、ある程度目星が付くかも。」

 「いいねぇ!採用で!」


 その後、アビッサに昨日の潮流の様子と漂流物について聞いてみた。海流は島の西側を通って北に向けて流れていたようだ。また、漂流物に関しては特に何もなかったらしい。


 「じゃあ、西側の海岸を北に向かって探してみようよ。」

 「魔物娘探しか?じゃあ、これをやろう。」

 「フィオナ!これは?」


 フィオナから渡されたのはペンダントのようなものだった。先端には、淡い輝きを放つ魔鉱石がつけられていた。


 「このペンダントは魔物娘の魔力を感知することができる。そうして、その方向を指し示してくれる、いわゆる探索ガジェット的なものだ。」

 「へぇ、この前の通信機と同じ原理ってこと?」

 「まぁ、そんなところだ。ほら、持っていくといい。」

 「ありがとう。早速つけさせてもらうよ。」


 フィオナからもらったペンダントを身に付け、ゼビリアに連れられて村を出発した。

 今回の探索はこれまでは足を踏み入れたことのない島の西側なので、少しドキドキしている。


 「ねぇ、ゼビリア。今日探しているあなたの部下ってどんな人たち?フリッタとブランメラだっけ。」

 「そうそう、よく覚えてたね。フリッタはウコバク娘で元気いっぱいのお祭り娘かな。揚げ物が上手でね、あの唐揚げのサクッとした衣とかは唯一無二だね。」

 「へぇ、おいしそうだね。」

 「うん、絶品だよ。彼女の捜索はリヴィエルがやってくれてるよ。それで、私たちが探すのがブランメラ。彼女はニスロク娘で私のキッチンでの総料理長なんだけど…少し気難しくてね。実際にリヴィエルが言う通り私以外の言うことはあまり聞かないかも…。」

 「地獄のレストランのトップシェフってこと?すごいじゃん。気難しいっていうのは、プロ意識がすごいってこと?」

 「そう、まぁ、よく言えばそうだね。もう少し厳しい言い方をするとプライドが高いって感じかな。」

 「でも、自分の作る料理に誇りを持ってるってことだよね。いいことじゃん。」

 「へへ…そう?うん、自分の部下をそう言ってもらえるなんて嬉しいな。」

 「ブランメラはどんな格好をしてるの?」

 「そうだね。一緒に来たときは白いコック服を着てたよ。それにコック帽も被ってたかな。それと、いろいろと調理器具も持ってきてたかな。彼女のお気に入りの道具たちがあってね。それを入れるトランクを持ってきてたよ。」

 「ということは…白っぽい服装の魔物娘を探したらいいの?」

 「そうだね。そうすれば、たぶん出会えると思う。」


 そうこう話しているうちにいつの間にか西側の海岸に出ていた。長い砂浜が広がっており、ヤシの木も点在している。穏やかなビーチだ。


 「この島にこんなところがあるんだね。ここなら、万が一漂着していてもどうにかなりそうかも。」

 「そうだね。…ん?」


 ソフィアの胸元のペンダントがかすかに揺れている。


 「これって…もしかして。」

 「うん、そうだね。近くに魔物娘がいるのかも。もしかしたら、ブランメラかもね。」

 「うん、そうだね…。おーい、ブランメラ、聞こえる?」

 「ブランメラー!ゼビリアだよー!おーい、どこにいるのー?」


 ペンダントの指し示す方向を頼りに進むと、いつの間にか浜辺に隣接する森に入り込んでいた。足元には灌木や倒木があり、足場があまりよくない。うっそうとした林の中を進んでいく。


 「ゼビリア、ブランメラがこんなところに入ってくると思える?」

 「うーん、彼女は料理人として清潔には人一倍気を遣うからね。自分から進んでこういうところに入ってくるとは…。可能性としては、何か食材を見つけたか、それとも…。」


 ゼビリアがそう言いかけた時、彼女の脚が黒い何かを踏みつけた。それは黒い玉虫色をしており、タールのようにべたべたしていた。


 「うへぇ…めんどくさいものを踏んじゃった。べたべたする…。」

 「うわぁ、何これ?…ん?なんか足跡みたいなのない?」


 ソフィアが指さす先には、誰かの足跡が黒く点々と続いていた。


 「あ、この靴跡、ブランメラのやつだ。」

 「そうなの?じゃあ、追いかければ見つけられるかも。」

 「おーい、ブランメラ。迎えに来たよー!」


 どんどん森の奥へ進んでいく足跡。これをたどっていくと、急に開けた場所に出た。そこには、コック服に身を包んだ黒髪の魔物娘がたたずんでいた。…手には立派なナイフを握っているけど。


 「あ、ブランメラ、探したよぉ。遅くなってごめんねー。」

 「…っ、ゼビリア様。…それと、そちらの人間は?」

 「あ、僕はソフィア・ノヴァといいます。ゼビリアと一緒にあなたを…」

 「『ゼビリア』!?あなた、今ゼビリア様を呼び捨てしましたね。不敬です!」


 突然激高したブランメラはそのワシのような羽根を大きく広げてソフィアめがけて突進してきた。

 …完全にあの目は仕留めに来てる目だ。捕食者の目だよ。完全に僕を射止めてる。え?僕、もう2回目の死の危険を迎える感じ?早くない?ついこの前も同じような状況になったよね。


 「こーら、ブランメラ。落ち着きなさいな。」


 ゼビリアが指を鳴らすと、どこからともなく大量のハエが現れ、ブランメラの視界を遮った。おかげでブランメラは減速したが、ナイフの切っ先が僕ののどに刺さりかけている…。 え、ブランメラ怖い。迎え入れたとしてもいつ背後から刺されるかわかったものじゃないな。

ゼビリアは笑っているが、僕にとってはかなり死活問題なんだけど…。


 「…っ、ゼビリア様!これやめてくださいっていつも申し上げてますよね!」

 「はいはい、ブランメラがナイフをしまってくれたら解除するよ。」


 そう言われたブランメラは、なんとかナイフを片付けてくれた。すると、彼女の顔を覆っていたハエたちが霧散して、その顔が見えてきtうーわ、すっごい怒ってる。


 「…改めてお聞きしましょう。あなたは何者なのですか?」

 「えっと、僕はソフィア・ノヴァ。この島で魔物娘たちが安心して暮らせる《箱庭》っていう空間を作りたいんだ。」

 「なるほど?それで、なんであなたのような礼儀をわきまえない人がゼビリア様といるんですか?」

 「それはね、私がソフィアにお願いしたの。はぐれてしまったフリッタとブランメラを探してほしいって。」

 「なるほど、さすがゼビリア様です。はぐれてしまってもすぐに私たちを探しに来てくださるなんて。」

 「まぁね。ブランメラの料理は世界一だからね。あなたがいないと満足できないの。」

 「ゼビリア様…。」


 なんだかうまいことゼビリアがブランメラを言いくるめているようだ。顎クイとかしてるし。もうブランメラの目に攻撃的な輝きは見えない。


 「ねぇ、ブランメラ。ソフィアは私の大事な友人なの。仲良くしてくれる?」

 「はい、ゼビリア様がそうおっしゃるなら。」


 ブランメラはさっきまでとは打って変わったかのような返事をした後、こっちに向き直った。


 「ソフィア様、先ほどはとんだご無礼をいたしました。申し訳ありません。改めて、ゼビリア様の下で総料理長を務めている、ニスロク娘のブランメラと言います。以後、お見知りおきを。」

 「改めてよろしく、ブランメラ。あと、僕のことはソフィアでいいし、敬語は使わないで。」

 「…そうですか。では、ソフィア。改めてよろしくね。(声を落として)…あなたがゼビリア様のご友人でなければ、今頃食卓に並んでたわよ。」

 「…はは、冗談がうまいね。」

 「…ごめんなさい。実はイライラしてて、そのタイミングであなたが現れたから、完全に爆発してしまったの。」

 「うん、ブランメラは普段はこうじゃないから、私としてもどうしたんだろうと思ってたんだよね。何があったの?」

 「実は、先ほど黒い玉虫色のスライムのようなものが私の料理道具の入ったトランクを持ち去ろうとしていて、急いで追いかけたんですけど見失ってしまったんです。最悪なのはここからで、あのスライム、タールみたいにべとべとしていたんです。何度も何度も拭いてもなかなかその粘着質が取れなくて。」

 「あぁ…確かにそれは許せないかもね。ゼビリアから聞いたよ。ブランメラは自分の道具をとても丁寧に扱っていて、『調理』そのものにも誇りを持っているって。」

 「ふぅん、ゼビリア様がそのようなことを…。」


 そういうと、ブランメラは改めて手を差し出してきた。


 「ゼビリア様がそこまで私のことをお話しすることはほとんどないわ。それだけ、あなたのことを認めているのでしょうね。ならば、私もその判断に従うだけよ。改めてよろしくね、ソフィア・ノヴァ。」

 「…うん!こちらこそよろしく、ブランメラ。料理、食べてみたい。」

 「拠点まで連れて行ってくれたら、いくらでも振る舞ってあげるわよ。」


 無事にゼビリアお抱えの総料理長、ブランメラが合流した。三人で元来た道をたどっていると、ちょうど上空をリヴィエルが飛んでいくのが見えた。抱きかかえられている小さな人影も見える。


 「お、向こうもフリッタの回収が終わったみたいだね。さすがリヴィエル。」

 「よかった、フリッタも見つかったのね。これで、ゼビリア様に再び私たちのフルコースを召し上がっていただけます。」


 三人が立ち去った後の雑木林。風の声がざわめく中、玉虫色の輝きが妖しく光っていた。

◎ゼビリアのざっくり解説コーナー


 はーい、今回は私の忠実なシェフ、ブランメラを紹介するね。

 彼女は地獄の総料理長を務めていて、自分の提供する料理に誇りを持っているわ。実際、彼女が提供するフルコースは地獄一、いや、世界一よ。本当にほっぺたが落ちそうなの。

 ただ、ブランメラが倒れてしまったら私の厨房は動かなくなるわ。そうならないように、彼女は後進育成もやっているわ。

 そのうちの一人がフリッタ。彼女はウコバク娘で揚げ物が大得意。あと、祝祭の時には花火も打ち上げてくれるわ。人懐っこい性格だからね、今回はリヴィエルに彼女の捜索を任せたわ。多分、ブランメラならリヴィエルが行ってもついてこなかったかも。あの子、私の言うことしか聞かないのよね…。

 まぁ、今回の一件でソフィアっていう自然体でしゃべれる相手ができたからよかったかもね。


 あぁ、それと、ケリュネっていう子も私の部下の一人なんだけど…彼女は今は洞窟に引きこもってるわ。いつかはあの子も呼べるといいんだけどね。

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