そして閉店時間へ
そして時間が経ち、現在は夜の11時。ようやく慌ただしい1日が終わった。
正式には閉店時間は12時なのだが客はいないし実質閉店みたいなもんである。
「柚ちゃん?もう客いないけど、まだ開けておくの?もう閉めても良いような気がするけど・・・。」
暇そうな顔をした千歌は静まり返った店内を見て柚花に尋ねる。恐らく殆どの人が明らかにもう客が来ない感じがするのにまだ開けておく理由が分からないだろう。
「いや、開けておくよ。この時間は夜遅くまでパチンコ打っていた人が来店する事があるんだ。それにたまにだけど依頼の話を持ってくる人もいるからね。」
柚花の喫茶店の近くには大型パチンコ店があり、パチンコを閉店まで打っていた人がたまに寄る事がある。それ以外にも普通に夜遅くにコーヒー飲みたい人や何か食べたい人が来る。
そして1番重要なのが稀に政府関係者が来店することがあるのだ。時間は必ず夜11時から12時の間である。
主に任務の依頼であるが、1年に1回か2回しかない。
柚花達が属する畿内の忍者は明治維新以降、政府から依頼が有れば多額の報酬金を貰い、その任務を行うのである。
現在は年に数回程度ではあるが政府からの依頼・・・主に総理大臣の護衛や世間を騒がせている犯罪者の始末である。
「そういや最近、依頼って来ないなぁ・・・。最近総理大臣さんが代わったからそろそろ依頼ありそうなんだけどね。いや、その前に新しい総理大臣さんと会う話があるか。」
何だか面倒くさそうな顔をして柚花はブツブツ言う。
「私は総理大臣さんと会うのは嫌だな・・・。明らかに私たちを下に見てくる人ばかりだから・・・。」
柚花と千歌は総理大臣とか政府の高官と会うのが嫌である。忍者を見下した様な目で見てくるのが本当に嫌である。
もともと忍者は主君に仕える者で、柚花たちのご先祖様は戦国時代や江戸時代に主君や幕府に仕えていた。
その時から主君や幕府は忍者を下に見ていたのである。もちろん主君、幕府からしたら忍者は下の者ではあるが、見下した目で見るのは間違っている。
柚花の家に伝わる、ご先祖様の日記には常に見下された事についての愚痴が書かれている。
それだけ昔から忍者は下の人間と思われているのがお偉いさんの間では強く根付いているのだ。
「そういや新しい総理大臣さんは金本って人らしいね。何でも党内ではアニキって慕われているらしいけど・・・。あたしたちを下に見ない人なら良いんだけどね・・・。」
新しい総理大臣がどんな人か気になりつつも柚花たちは少しずつ店内の掃除を始めていく。