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21.性癖開眼??

 週末。

 拾蔵は駅前へと繰り出し、とある商業ビル内に足を踏み入れた。

 目的はサブカルチャー専門ショップ『メディアトピア』で、マインドシェイドの同僚北岡から頼まれた品を物色することである。

 チャットで要求された品物リストをスマートフォンの画面に投影しながら、エスカレーターを三階で降りる。途端に、一階や二階に入っているブティック或いはコスメ用品店とは明らかに異なる客層が、視界に飛び込んできた。


(北岡さんとこの最寄りの店舗、そんなに品揃え悪いんやろか……)


 そんなことを思いつつ、拾蔵はアニメ風の等身大美少女パネルが出迎える店舗入り口から、のっそりと中を覗き込んでみた。

 結構な客数だ。特に今日は何かのイベント商品の発売日なのか、一部のレジに異様な程の人数による行列が出来上がっていた。


(うわー……もしかして、アレ並ばなあかんのか)


 などと思いながら、もう一度スマートフォンに視線を落とし、そして件の行列の最後尾で手持ち看板を掲げている店員の女性と見比べる。その手持ち看板に、今回探しに来た商品の購入行列最後尾である旨が堂々と記されていた。


(あかん……後にしよ。先に他のモンを片付けてまえ)


 買い物しているうちに、或る程度人数も捌けてくれるだろう、などと淡い期待を抱きながら、拾蔵は店舗内を歩き回り、指定されたグッズを店内用買い物かごに次々と放り込んでいった。

 そうして一旦、一般販売物購入用レジへ向かおうとした時、横合いから聞き覚えのある声が飛んできた。


「あれぇ? もしかして、笠貫君?」


 つい反射的に振り向くと、そこに和香の姿があった。

 この日の和香はトップスに薄いベージュのニット、ボトムスにスリムジーンズを合わせ、髪型もサイドアップテールといういでたち。明らかに、校内での制服姿とは雰囲気が違っていた。


「あれ、夏樹さんやんか。こんにちは」


 拾蔵は制服姿の小動物なイメージしか知らない為、この日の和香の私服姿にはちょっとした衝撃を受けた。


(何や……ちっこいカピバラが突然人間に変身したみたいなモンやな)


 本人の前では絶対口には出来ない様な感想を抱きつつ、会釈を返す拾蔵。

 一方の和香は、何冊かのライトノベルを店内用買い物かごに放り込んだまま、拾蔵が提げている買い物かごをそっと覗き込んだ。


「へぇ~……以外。笠貫君、こういうのに興味あるの?」

「いやぁ全然。ひとから頼まれて買いに来ただけやし」


 実際拾蔵は、リストに記されているそれらの品々がどの様な用途なのか、ほとんど分かっていない。理解出来るのは精々、ライトノベルとマグカップぐらいだった。


「あれ? 笠貫君このアクキー、ダブってない?」

「え? こんなん何でもエエんちゃうの?」


 和香に指摘されても尚、違いがよく分からない拾蔵は、思わず頭を掻いた。


「どんなのが欲しいの?」

「いや、えーっとな……」


 拾蔵は買い物リストを映し出したスマートフォンの画面を和香に見せた。和香は、ああ成程と何度か頷いて、リストと買い物かごの中身を何度も見比べている。


「ちょっと待ってて」


 やがて和香は店内をちょこちょこと歩き回り、幾つかの品を掻き集めてきた。

 どうやら拾蔵が間違えて買い物かごに放り込んだものを、訂正しようとしてくれているらしい。

 そうして十分程が経過した頃、拾蔵が手にしている買い物かごの中身の約半分が、全く違うものと入れ替わっていた。

 つまり、それだけ間違えていたということであろう。


「うわ……危ない危ない。怒られるとこやったわ……夏樹さん、ありがとうな」

「んへへぇ……どういたしまして」


 役に立てたのが嬉しかったのか、和香はにんまりと明るい笑みを返してきた。

 しかし拾蔵には、まだメインイベントが残っている。


「ほんならまずこいつら先に買って……次はあっちやな」


 などとぶつぶついいながら、ひとまずレジで会計を済ませる。和香も同じく会計を終えてから、件の行列にじっと見入っていた。


「もしかせんでも夏樹さん、あれ並ぶ?」

「そういう笠貫君も?」


 和香に問い返され、拾蔵は苦笑を滲ませながら頷き返した。

 そうして折角だからということで、ふたり一緒に並ぶことにした。

 ひとりで手持無沙汰で並ぶのは中々億劫だが、クラスメイトとふたりであれば、多少は会話などで時間が潰せるであろう。


「あ、ねぇ笠貫君。ID交換しようよ」


 突然何をいい出すのかと思いきや、SNSアプリでのID交換だった。この申し入れに対して気軽に応じた拾蔵だったが、ID交換後に現れた和香のアイコンに、思わず見入ってしまった。

 それはどう見ても、ケツ山ゴン太郎スペシャル描き下ろしの特製アイコンだった。

 本人の自覚の有無は関係無く、ここまでアピールされたのでは最早訊くしかない。拾蔵はたった今教えて貰ったIDに、メッセージを送った。

 もしかして貴女がケツ山ゴン太郎さんですか、と。

 その問いかけを、自身のスマートフォンの画面上でじぃっと見入っている和香。それからしばらくして、はにかんだ様子でにこっと笑みを返しながら頷き返してきた。


(これ……北岡さんに教えたった方がエエんやろか)


 目の前にいる小柄な少女が、実はエロい尻イラストでめきめきと頭角を現しつつあるイラストレーターだという事実に、未だ実感が湧いていない。

 が、こういう出会いも決して悪くないと思った。

 そして和香は和香で拾蔵に対し、まるで同志を発見したかの様な視線を送ってきている。

 これはもう、そっち系の新しい趣味に目覚めるしか無いのだろうか。

 たった今、拾蔵の前に新たな性癖という扉が開いた様な気がした。

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