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39.知っていた女子達

 クリスマスパーティーは、玖瑠美の自宅で行われる運びとなっていた。

 拾蔵、和香、沙苗の三人は駅前でクリスマスケーキやテイクアウトの料理をひと通り受け取ると、その足で白坂家へと向かう。

 三人を出迎えたのは玖瑠美の姉で、琴音の友人でもある佳那美だった。


「あれ? お姉さんはクリスマス合コンには行かんかったんですか?」

「あ~……ちょっと私にはハードルが高いかな、なんて……」


 玖瑠美とよく似た顔立ちで苦笑を浮かべる佳那美。これ程の美人なら幾らでも声がかかりそうなものなのにと思う一方で、それ以上に、佳那美に彼氏が居ないというのが一番の驚きだった。

 どう見ても、恋人が居て不思議ではない女性だ。それが何故クリスマスイブの夜にひとりなのか。

 拾蔵には全く理解出来なかった。


「佳那美お姉さん、美人なのにねぇ~……」


 どうやら和香も拾蔵と同じ疑問を抱いているらしい。しかし美人イコール男持ちという発想は、案外間違っているのかも知れない。

 そんなことを話しながら、三人は玖瑠美の部屋へと案内されていった。


「玖瑠美が帰ってくるまでもうちょっと時間あるから、適当に待っててくれるかしら?」


 トレイにお茶菓子と紅茶を乗せて現れた佳那美だが、どうやら彼女も今日のクリスマスパーティーに参加する様だ。

 聞けば、今宵は白坂家の御両親は夫婦でホテルに泊まることになっているらしい。

 娘達の為に、家を空けてくれようとしたのだろう。


(凄いな……そんな気遣いしてくれる親御さんって居てはんのや)


 拾蔵は目から鱗の気分だったが、しかしふと疑問にも思った。そんなところに、男の自分が押しかけても良かったのだろうか、と。

 確かに勃起不全の男ならば間違いは起きないかも知れないが、しかしそれとて、今日初めて公に知られたばかりの筈だ。予め知っていた訳でもないのに、何故OKが出たのだろう。

 これは後で、玖瑠美から直接訊いた方が良いかも知れない。

 そんなことを思いながら、何気なく玖瑠美の自室内をぐるりと見渡した。ここで既視感を覚えた拾蔵だが、それも当然の話だ。

 以前、玖瑠美のSNS中傷事件を解決した際、彼女は通話機能上でカメラ越しに自室を拾蔵に披露していた。見覚えがあるのも当然であろう。

 しかし実際にこうして眺めてみると、矢張り女の子らしい雰囲気がそこかしこに感じられる。

 するとその横から、和香がちょいちょいと拾蔵の脇を肘で小突いてきた。


「拾蔵君、アレだね……あたしの部屋とは随分違うなぁ、とか思ってんじゃないかい?」

「あぁ、うん。確かに違うわな」


 和香の部屋は、女子の装いというよりも小学生の男の子の様な雰囲気が漂っていた。これに対して玖瑠美の部屋は、如何にも女性を前面に押し出している。

 全体的にお洒落を意識した構成となっており、化粧や服、鞄などを大事にしている配置となっていた。


(そういえば、これがもっと大人の雰囲気になったら琴音さんの部屋っぽくなる訳か)


 拾蔵は何度もお邪魔している隣室の部屋構造を思い出していた。

 琴音の部屋は大人の色で染まっているが、基本的な配置は玖瑠美の部屋と同じ様に思える。そういう意味でいえば、見知った風景といえるのかも知れない。

 そうこうするうちに、再度玄関の呼び鈴が鳴った。

 聞けば、今日は美奈貴も呼ばれているとの由。

 結構な人数に上るのだが、この中で男子は拾蔵ひとりというのも、中々なプレッシャーだった。


「俺ホンマに、この席におってエエんやろか」

「あー、ダイジョブ大丈夫。誰も拾蔵君が狼になるなんて思ってないから」


 段々不安になってきた拾蔵に、和香がからりと笑いながら分厚い肩をぽんぽんと叩いてきた。

 しかしそれでも尚、拾蔵は場違い感を覚えてしまって仕方が無い。

 せめて琴音が居てくれればもう少し落ち着いて居られたのかも知れないが、流石にそれは無理だった。

 と、ここで拾蔵はふと気になったことがあった。

 今朝、教室で拾蔵が勃起不全であることがクラス全体に知れ渡った訳だが、それについては和香は特段、何もいっていないことを今更思い出した。

 普通、もう少し何か反応があっても良さそうなものなのだが。

 そのことについて拾蔵が訊いてみると、和香はあっけらかんとした表情で、


「あ、そのこと? えっとね、ちょっと前からあたし、知ってたから」


 などと当たり前の様に答えてきた。

 驚いたのは拾蔵の方だったが、沙苗は初耳だったらしく、どう反応して良いのか分からない様子で困惑していた。


「実はね、あたしとくるみんとで琴音さんに色々聞いたんだよ。何で拾蔵君が、あんなに他人と関わろうとしないのかって。あの失恋話を聞いた後のことなんだけど」


 拾蔵が退院する直前、玖瑠美と和香は琴音から色々と訊き出したらしい。

 成程、だから今朝、玖瑠美は拾蔵の勃起不全に驚いたりはせず、ただ猛然と怒りを発しただけなのか。


「あ、でも琴音さんを責めないでね。あたしとくるみんがどうしても訊きたいからって、無理矢理教えて貰ったんだ。琴音さんも最初は拾蔵君のプライバシーだからって絶対に口を割ろうとしなかったんだけど、あたしとくるみんがしつこく訊いたから、琴音さんも、他には絶対喋らないでって条件付きで教えてくれたんだよ」


 拾蔵は別段、琴音に腹を立てたりはしなかった。己の勃起不全が他者に知られたところで、特に何が変わる訳でもない。

 ただ、それを理由に何らかの不利益を被ることがあれば、それを直接仕掛けてきた相手に対して反撃を加えれば良いだけの話である。

 しかも今回、その事実を聞き出したのが玖瑠美と和香ならば、何の問題も起こさないであろうことは拾蔵もよく理解していた。


「成程なぁ……そういうことやったんか」


 拾蔵がふぅんと流したことで、和香は幾分ほっとした様子で胸を撫で下ろしていた。

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