表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/43

27.ミスター学園祭

 私立K大学附属高校学園祭の二日目も滞り無く終了し、いよいよ夜の部――後夜祭を残すのみとなった。

 そのメインイベントはミス学園祭とミスター学園祭を選ぶコンテスト、通称ミス&ミスターコンだ。

 エントリーした顔ぶれは生徒用SNSで紹介され、そして投票も同じくこのSNS上で行われる。

 そしてその集計結果からそれぞれ上位三名が決定し、最後の本選、即ち講堂舞台でのアピール決戦に入るという訳だ。

 このアピール決戦での持ち時間は各候補者とも5分ずつ。この時間以内に投票者たる全校生徒に対し、自分こそがナンバーワンに相応しいと訴える。

 アピールの方法は何でも良いが、ひとりの候補者につき一名までサポートを付けることが出来る。

 このサポートを如何に上手く使うかが、ミス&ミスターコンで勝ち残る為の大きなカギであるといえる。

 ミスコンの部では、学内美少女トップ3の三人が順当に選ばれた。


「みなさーん! 是非是非、私に投票してねー!」


 ミスコンのアピール決戦一番手は、3年C組のパリピ系ギャル、澄川真子(すみかわまこ)。底なしの明るさと、はち切れんばかりの巨乳と美尻、そして端正な顔立ち。

 当然スクールカースト上では頂点に位置するひとりだ。

 真子はこれといった特技がある訳でも無く、ひたすらその元気な声と美ボディで、特に男子生徒らの目を釘付けにしていた。


「あ、あの! も、もし良かったら! あ、あああああたしに、投票、お願いします!」


 二番手として舞台上に姿を見せたのは、1年E組の高梨真理奈(たかなしまりな)。体形はどちらかといえば貧相な部類に入るが、その顔立ちの良さは真子を上回る。

 そして彼女の特技は運動神経の良さを活かした、チアリーディング部員としての派手なパフォーマンスだ。

 真理奈はサポート役の同部2年生の助力を得て、華麗なダンスを披露した。

 そしてミスコンのアピール決戦、大トリを務めたのは2年A組の玖瑠美だった。


「白坂玖瑠美ですっ! えっと、あたしもそんな大したことは出来ないけど、折角こうして上位三人に選ばれたので、是非頑張りたいですっ! 宜しくお願いしますっ!」


 悲しい程に、無芸だった。

 話術に長けている訳でもなく、舞台上でアピール可能な特技がある訳でもない。

 それでも多くの男子生徒らが鼻の下を伸ばしているのは三人の中でも一段レベルの高い、その美貌だ。加えて豊満な胸とくびれの利いた腰、そして妖艶な尻から太ももへのライン。

 玖瑠美はその顔立ちだけでも十分にミス学園祭に選ばれるだけの値打ちがある、と誰もが思っているらしい。実際SNSでの投票数も群を抜いて多かった。

 そしてこのアピール決戦でも、大した芸もスピーチも出来なかったが、他のふたりを抑えてトップに躍り出るだろうと目されていた。

 ともあれ、女子の部は終了。

 次は男子の部である。


「俺が今日イチで皆を盛り上げてやるぜーっ!」


 ミスターコンのアピール決戦、先陣を切ったのは2年A組の藪中晃司だ。彼はバスケットボール部でレギュラーを張る校内屈指のイケメンで、女子からの人気も高い。

 晃司は舞台上で得意のドリブル突破をサポート役の同部員相手に披露し、女子生徒らから黄色い声援を浴びまくっていた。

 逆に男子生徒らからの受けはイマイチだったが。


「僕も、頑張りますっ!」


 一年生の並木祐一(なみきゆういち)が舞台上に立つと、特に上級生の女子からの声援が凄かった。

 祐一は帰宅部の為、玖瑠美や真子同様、特にこれといった特技がある訳ではなかったが、上級生殺しのあざと可愛い仕草が二年生や三年生女子からの人気を博した。

 晃司に対する女子からの声援を上回っていたかも知れない。

 そして男子の部、ミスターコンのラストに登場したのが、拾蔵だった。

 拾蔵はいつも通り愛想の無い顔つきで舞台に立った。

 大半の生徒は拾蔵をただ握力の強いイケメンマッチョという認識しか無い様子で、この場で拾蔵が何を披露するのか、興味半分、不安半分といった雰囲気を漂わせていた。

 が、ここでサポート役の和香が登場し、拾蔵にアコースティックギターを手渡した時には講堂内が一斉にどよめいた。

 そんな彼らに対し拾蔵は、自己紹介もアピールの台詞も無く、ただ静かに艶やかな音色を奏で始めた。

 演奏開始当初は困惑に溢れていた講堂内だったが、拾蔵の流暢な英語による歌声とギターの音色、そして和香が加えるタンバリンの絶妙な響きで、次第に全体の空気が変わっていった。


「おい……何か、めっちゃ上手くない?」

「うわ、スゴ……超歌ウマじゃん」


 やがて多くの生徒が手拍子で応える様になり、講堂内全体が一体感に包まれ始めた。

 拾蔵は最後まで渋い表情を貫きつつも、ギターの音色で投票者達を熱狂させた。それまでに現れた候補者らのアピールなどまるで無かったかの如く、完全に拾蔵の独壇場と化していた。

 そして拾蔵のアピール時間が終わった時、講堂内はその日一番の歓声に包まれた。

 結果はもう、この時点で既に見えていた。


◆ ◇ ◆


 後夜祭も終わりを迎え、拾蔵はミスター学園祭に選ばれた。


(明日の晩飯は、焼肉やな)


 そんなことを考えながら、舞台上でミスター学園祭のたすきと賞品目録を受け取った。そのすぐ後ろでは和香が、後方腕組師匠の如く、ドヤ顔でうんうんと頷いている。

 その後、舞台を下りた拾蔵に2年A組のクラスメイトらが一斉に押し寄せてきた。


「すげぇぞ笠貫! お前、あんな特技があったんだな!」

「やったやった笠貫君、めっちゃサイコー!」


 次々と飛んでくる称賛の嵐に、拾蔵は苦笑を滲ませて頷き返すだけにとどめた。

 ただ、問題は明日からだ。

 晴れて松坂牛をゲット出来たのは良かったが、ミスター学園祭の栄誉を得て、思いっ切り全校生徒の前で目立ってしまった。

 今後、どうやって静かで平穏な生活を維持していこうか――その点だけが最大の懸念だった。


(ケツ山先生と、オタク臭をがんがんアピールして誰も近づかん様にするしかないかな……)


 その程度で周りを遠ざけることが出来るかどうかは、この時点では未知数だった。

 尚、ミス学園祭には玖瑠美が選ばれたのだが、拾蔵のインパクトが強過ぎた為、彼女の表彰は微妙に盛り上がりに欠けた。

 ミスコンよりもミスターコンの方が盛り上がったというのは同校学園祭史上、初めてのことだったらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ