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惑星を越えてでも君を探す  作者: 橘晴
第一章「異世界入門編」
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5話「異世界」

眠いです。

 しばらくして、白髪の少年がこちらにやってきた。死体の処理が終わったのだろう。右手には麻でできた袋を持っていた。膨らんでいる。中にはあの怪物の一部が入っているのだろうか。よく見ると怪物の死骸が皮を失い遠くに転がっていた。

 彼の服にはいっぱい血が付いていた。戦闘の時以上に血が付いていた。処理の際に付いたのだろう。彼は僕に近づいてくるなり、おちゃらけた様な声で言った。

「君、ほんと、間一髪だったね」

「あっ、はい。本当にありがとうございました。危ないところを助けてくださって」 

「礼ならそこのサラに言いなよ。サラが君の激しい呼吸音と動悸を聞き取って、君の身の危険に気づいたんだから」

 そうだったのか。じゃあ、もし彼女が気付いてくれなかったら俺は死んでいたのか。

 今、常人離れをしたようなことを耳にしたが、そこは一旦スルーすることにした。

 俺は再び彼女、いや、サラのほうを向いた。

「ありがとう、サラさん」

「どういたしまして。あと呼び名はサラでいいわよ」

「さん付けで呼ばれるのは慣れないのよね」とぼっそとサラは吐いた。

「わかった。じゃあサラ、ありがとう」

「何度も言わなくても……」

 サラはそっぽを向いてしまった。

「じゃあ僕も自己紹介しておこうかな、僕はジャック・オーラルド。ジャックって呼んでくれればいいよ。あと、僕たちにはため口でいいよ。堅苦しいと僕たちも疲れちゃうから」

「わかった」

 白髪の少年はジャックというらしい。手に持った剣には血が付着していた。それを見て先ほどの戦闘を思い出す。先ほどの剣術からは想像できないほどおとなしい少年である。見かけ以上とはこのことだ。

 ジャックって言っていたが、やはり外国人だろうか。白髪だし端正な顔立ちも外国風に見ええた。

「よろしくジャック。俺はユウタだ」

「うん。こちらこそよろしく。一応だし、サラもちゃんと自己紹介しておけば?」

 ジャックはサラのほうを向いた。彼女は「そうね」といって自己紹介をした。

「私はサラ・カナーリ。さっきも言ったけどサラって呼んで」

「うん、よろしくサラ」

 彼女は何も言わずにまたそっぽを見た。

 ジャックは剣に着いた血を自分の服の裾で挟んで血を拭っていた。

「改めてだけど、サラの翔風精霊の鍛錬度はすごいね」

「まあね、努力してるから」

 また知らない言葉が出てきた。今聞いてもどうにもならなそうなので、後でまとめて聞くことにしよう。

「ちなみにユウタ、年はいくつ?」

 ジャックが聞いてきた。再び学生証の内容を思い出す。

「十七かな」

「おっ、俺よりは一つ年下か。サラは負けてるじゃないか」

「うっさい。一歳だけでしょ。同じよ、同じ」

 ジャックは十八歳、サラは十六歳だってことが分かった。俺と同じぐらいの年齢なのに二人とも非常に大人のように感じた。見た目ではない。中身が、だ。

「ユウタ、もう歩けそうかな」

「大丈夫」

「じゃあ行こうか」

「うん」

 ジャックがそう言って、先導するように俺の前を歩き始めた。俺は後に付いていく。

「待って」

 サラの言葉が急に俺たちを止めた。サラの目は、前方の茂みのほうを睨んでいた。

「ユウタは僕の後ろにいて」

 ジャックが僕を背後に誘導した。辺りに緊張が走る。ジャックは持っていた麻袋を置いた。

 サラは腰につけていた棒を手に取った。ジャックも剣を握り直した。俺はどうすることもできない。ただ、唾を飲むことしかできない。

 辺りが静かになった。自分と二人の息遣いのみが鮮明に聞こえてくる。

「前方サバーカ二匹、ジャック、水打ち込んで」

 サラの発声とともに前方の茂みから、二匹の犬、もといサバーカが飛び出てきた。さっきの怪物の残党だろう。

 二匹ともすでに変形した後のようで、首が二本ずつ生えていた。合計四本だ。首は固定されていないので不気味に揺れている。先ほどより視界がうるさい。

「了解。水塊射出(ヴィース)

 ジャックの声とともに前方に伸ばしていたジャックの左手の手のひらから、水の塊が噴出した。

(どういうことだ?)

 何が起きているのかが理解できなかった。だって今、何もない手のひらから水が……。

 そんな俺をよそに水の塊は一直線に前方のサバーカ二匹に飛んでいく。

 水の塊はサバーカに当たってはじけた。サバーカの周囲も同様に濡れ、半径二メートルほどの水たまりができた。

 サバーカは水に当たって少し後退したものの、すぐに立て直してこちらに近づいてくる。

 だめだ、効いてない。先ほどの恐怖がよみがえってくる。

 でも、もう先程とは違う。今の俺には彼らがついている。安心感が違った。

 ジャックは続けて小さい水塊を、サバーカの足元の水溜まりからこちら側に水たまりを繋げるように射出した。

 そして、サラのいるほうからビリッという音がした。

「死になさい。局所雷撃フードル

 サラは足元の水溜まりに手に持っていた棒の先端を付け、強く言葉を放った。その瞬間、彼女の毛が逆立った。彼女の横顔は綺麗だった。

 サラの力強い言葉とともに、紫色の電光が走った。それは雷撃のようだった。その電光は水溜まりを伝い、二匹のサバーカの身体を包み込んだ。電光は濡れたサバー下の表面を伝い、首の傷から体内に侵入する。

 その瞬間、先程聞いた音と同様に「ぱりん」という音が雷撃の轟音の裏で鳴った。

 そこにはすでに焼け焦げた二匹のサバーカの遺骸があった。今回は痙攣すらしていなかった。肉の焦げた匂いが、つんと鼻腔を刺す。即死だったのは明確だった。

「ナイス」とジェイドが言う。

 サラもやり切ったというように「ふう」と息を吐いて深呼吸をしていた。

 水溜まりにはまだバチバチっと電気が残っていた。


 この時点をもって俺はようやく一つの結論に辿り着く。

 いや、もっと早いうちから辿り着いていた。しかし、どうしても受け入れられなかった。

 でも、今の一連の戦いやサバーカを見たらもう受け入れるしかない。


 ここはたぶん―――――――――俗にいう異世界ってやつなのだ、と。


今年の映画ドラえもん面白かったです。

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