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第4話 再び本土へ

 イソラが指し示した入り江には確かに小さな集落のようなものがあった。そして、そこに三人ほどの魔物娘の姿が見えた。一人は司祭風の衣装に身を包んだ魔物娘。一人は槍を片手に鎧に身を包んだ騎士風の魔物娘。そして、もう一人は深い青と燃えるような赤のオッドアイの魔物娘だった。彼女たちは、ソフィアとフィオナが近づいてくるのを見ると、警戒態勢を取った。騎士風の魔物娘が水流の巻き付いた槍をこっちに向けてきて言い放った。


 「止まれ。お前たち、何者だ?」

 「僕は新人魔物研究員のソフィア・ノヴァと言います。あなたたちに危害を加えるつもりはありません。」

 「本当か?悪いが、俺たちは今少しピリピリしてるんだ。もしも本当に危害を加える気がないのなら、早々に立ち去ることをお勧めする。」


 フィオナが前に出て穏やかに返した。


 「まぁ待ちたまえ、君。私たちはアスピドケロン娘、すなわちこの島そのものから試練を課されていてね。君たちの信頼を得なければならないのだよ。」

 「はっ!この島そのものだと?面白い話じゃねぇか。だが、生憎と信頼してやるほど余裕のない状態でね。」

 「あの、何があったんですか?もしよかったら、僕たちに何かできることはありませんか?」

 「よそ者には教えてやれないね。もしかしたら、お前たちが犯人の可能性もあるんだからな。」

 「犯人?何のことですか?僕たちは本土の方から来たばかりで何もわからないんです。」


 その言葉を聞いた瞬間、司祭風の魔物娘の目が少しだけ輝いた。


 「ねぇ、アビッサ。この方たちは本土から来られたとおっしゃいましたよね。じゃあ、アウリスのことも知ってるんじゃないかしら。」

 「おい、フィリア。いろいろ話しすぎだ!」

 「はぁ、アビッサ。あなたもフィリアの名前を出してるじゃない。」

 「あぁ、もう!リヴィエルは黙ってろ!」

 「もう、全部話しちゃってるじゃない。もう少しは落ち着いたらどうなの?」

 「落ち着いてられるかよ!こんな状態で!」


……アビッサ-騎士風の魔物娘が全部話してしまっていたが、アウリスという魔物娘に関する何かが起こっているようだ。そこで、ソフィアはフィリア-司祭風の魔物娘に話を聞くことにした。


 「あの、フィリアさん、ですよね。もしよかったら、そのアウリスという魔物娘について聞かせていただけますか?」

 「えぇ、もちろん!実は…」


 アビッサが慌てて遮ろうとする。


 「フィリア!あんまりベラベラと…」

 「アビッサ、やめなさい。誰よりもアウリスの心配をしているのはフィリアでしょ。彼女が自分の意思で話すんだから私たちにそれをやめさせる権利はないわよ。」

 「…くっ、わかったよ。」


 アビッサはリヴィエルに諭され、槍を下ろしてくれた。


 「えっと、あ、自己紹介がまだでしたね。私はフィリア。ビショップ・フィッシュの魔物娘です。」

 「わざわざありがとう。もしよかったらアウリスって子について教えてもらえますか?」

 「アウリスはセルキー娘なんですけど、昨日本土に出かけてからまだ帰ってきてないんです。彼女がこの村を離れている間にこの島がなぜか浮上してしまって…。もしかしたら、それが理由で帰って来れてないのかもしれないんです。彼女を探すのを手伝ってくれませんか?」


そう訴えるフィリアの目には涙が浮かんでいた。よっぽどアウリスのことを心配しているのだろう。それに、行方不明の魔物娘がセルキー娘であることも嫌な予感がする。もしも伝承通りなら…。


 「わかった、アウリスの捜索、僕も手伝います。」

 「本当?ありがとうございます!」


 フィリアの目が一層輝いた。アビッサは不服そうだが、受け入れてくれたようだ。


 「本土に戻る必要が出てきたけど、僕が行くのがベストだろうね。」

「そうだな、私もぜひソフィアと一緒に調査に出かけたいが…おそらく怖がられるだろうからね。おとなしくこの島に残らせてもらうよ。その代わり、ソフィアが出ている間に私は私でこの島の調査をしておこう。」


 ソフィアがフィリアから詳細を聞いている間、フィオナは集落を見て回っていた。浅瀬にはかつてこの島に渡ってきた人々が使っていたであろう船の残骸が転がっていた。波打ち際を歩くフィオナの背後に迫る影があった。


 「何か目ぼしいものはあったかしら?リッチ娘。」

 「…リヴィエル、といったかな。まぁ、朽ちた残骸ばかりだ。あまり使えそうなものはないな。」

 「そうか、じゃあこれをやる。」


 リヴィエルが差し出したのは通信機のようなものだった。


 「これは何だ?」

 「かつてこの島に流れ着いた船から回収していた通信装置のようなものよ。残念ながら電源がなく動かないためただのガラクタだが、何かの役には立つでしょう。」

 「ありがたくいただこう。…それにしても驚いたな。協力してくれるのか。私たちは警戒されていると思っていたが。」

 「警戒はしてるわよ。…でも、私たちではアウリスを探すことができない。だったら、捜索を申し出てくれている人に協力するのは当たり前じゃないかしら?」

 「そうか。アビッサにだいぶ威嚇されたからな。てっきり排外的なのかと。」

 「別にみんながみんな、そう排外的なわけじゃない。フィリアを見てるとわかるんじゃないかしら。まぁ、アビッサは、彼女なりに頑張ってこの集落を守ろうとしてるのよ。ただ不器用で頑固なだけなの。あまり気を悪くしないで頂戴。」

 「あぁ、その点は問題ない。改めて、素材の提供、感謝する。」


 リヴィエルはフィオナの返答を聞いて満足そうにしていた。


 一方そのころ、ソフィアは砂浜に置いてけぼりにしてきた〈ノクティルカ〉号を回収して集落に戻ってきていた。この時、改めて入り江の立地を観察していたが、興味深い地形になっていた。この入り江は外海とは狭い水道一本でしか繋がっておらず、天然の岩礁と潮流でほぼ隔離されたラグーン状になっている。…この水道を守っていれば、外からの侵入者を防ぐことができそう。この集落はかなり安全性が高そうだ。


 水道を通って入り江に入ると、桟橋ではフィオナとフィリアが待っていた。


 「フィオナにフィリア、今から荷物をまとめたらさっそく出発するよ。」

 「わかった。あぁ、これを渡しておこう。」


 フィオナは通信機を差し出した。


「これは?」

「私たち魔物娘の持つ魔力を使って通信することのできる装置だ。これでアウリスと合流したら連絡が取れる。」

 「それはありがたい。これで逐一報告ができるよ。」

 「それと、ソフィアさん。これも持って行ってください。」


 フィオナに並び立っていたフィリアの手には手紙が握られていた。


 「アウリスに渡してほしいんです。私たちみんな心配してるよってことが書いてあります。それに、その、失礼なことを言っているとは承知しているのですが、アウリスはあなたのことを知らないから、怖がると思うんです。だから、これを見せてもらえると、アウリスが安心できるかなって思って。」

 「ありがとう、フィリア。別に失礼なんかじゃない。だって初対面だから、知らないのは当然だよ。この手紙、絶対アウリスに渡すよ。」

 「よろしくお願いします!」


 〈ノクティルカ〉号のエンジンをかけ、桟橋を離れる。少しずつ、フィオナとフィリアの姿が小さくなっていく。リヴィエルとアビッサは…来ていないようだ。外海との唯一の連絡路である水路を通り抜けると、一気に視界が開ける。ちょうど〈ノクティルカ〉号が外海に出た時、背後で水の渦巻く音が聞こえた。振り返ると、水道に渦潮ができて船が通れなくなっていた。近くの岸壁にはアビッサの姿が見える。この渦潮が彼女の力によるものだとしたら、恐らく彼女はカリュブディスの魔物娘だろう。彼女が守ってくれている以上、あの集落は大丈夫だろう。今は、アウリスの救出だけを考えよう。〈ノクティルカ〉号は波間を滑るようにして本土に近づいていった。


 「…あ、あ、聞こえるか?ソフィア。」


 もう少しで港に着くところで、突然フィオナの声が聞こえた。


 「フィオナ?聞こえるよ。これってさっき渡してくれた通信機?」

 「…あぁ、そうだ。聞こえているようでよかった。どうだ?もうすぐ着きそうか?」

 「うん、もう港が見えてるよ。」

 「そうか。じゃあ、アウリスの救出、頑張ってくれ。朗報を期待してるよ。」

 「ありがとう、フィオナ。じゃあ、またあとで。」


 通信が切れると、もう〈ノクティルカ〉号は港に入っていた。停泊させ、上陸する。ついさっき出たばかりなのに、本土の土を踏むのが久方ぶりに感じてしまう。

 まずは、情報収集をする必要がある。フィリアからアウリスの情報は聞いているが、それを聞いて回ると怪しまれるだろう。それに、アウリスがセルキー娘だということがバレてはいけない。それは、セルキーという魔物の伝承と関係がある。セルキーはアザラシの皮を被ることでアザラシに変身できるが、陸上ではその皮を脱ぐ。そして、その皮を奪われたり回収されたりした場合は、その人に従わなければならない。アウリスが本土に上陸してから帰ってきていない現状を考慮すると、非常にまずい事態になっている可能性が高い。なので、急いで情報を集める必要がある。


 結局、あの酒場に帰ってきた。あの島―イソラを見つけられたのも、この酒場での噂話によるものだった。もしかしたら、アウリスに関する情報が見つかるかもしれない。ソフィアがカウンターに腰かけ、飲み物を注文しようとしたとき、背後から肩をたたかれた。


 「よぉ!さっきのハカセさん。戻ってきたのか。よかったら一杯奢らせてくれよ。」

 「あ、〈ノクティルカ〉号の船長さん。」

 「いやいや、今はハカセさんが船長だよ。それで、何が飲みたい?酒で構わないか?」

 「あ、ありがとうございます。いただきます。」


 〈ノクティルカ〉号を譲ってくれた船乗りと思わぬ再会を果たした。


 「あの、なんで奢ってくれたんですか?むしろ僕が船長さんに船のお礼として奢るぐらいなのに。」

 「ん?あぁ、さっきハカセさんと別れた後に浜辺を散歩していたら珍しいものを拾ってな。それをそこの骨董店に売ったらこれがまたいい値段でね。見えるか?窓の向こうのそこだよ。それでこの酒場に戻ってきて飲もうとしたときにハカセさんが来たのが見えたんだ。」

 「珍しいもの…ですか。どんなものを拾ったんですか?」

 「気になるか。気になるよな。聞いて驚くなよ…なんときれいなアザラシの皮だ。しかも、全身。まるで中身がくりぬかれたかのようにきれいな状態で波打ち際の岩場にあったんだよ。」

◎フィリアのざっくり解説コーナー


 こんにちは。ビショップ・フィッシュ娘のフィリアです。今、ソフィアさんがアウリスを探しに行ってくださってるので、今回は私が担当して仲間たちについて紹介します。

…フィオナさん、こんな感じでいいですか?「大丈夫」?じゃあ、えっと、紹介していきます。


 まずは、私から。私の種族はビショップ・フィッシュ。「シー・モンク」なんて呼ばれてることもあるそうです。お魚の司教をやってます。普段は村の皆のために祈りを捧げています。


 次に、アビッサ。彼女はカリュブディス娘です。とてもパワフルで、渦潮を起こすことができるんですよ。普段はその力を使って村の防衛をしたり、漂流物を入り江に流し込んだりしてるんです。いろいろなものが入り江に流れ着くので見ているだけで面白いですよ。

 アビッサは鍛錬も怠らずに頑張ってるので、いつ見ても立派な筋肉なんですよ。私のことも軽々持ち上げちゃいます。


 そして、リヴィエル。リヴィエルはレヴィアタン娘だって言ってました。どうやら、上に二人ほどお姉さんがいるらしく、末っ子だそうです。でも、私たちに接する時はお姉さんのように見守ってくれてます。…でも、時々私がアビッサやアウリスとしゃべっていると、じとーってこっちを見てきていることがあったような気もします。普段は赤色と青色の綺麗なオッドアイなんですけど、そうなってるときは目が緑色になってるような気が…。


 …それから、アウリス。彼女の種族はセルキーって言って、アザラシに変身できるんです。でも、変身するためにはアザラシの皮を着なきゃいけなくて、それがなくなっちゃったら変身できなくなっちゃうんです。…今頃どうしてるのかな。海のどこかで迷子になってるのかな。それとも、本土で…。…ううん、今はソフィアさんが探しに行ってくれてる。絶対アウリスも連れて帰ってきてくれる。だから、ソフィアさんを信じて待ちます。


 皆の紹介はこんなところかな。…フィオナさん、よかったら今からアウリスのために一緒に祈りませんか?

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