忍者は建物とその中をしっかりと見ている
小野寺によって連れて来られた建物の中に柚花は入る。小野寺とその他2人の仲間も。
建物の中に入って見ると、ただの客の少ない飲食店であった。
「ここはねぇ、夜はクラブなんだけど昼間はカフェなんだよ。カフェにしては広すぎて落ち着かないけどね。取りあえず桜井さんに連絡するからコーヒーでも飲んで待っててよ。勿論、桜井さんの奢りだよ。」
ここで小野寺が「俺の奢りだ!」と言えないところを見て柚花はケチな人だろうな・・・と察した。そして、きっとモテない男なんだろうな・・・とも察した。
さて店員さんが持ってきたコーヒーを飲むと柚花は驚いてしまった。
「うっ・・・!不味っ!」
柚花の言葉に店員が反応し睨んでくる。でも仕方が無いのだ。実家が喫茶店だからコーヒーの味には人一倍うるさいのだ。
でもってこの店のコーヒー・・・スーパーで売っているコーヒーみたいな安っぽい味がするのだ。別にスーパーで売っているコーヒーを否定する訳では無いが、カフェというぐらいだから、それなりに美味しいコーヒーが出ると思ったら全然違った。
「柚花どうした?毒でも盛られたか?」
バッグの中からメッセンジャーが小声で話し掛けてきて柚花は頷く。
「うん・・・盛られた。」
あまりの不味さにいつもテンションが高い柚花のテンションがガクッと下がる。
苦い表情の柚花はコーヒーを一口飲むだけで止めて、店内を見渡した。
「ふーん・・・」
チラチラっと店内を見渡した限り、防犯カメラは無いみたいだ。ただ、その代わりにダミーカメラは沢山ある。
恐らく防犯カメラは高いからケチったのだろう。それで犯罪抑止の為にダミーカメラを沢山設置したとみた。
「なるほどね・・・」
次に柚花はバッグからスマホを取り出してスマホを弄る・・・様に見せかけて店員を観察する。
これは人相や歩き方や筋肉の付き方でどういう人なのかを判断する為である。
人相でその人を知るのはなかなか難しいが歩き方や筋肉の付き方はどういう格闘技をやってきたかとかどういう世界で生きてきたかを知るのに重要な要素である。
忍者や暗殺、スパイなどの裏稼業の世界に生きている人は歩き方に癖が出る。物音立てないように静かに目立たず歩く癖がある。
それを見る限り、このカフェの店員は人相は悪いが普通の人だと断言出来る。もちろん殺しをしたことのある人だけの特有の臭いもしない。
「よし、OK。」
柚花はこれで心置きなく桜井をブッ殺す事が出来ると思い、表情に力が入る。
その表情はまさにコレから殺しに行く者の顔であるが、そんな表情をした柚花に対してメッセンジャーがまたまた小声で話しかけてくる。
「柚花、殺気出しすぎじゃね?いつもなら殺気出さないだろ?どうしたんだ?」
しまった・・・。いつもなら柚花は殺気を殺しているのに何故か今日は殺気を前面に出してしまっている。
「もしかしてさっきのゲロ不味コーヒーのせいかも・・・」
さっき飲んだコーヒーの不味さがいまだに口の中にしつこく残っている。柚花はしつこく残る不味い味にイライラして殺気が全開に出ているのだ。
そんなこんなしていると小野寺がやって来て柚花の腕を引っ張る。
「桜井さんが呼んでるから来てくれ」
それにしても相変わらず女の子を雑に扱う小野寺に柚花はキツい一言を言い放つ。
「女の子は大切に扱いなよ?君、モテないでしょ」
「あっ?殺すぞオメェ?」
柚花の言葉にイラっときた小野寺であるが、小野寺は柚花に対して何も出来なかった。
柚花を桜井に紹介するまでは手を出さないでおこうとしているのだ。