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第6話 「暴食」と「嫉妬」

 アウリス救出事件から一夜明け、集落には穏やかな空気が流れていた。無事にアウリスが帰ってきたことで、みんなの緊張がほどけたようだ。アビッサも前みたいにピリピリしておらず、豪快で快活な性格になっている。恐らく、これが彼女の本来の性格なのだろう。


 アウリスとフィリアはまだ眠っている。二人で一緒にベッドの中で心地よさそうにしている。アビッサは再び漂流物の回収を始めている。フィオナは通信機をいじっている。気になることがあるらしい。

 僕はといえば、特に何もすることが無いので散歩することにした。


 「待っていたわ、ソフィア。」


 ふと見上げると、屋根の上にリヴィエルが座っていた。


 「リヴィエル、どうしたの?」

 「何か嫌な気配を感じたのよ。あなたが外に出ていくなら私もついていこうと思って。」

 「そっか、ありがとう。じゃあ、一緒に行こうか。」


 これまでリヴィエルと二人きりになったことが無いので、何をしゃべればいいのかな、と考えながら浜辺を散歩する。そういえば、まだリヴィエルが何の魔物娘か聞いていない。


 「そうだ、リヴィエル。君は何の魔物娘なの?」

 「そうね。まだ話したことが無かったわね。私は―」


 リヴィエルが答えようとしたとき、岩の向こう側に誰かが倒れているのが見えた。


 「リヴィエル!誰か倒れてる!」

 「…」


 リヴィエルを振り向くと、彼女の目が緑色に光っていた。

 …怒らせてしまった?


 「あ、その…ごめん。」

 「…いいわよ、別に。それで?誰か倒れてるって?」

 「あ、うん。ほら、そこ。足が見えるでしょ?昨日の残党かな。」

 「その心配はないわ。ただ…昨日の残党より厄介化も。」

 「え、なんで?」

 「まぁ、それは見た方が早いわ。」


 二人で岩の裏に回ると、そこには一人の女性が倒れていた。赤黒の長髪に黒革のロングドレスを纏い、腰には鎖でフォークとスプーンが吊るされている。そして、背中には大きな黒い翼、頭には黒い角があった。


 「…魔物娘?」

 「…ぁ、誰か、来てくれたの?」

 「よかった、意識はある。どうしたんですか?」

 「…お腹がすいて、動けなくなっちゃって…。」

 「お腹が…何か、食べられるもの…。」


 幸い、ポーチの中には軽食用のサンドイッチが入っていた。それを渡そうとすると、背後からリヴィエルの鋭い声が響いた。


 「ソフィアの言う通り、そいつは魔物娘よ。でも、純粋な『悪魔』である魔物娘。今、あなたがそいつを助けても、その恩に応じて必ず危害を加えない、とは限らないわよ。『悪魔』っていうものはそういうものなの。だったら、今ここでそのまま放っておいた方が島の皆のためになるわよ。」

 「…そんな、目の前で苦しんでるのにそれを放っておけっていうの?」

 「そうよ。その方が皆のため。後々、面倒ごとを起こされるより、ここで見なかったことにした方がいいのよ。」

 「…」

 「さ、もう戻りましょ。朝から嫌なもの見ちゃったわね。」


 踵を返すリヴィエル。しかし、ソフィアはその場を動かなかった。


 「…?帰らないの?」

 「…帰れるわけないでしょ。リヴィエル、僕は魔物娘がみんな安心して暮らせる空間を作りたいの。」

 「だったら猶更、『悪魔』娘は助けない方が良いんじゃないの?」

 「違う。『悪魔娘』も、僕が築きたい《箱庭》で安心して暮らしてほしい『魔物娘』だよ。」


 ソフィアは悪魔娘の方に向き直り、サンドイッチを食べさせる。

 彼女は、弱弱しくサンドイッチを受け取り、少しずつ食べる。


 「…知らないわよ。どうなっても。」

 「…リヴィエル、あなたがそんなに冷たいなんて思ってなかった。」

 「…」


 リヴィエルは答えず、そこにただ立っていた。


 悪魔娘は、ソフィアが渡したサンドイッチを全て平らげた。すると、彼女の顔に血の気が差し、意識がはっきりとしてきた。


 「…あなたが、助けてくれたの?」

 「うん、そうだよ。大丈夫?」

 「うん…お陰で元気いっぱい…」


 悪魔娘の瞳孔が細くなり、鋭い牙が口から覗く。


 「暴れられるよ!」


 次の瞬間、大きな羽音を立てて、彼女の身体が無数のハエの群れになって渦巻き飛び上がった。そして、空中で少しずつ人の形を形成し、瞬く間に先ほどの悪魔娘の翼を広げた姿が現れた。


 「どうもありがとう、私のことを助けてくれて。お礼に名前は教えてあげる。私はベルゼビュート娘のゼビリア。以後、お見知りおきを。…まぁ、私のこの姿を見てしまった以上、あなたに『以後』なんて来ないけどね!」


 そう高らかに宣言すると、彼女は爪を鋭く伸ばし、ソフィアめがけて急降下してきた。



 あぁ、ここで僕は死んじゃうのか。なんか、思ったよりもあっけないな。

 …素直にリヴィエルの言うことを聞いておいたらよかったのかな…。…それは無理だよ。目の前で苦しんでるのにそれを見殺しにしろっていうのは。でも、リヴィエルは僕のことを想って言ってくれてたんだよな。「仲間」として、僕や島の皆に危害が加わらないように。…そう思うと、リヴィエルにひどいこと言っちゃったな。「そんなに冷たいなんて思わなかった」か…。僕って最低だな。最後に、それだけ謝りたかったな。

 アビッサ、みんなを守って。フィリアにアウリスはまだ夢の中なんだろうな…。フィオナ、僕の遺志を受け継いで《箱庭》建設、お願いしたいな。…突然いなくなる僕を許して。


 ソフィアは目を閉じた。



 しかし、何も起きなかった。むしろ、抱きしめられているような感覚を覚えた。

 恐る恐る目を開けると、ゼビリアがソフィアをハグしていたのだ。


 「え…?僕、死んだんじゃ…。」


 ゼビリアが腕を解き、改めてソフィアの前に立つ。しかし、そこにいる彼女は先ほどの不敵な悪魔とは似ても似つかない。


 「ごめんねー、びっくりさせちゃって。でも、本当に感謝してるんだよ。実際、昨日から何も食べてなかったからね。」


 朗らかに笑うゼビリア。ソフィアは事態が全く理解できずに混乱した。


 「っていうかさ、ソフィアにも言われてたけど、リヴィエル冷たくない?」

 「…仕方ないじゃない!どうにかしてソフィアが諦める方向にもっていこうとしてたんだから。」

 「とはいえさぁ、あの言い方はひどくなーい?あ、しかもやたらと『悪魔』のところ強調してたじゃん。」

 「…っ!それは…」

 「何ー?『悪魔』である自分が受け入れられるか不安だったの?それであんな言い方を?」


 リヴィエルが「悪魔」?!


 「リヴィエル、今のはどういうこと?リヴィエルが『悪魔』って…」

 「あれ?リヴィエル、まだ言ってなかったの?」

 「さっき言おうとしたわよ!でも、そのタイミングでソフィアがあなたを見つけちゃったんだから!」

 「なるほどね。そうか、タイミングが悪かったね。失敬失敬。でも、昨日からあそこで待機してて何も飲まず食わずだったんだから、しょうがないじゃないか。」


 さっきまでの険悪な雰囲気はどこへ行ったのか。何もわからなくなっているソフィア。


 「えっと、これはどういうこと、なの?」

 「あ、順を追って説明すると、ソフィアはこの島から試練を課されたんだっけ。」

 「うん、この集落の魔物娘たちから信頼を得ろ、っていう内容の…」

 「実はね、それは昨晩の段階でクリアしてるんだよ。」

 「え?だって、リヴィエルからまだ…」

 「あぁ、彼女、ソフィアが最初にアウリス救出に積極的に申し出てくれた時にはもう信頼してたらしいよ?」

 「ちょっと、ゼビリア!なんで言っちゃうのよ!」

 「え?そうなの、リヴィエル?」


 リヴィエルは顔を真っ赤にしながらそっぽを向いていたが、ぼそぼそ答え始めた。


 「…だって、見ず知らずの私たちのために、あんなに親身になってくれてるんだもの…。よそ者だったとしても、信頼に足るんじゃないかしら、って思ってたのよ。…でも、そんなんだと示しがつかないじゃない。なんか、すごくチョロく見えちゃうじゃない…。」

 「そうそう、それで、たまたまリヴィエルの気配につられて飛んできた私に一芝居打ってほしいなってことで話を持ち掛けてきたんだよ。」

 「…うぅ、全部話すわよ。元々、私とゼビリアは知り合いなの。ゼビリアは『暴食』、そして私は…『嫉妬』を司ってるの。…ソフィアも気が付いているかもだけど、私、時々自分の中の嫉妬を抑えきれなくて目が緑色になっちゃうの。」

 「あぁ…確かに。さっきもなってたもんね。」

 「…そうよ、あの時はようやく私がレヴィアタン娘で『怪物』としてのレヴィアタン、『悪魔』としてのレヴィアタンの両方の要素を併せ持っていることを告白しようとしてたの。…でも、あのタイミングでゼビリアを見つけちゃったから、せっかく私のことを聞いてくれてたのに、意識がゼビリアの方に向いちゃった。今は私のことを見ていてほしいのに…って嫉妬が出ちゃったの。」


 リヴィエルは目を伏せながら続ける。


 「さっきゼビリアが言ったように、この一連の流れは私とゼビリアの間で交わされた台本通りに進める予定だったの。…でも、不安になっちゃったの。『悪魔』も受け入れてもらえるのかなって。一般的に、邪悪な存在とされている私たちは受け入れてもらえないんじゃないかって…。それで、あなたを試すようなことを言ったの。」

 「じゃあ…全部不安の裏返しだったってこと?」

 「…」

 「ごめんね、リヴィエルは昔っからこうなんだ。でも、うん。君の言う通り、素直になれなかっただけだよ。本心からの言葉じゃない。」

 「…ゼビリア、代弁ありがとう。」

 「じゃあ、リヴィエル。」


 ソフィアはリヴィエルに向き直る。


 「ごめんなさい。さっきは、こんなに冷たいと思ってなかったって言ってしまって。傷つけてしまったよね。」


 ソフィアの目に涙が浮かぶ。

 リヴィエルはその言葉を聞いて、ただ近づいてソフィアを抱きしめた。言葉はいらなかった。



 ソフィアと二人の悪魔が村に帰ってくると、そこには珍しいお客さんがいた。


 「ソフィアにフィオナ。あなたたちは私の試練を無事にクリアしたのですね。」

 「イソラ…うん、みんなと絆は結べたと思う。」

 「…では、改めて正式に、ここに《箱庭》を築くことを許可します。あなたたちなら、素晴らしいものを作ってくれるでしょう。」

 「イソラもさ、よかったらみんなと一緒に《箱庭》を建設しない?いろいろと相談したいこともあって。」

 「…そうね。じゃあ、私も参加させてもらおうかしら。こちらからも相談したいこともあるし。」

 「決まりだね。じゃあ、改めてここから《箱庭》を始めよう!」

◎リヴィエルのざっくり解説コーナー


 はぁ、今回は私のせいで迷惑をかけてしまったわね。…ソフィアには悪いことをしたわ。それでも、「悪魔」な私でも受け入れてもらえることがわかって本当によかったわ。

 さて、じゃあ今回は私とゼビリアについてね。改めて自己紹介すると、私はリヴィエル。種族はレヴィアタン。だけど、「怪物」としてのレヴィアタン、「『嫉妬』の悪魔」としてのレヴィアタンの両方の要素を併せ持っているの。あと言えることとしては…あぁ、二人の姉がいる、ということぐらいかしら。

 そして、ゼビリアなんだけど―


 はーい!ここからは私も参加!ねぇ、リヴィエル、ずるいじゃん。一人でこんなお話しさせてもらってー。

 改めて、私はベルゼビュート娘のゼビリア。「暴食」を司る悪魔だよ。食べることが大好きでね、みんなでやる宴は最高だよ!

 本当はここまで部下たちと来たんだけどはぐれてしまってね…。この島のどこかには流れ着いていると思うんだけど、もしよかったら探すのを手伝ってほしいな。

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